第57話 屋台散策 1

 ようやく足の着く場所へと降ろされた俺たちは、ホッと胸をなでおろした。


 「すまなかったな。下に降ろすのを失念していたのだ。」


 全く悪びれた様子のない白妙しろたえが勝の肩を叩きながら形だけの謝罪の言葉を述べている。


 いや。

 絶対悪いと思ってないだろ。

 この人。


 頭を抱え込んでいるしょうと苦笑いしている都古みやこの隣で、光弘みつひろだけが神妙な面持ちで白妙に小さく頭を下げた。


 「お前たちの宴だ。楽しんで行け。」

 「ありがとう!」

 「めちゃめちゃ嬉しい!」

 

 俺たちは口々にお礼を言い、隣で光弘も嬉しそうにうなずいた。

 白妙は困惑した表情で都古に助けを求めている。

 そんな白妙を都古はくすぐったそうに笑顔でただ見つめるだけだ。


 白妙って、あんまりお礼を言われたことがないのかもな。

 神妖たちのさっきの話からすると、実はかなりヤバイ奴みたいだし。


 「私がやりたくてやったことだ。礼はいらない。邪魔者はもう消えるぞ。」


 白妙は、そう言って神妖の波に紛れて行ってしまった。 


 「俺たちも早く行こうぜ!」


 白妙が行ってしまうと、俺たちはさっそく屋台へ駆け寄った。

 屋台の内容の豊富さに、俺たちは目を輝かせた。

 あまりの種類の多さに目移りしてしまう。


 しかも、祭とはいっても、白妙の開いてくれている宴とあって、どこの店も俺たちは無料なのだから、まるで夢を見ているようだ。


 「と、とりあえずみんな落ち着こうぜ!」


 一番浮かれあがっているであろう勝の提案で、俺たちは初めに定番の金魚すくいの店に入ることにした。


 「すんませーん。」


 『金魚』とかかれた看板をくぐり中に向かって勝が声をかけると、「あいあいよー!」と威勢のいい声がして福笑いの面にそっくりな顔をした神妖がポイを渡してきた。

 手は真っ赤な綺麗な鱗で覆われている。


 「何回でもやっといでな。」

 「ありがとうよ!姉さん!」


 勝は調子よく答えてしゃがみ込み、そして・・・・・黙り込んだ。

 なんで勝が黙ったのかは俺にもすぐにわかった。

 泳いでいる魚が本当に金色をしているのだ。

 しかも、よくわからない光を帯びていて妙に神々しい。


 その上、水の中にポイを入れ救おうとすると、この魚たちは文句を言ったり、悲鳴をあげたりするのだ。


 勝が変な顔をしてこちらを見つめてくる。


 「なんだろ。いろんな意味ですくいづらいんだけど。これ。」


 ホントに、勝の言う通りだ。

 水の中に手を入れるたびに「キャー!」とか「助けて―!」とか可愛らしい声で叫ばれたんじゃ、すくえないよな。

 ここで泳いでいる金色の魚って、まさか、全部神妖なのか。

 それに、ここに入っている水、水端みずはなから命逢みおへ来る時に通り抜けた白い壁の中と同じで、触っていると水の中に手を入れてる感じがするのに、外に出すと全然濡れてないんだよな。


 「なぁ、都古。ここの水って・・・・」

 

 都古に確認しようと、横を向いた俺の目に、信じがたい光景が映った。

 都古と光弘の2人が大量の金魚をすくい上げ、お椀の中は今にも飛び出さんばかりの金魚祭になっているのだ。

 すくわれた金魚たちも、お椀の中で「あら、素敵な方ね。」とか「惚れ惚れするわぁ」とか言って2人をほめそやしている。

 俺と勝とはえらい違いだ。


 自分も参加したいのだろう。

 光弘の横では、ゆいがパシャパシャと前足で水をかき混ぜていた。


 自分だって小鳥ほどの身体のサイズしかないのに、癒は勇気あるな。

 金魚のサイズがもっと大きかったら、逆に癒の方が襲われちゃいそうなのに。


 俺と勝は、意外にも度胸がある2人と1匹の姿をしばらく呆然と眺めていた。


 金魚すくいを終えた俺たちは、何か食べ物をもらいに行こうという話になった。

 水槽の中で、「どうしても光弘についていく!」と言ってきかない金魚が3匹で大騒ぎし始めたのを光弘が困った表情かおで見つめている。


「まぁ、普通の人の目には映らないし、こいつら水がなくても平気だからね。連れてってもらっても、あたしゃぁ構やしないよ。」


屋台のおかみさんは陽気に言うが、光弘は苦笑いを浮かべるだけだ。

どっちも折れそうにない雰囲気に、勝が助け舟をだした。


「またすぐに会いにくるからよ。」


そう言って光弘の肩を抱くとそのまま店から連れ出してしまった。


「さぁ、いよいよ屋台探検と行こうじゃないか!」

「俺らが知ってる名前だからって、同じ店とも限らないみたいだしな。手あたり次第覗いてくか。」

「だな。これだけの店があるとなると、全部食べて歩くわけにもいかないから、まずは下見だ!」


俺たちはにんまり笑ってお互いの手をはじくと、華やかな賑わいを見せる夜店の流れに飛び込んだ。

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