18話 「ナモーデ医師の過去」 前編
カーナー市長から呼びだされたナモーデ医師が、ヨーベルの容態を診ている。
部屋の外で、リアンたちが心配そうにしている。
ヨーベルの発熱は、たびたび起こるため仲間も不安なのだ。
「あら、みなさん、おそろいで」
部屋からでてきた黒人看護婦のフェリコが、リアンたちに気づいて挨拶をしてくる。
「ヨーベルは大丈夫ですか?」
不安そうにリアンが、ヨーベルの様態をフェリコに尋ねる。
「心配ないわよ。ひょっとして、この前の風邪をしっかり治す前に、出歩いたのかしら? きちんと完治させる前に、そんなことするから彼女、こじらせちゃったみたいよ」
注意するようにフェリコがいってくる。
「ああ、そうなんだ……。じゃあ、やっぱりヨーベル無理してたんだね」
リアンが申し訳なさそうにいう。
「ねぇ、寝ていたら治るものなの? 本当にただの風邪なの?」
アモスがフェリコに対して、ちょっと疑り深い感じで尋ねる。
「二日は外出禁止でお願いね。病気には睡眠が一番なんだから」
そういいフェリコは、そばにいたジェドルンと何かを話す。
「しばらく部屋から、出さないようにしないとね」
リアンが眉を下げる。
「あの娘と常に一緒にいたけど、うつされてない? ミアリーあんたは平気なの?」
アモスがミアリーに訊く。
「わたし、意外と身体は丈夫みたいで」
「ふうん、それはほんと意外ね」
アモスがタバコの空ケースを握りつぶす。
そしてポーチから、新しいタバコを取りだしてくる。
「で、あの男が、いないようだけど? 仲間が苦しんでる時に、ヤツどこいったわけ?」
アモスがリアンから火をもらいながら、不満そうにいう。
「あいつってアートンか? あいつなら庭の手入れを手伝ってるぞ。そんなに目の敵にしてやんなよ」
バークが中庭を指差していう。
「はぁ? とても手伝ってるようには見えないけど?」
窓の外を指差して、アモスが不愉快そうにいう。
「ん?」とバークが中庭を見る。
アートンは、屋敷の若いふたりの執事と、改装工事の若い職人たちとで、ナモーデの乗ってきた車を興味深そうに見ている。
「なんなの? あの車は?」
高価そうな車を見て、アモスが煙を吐きだしながらフェリコに尋ねる。
「先生の車ですわ。珍しいでしょ? 先生自慢の逸品ですわ」
看護婦のフェリコがそう教えてくれた。
車はどうやらガッパー製らしかった。
ニカ研の最高級車だ。
フロント前面に取りつけられた、ガッパーの仮面のエンブレムが強く自己主張していた。
「あの先生、ずいぶん儲けているのね?」
アモスが興味なさそうにいう。
「そういえば、あの車のエンジンもニカイドっていう、謎の動力なんですよね?」
リアンが、いきなりそんなことをいってくる。
「ん? どうした?」と、バークが訊く。
「ほら、ニカイドってニカ研の一部の人しか、扱えないんでしょ?」
「みたいだよな」バークがうなずく。
「それって、ある種ハーネロの力と同じような気がしませんか? 存在してるけど、扱える人が限られる、みたいなところが」
「うん、まあ、そうだな」
リアンの言葉に、バークがいちおう賛同する。
「リアンくんは何がいいたいの?」
アモスがタバコを吸いながら、リアンに訊く。
「う~ん。なんていうか……」
しばらく長考するリアン。
「みんなの役に立つ能力として、扱われるニカイドがあって。片や、人々を不幸にする能力として、怖がられてるハーネロの力。……両方ってやっぱり元を辿っていけば、同じようなものなのかな? 結果として使う人が違うってだけで……」
リアンが自分の考えを、おぼろげながら語る。
「そうだな。レーナー教団は、その力を自分たちの野望のために使ったわけだな」
バークが腕を組んでいう。
「方やニカ研は、人類のために使っているんですね。やっぱりそれってすごいですよね」
ミアリーが感動したようにいう。
「ニカイドなんていう魔法の力を持ちながら、悪いことに使わないんですもの」
ミアリーの言葉に、バークは若干不安そうな顔になる。
バークは、ジャルダンでニカ研の人間らしき集団と出会って、その危険性を体験したのだ。
だからミアリーの言葉を、素直に肯定できないのだ。
だけどここでは、黙っておくことにした。
「ニカ研が、ニカイドの技術を限られた人にしか伝えていないのも、暴走を防ぐためともいわれているな」
バークが考え込みながら、リアンにいう。
「“ ニカビニング ”っていうんだっけ? その限られた連中って」
アモスが思いだしたようにいう。
「ああ、確かニカイドを直に扱えるっていう、数人の技術者だな」
バークが捕捉してくれる。
「その人たちが悪い人たちだったら、この世界は滅茶苦茶にされているのかもね」
リアンが自分の思っていることを語る。
しかし、バークは妙な間を開けて反応してしまう。
「……先代の創始者が、かなり立派な人だったらしいからな」
バークが遠くを眺めるように話す。
「でもさ、なんかいろいろ大きな事故も起こしてたり。訴訟問題山積みだったり、ずいぶん金に汚いって噂も多いわよ。安直にニカ研が、善良な企業とはあたしは思えないけどね! 例の島で出会った、あのデカ女がニカ研のだとしたら、なおさらよ!」
アモスが口元を歪める。
そこに、部屋からナモーデ医師が出てくる。
「先生、ヨーベルの様態は?」
アモスがすかさずナモーデ医師に尋ねる。
「今また、お眠りになられましたよ。ところで彼女、食事をちゃんと摂られていますか?」
ナモーデが不安そうに尋ねてくる。
「どうしましたか?」とバークが尋ねる。
「どうも、栄養面でかなり偏りがあるようです」
ナモーデが眉をしかめる。
「ああ、天然のふりして、意外と自分の容姿に気を使ってるあざとい娘だからね。プロポーション維持するために、いろいろ食事制限しているみたいよ」
アモスがニヤリと笑いながら、若干馬鹿にしたようにいう。
「なるほど、仕方ないとはいえ、ちょっと心配ですね。みなさんは長いお付き合いなんで?」
「それほど、長くはないですねぇ……」
ナモーデの質問にバークが答える。
「これから彼女の食事は、よく観察してあげてください。偏食になっていないかとか、好き嫌いが多くないかだとか。今のままの感じでは、体調がますます悪化しますよ」
「そんなに深刻だったんですか?」
ナモーデの言葉にバークが不安そうに訊き返す。
「本来彼女の体格なら……。おっと、男性がいる前でこういう話しはあれですな」
「そ、そうですね……」
バークがいいにくそうにナモーデに返答する。
「とにかく、もっとしっかり食えってことね?」
「まあ、平たくいえばそうなりますね」
アモスの言葉を肯定するナモーデ。
「任せときな、これから飯残したら、全部詰め込むまで解放しないようにしてやるわ」
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