27話 「ミナミカイ港占拠」
ミナミカイの港が騒然とする。
蜂の巣を突いたように、右往左往するミナミカイ港のフォール海軍の水兵たち。
ティチュウジョ遺跡の影から、大量の軍艦の姿が現れていた。
「エンドール軍だ! 先頭の艦は、メリエス少将の旗艦だ!」
「後ろになんか、すごくドデカい船があるぞ! なんだあれは!」
メリエス艦隊の後ろに、超大型戦艦が航行していた。
あまりの大きさに、フォール海軍は度肝を抜かれる。
フォール海軍たちは、なすすべもなくエンドール軍の侵入を許していた。
ミナミカイ港に、次々やってくるエンドールの海軍たち。
港はエンドールの海軍が、次々と占拠していった。
その時にやってきたのが、ほとんどが元フォール海軍の軍艦ばかりだった。
主を変えて帰還してきた艦隊たち。
そこからエンドールの兵士たちが、次々とミナミカイ港に上陸してくる。
フォール海軍を驚かせた超大型戦艦は三隻現れ、港に向けて主砲を向けていた。
エンドール肝入りの超大型戦艦だったが、今回の海戦で使われることはなかったようだった。
フォール海軍の水兵たちが、あの戦艦と戦って果たして勝ててただろうかと、不安そうに話し合ってもいた。
フォールの水兵たちは、いっさい抵抗せずに、慌ただしく港を動き回るエンドール兵を他人事のように眺めていた。
抵抗する気持ちが、完全に失せているといった感じのフォール海軍。
「はぁ、終わったなぁ……。こんなにもあっさりエンドールの上陸を許すとはね」
「一発も砲撃もせずに、負けるなんてことがあるんだな……」
フォールの水兵たちが脱力しつついう。
「せめて一太刀でも抵抗しておきたかったが、こんな幕切れになるなんてな」
そう語るフォール兵の元に、エンドール兵士が現れて、武器を捨てて投降しろと命令してくる。
その命令に抗うこともなく、すんなり従うフォールの水兵たち。
一昨日前は、玉砕覚悟でエンドールに当たると息巻いていた水兵たちも、今は牙を抜かれた虎のように、すごすごと引き下がるしかなかった。
エンドールの兵士たちが、慌ただしくフォールの海軍本部だった建物内を走り回る。
会議室として使われていた部屋に、フォール警察が集まっていた。
部屋には進入禁止のテープが貼ってあった。
血溜まりの中に、大勢の死体が転がっていた。
その死体を見聞する、エンドールの士官たちとフォール警察。
死んでいるのは、フォールの相当高位な士官と思われた。
部屋に入ってすぐ目につくのは、死体ではなく床に描かれた「世直し旅団参上」という血文字だった。
「なんでこんなフォールの地まで、残虐旅団が出張ってきてるんだよ……。確かクウィンの新聞記者殺害現場でも見つかったんだよな」
「世直し旅団」の文字を見て、眉をしかめるエンドールの士官たち。
死体は部屋の中央に集められ、各々が椅子に座っていた。
死体の首はすべて切られ、腕と脚も同様に切断されていた。
切断された腕と脚と首は、椅子に腰掛けられた死体の足元に無造作に置かれていた。
デコレーションされた死体の中に、ひとりだけ兵士ではない人物の死体が飾られていた。
その人物が誰なのか、まだ判明していなかった。
身元不明な男は首をやはりはね飛ばされ、胴を肩口から胸部にいたるまで一太刀で切り裂かれていた。
相当な剣の腕がないと、できない殺し方に思われた。
何故かこの死体だけ左腕が、胴体についたままだった。
そこに、ミナミカイ港にさっそく乗り込んできたスワック中将が、ステー少将を引きつれて現れる。
スワックは、甘いココアを淹れたカップを手に持っていた。
部屋に入るなり飛び込んでくる、「世直し旅団」の血文字を見た瞬間、嫌な顔をしたふたりの将官。
「レニエ提督らしき人物の死体が見つかったってことだが、どこだ?」
スワックが血まみれの会議室に入ってきて、部下に尋ねる。
部下が、レニエらしき人物の首を指差す。
レニエの首は、椅子に腰掛けられた死体の上に置かれ、天井を睨むように置かれていた。
首を置かれた胴体は、別人のものらしかった。
この雑な行為、世直し旅団の連中の仕業に違いないとスワックは思う。
レニエたちの死体を眺めながら、胸の奥がムカムカとしてくるスワックとステー。
「本来なら戦火を交えたかもしれない人物たちとはいえ、このような形で面会を果たすことになるとはな。彼らの無念が聞こえてくるよ」
スワックが重々しい口調でいい、カップのココアを一口飲む。
「現場検証を早めてもらえないか? フォールの勇者に、いつまでもこんな状態でいてもらいたくない」
スワックは死体の側で、検死をしているフォール警察の鑑識にそう伝える。
鑑識たちはスワックにせっつかれるように、検死のペースを上げる。
「この男だけ部外者のようですが、何者でしょうかね。彼もフォールの軍人なのでしょうか?」
ステーが首のない、普段着を着た男の死体のそばに座り込む。
死体には首と脚、それと腕が一本なかった。
そんな死体をみていたステーが、ある点に気がつく。
「こいつだけ、小手をしておりますね……」ステーがポツリとつぶやく。
ステーのいうように、胴体と繋がっていた左腕に小手が装備されていた。
「この斬り落とされた腕も、小手だけ装備されてますね。この小手はなんなんでしょうね?」
「よくわからないが、なにやら禍々しいものを感じるな……」
ステーがしげしげと、切断された右腕に装備されていた小手を見つめる。
「この人物の首は?」
スワックが、カップのココアを飲みきってから鑑識に尋ねる。
「おそらくですが、この首になると思われます」
兵士が、ひとりだけ遠くに転がっていた、髪の毛を後ろで束ねた髭面の男の首を指差す。
「どれどれ……」
スワックとステーが、その死体の首をチェックしようとする。
兵士は後ろを向いていた男の首を、ふたりの将官に向けて動かす。
その首を見た瞬間だった。
絶句するスワックとステーのふたり。
「こ、これはいったい、どういうことだ……。何故、ケプマストさまがこんなところに!」
スワックが、床にカップを落として驚く。
床に砕かれたカップが散らばる。
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