14話 「ライ・ローへのニュース」 後編

「話しは変わりますが、例の一件はどうなりました?」ハイハが訊いてくる。

「例の件というと?」

「クレシェドさんのご令嬢の件ですよ。その後、何か判明したことがありますか? 個人的に興味があるんですよね、この一件」

「それがどうも妙なんだよね。あのあと関係者さんたち、急にだんまりを決め込んじゃってね。何もいわなくなっちゃったんだよ」

 困ったようにライ・ローがいう。

「市長さん、一連の事件に関してノーコメントを貫いていますね。頑なに」

 ハイハが報道されている、クレシェド市長の様子を思いだす。

「ミナミカイに行ってしまったお嬢さんと再会できるまで、何もいわないといっていてね」

「その件、狂言誘拐ということは判明してるんですよね」

「ああ、それは間違いないよ。報道は伏せているけどね」

 そういったあと、ライ・ローが足を止めて考え込む。


「どうしました?」

「……うん、あの件以来なんだけどね。どうも軍も歯切れが良くなくてね。スワック将軍なんか露骨に、この話題を避けててね。いったい何が理由なんだろうか……。エリミートくんに、新しい情報を入手したら持ってきて欲しいとは依頼しているんだけどね。彼、異動させられたというからね」

 ライ・ローが腕を組み、ささやくようにつぶやく。

「わからないことといえば、例の軍人殺害事件ですが、そこにハールアムの言葉を記したメモが残されていたんですよね?」

 ハイハが、先日殺害されたクレッグ・チルという軍人について話題を出す。

 死体の側に、ハールアムの存在を示唆する落書きが残されていたという。

「そうだね。この件、イタズラだったらいいんだけどね。でも実際人が殺されているからねぇ……。困ったもんだよ。ハーネロ神国絡みが堂々と登場してくるなんてね。例のアートン・ロフェスという人物が、ハーネロと何かしら接点があるなんて展開は、勘弁してほしいところだよ……」

 ライ・ローが腕を組んで考え込む。

 窓の外に広がる、カイ内海をライ・ローが眺める。

 その視線の先には、海上に浮上してきたティチュウジョ遺跡が存在していた。



 キタカイの街の北側郊外。

 そこに警察車両が集結していた。

 警官が動き回る中、四人の部外者がそこにいた。

 警察が胡散臭そうな表情で、その四人の部外者を眺めている。

 そこには一台の、ボロボロの車が停車されていた。

 車の朽ち具合から、放置されているような印象だった。

 その周辺に、警察官が大勢集まっていた。

 現場検証をしていた鑑識たちが、待機させられ集まっていた。


 警察関係者ではない四人の部外者たちは、放置された車の側の穴に注目していた。

 この場所だけ地面の感じが違ったので、掘り進めてみたら、あるものを見つけることができたのだ。

 穴の中からは、銃器の詰まったアタッシュケースと、まがまがしい印象を与える鋭利なナイフが見つかったのだ。

「見つかったのはゲンブの持ち物だけか?」

 部外者のひとりキネが、もうひとりの部外者のツウィンに尋ねる。

「犯人の遺留品なのかは不明だが、見たことのないナイフが見つかったよ。ほらよ、これがそうだ」

 角型にセットした髪型を、いじりながらツウィンがナイフをキネに渡してくる。

 ナイフの刃先をじっくりと見つめるキネ。

「こんな形のナイフははじめて見るな……。見たことあるか?」

 キネが、シャッセにナイフを見せる。

 首を振るシャッセ。

 キネがナイフを、後ろにいたワンワンに渡してやる。


「ふむ……、銃器の遺物からは何も感じない。だが、このナイフからはおどろおどろしい邪念を感じるよ。怨恨が刃物に移り込んでいやがる。相当な人間を殺してるな、このナイフは。そして、この軽薄な印象は……、ケリーな感じがする……」

 霊視ができるワンワンという男が、穴の中から掘り出された鋭利な刃物を手にしていた。

「おまえの感知に引っかかるってことは、やっぱりあの三人、殺されたと考えるべきか……」

 キネがワンワンに尋ねると、彼は深く一回うなずく。

 キネが考え込む。

 ツウィンがワンワンからナイフを見せてもらう。

「こんな得物を持つヤツにやられたってことか……。犯人はどういうヤツなんだ。相当凶悪なヤツなんじゃないか?」

 ツウィンがナイフをワンワンに返す。


 いきなり現れ、現場を荒らすかの勢いで乱入してきた四人の男について、現場の警察は不満だったが上の判断で派遣されたと聞き、仕方なく好きにさせていたが、それでも納得できない現場の警察たち。

 胡散臭そうな四人を遠巻きに眺めるしか、今はできなかった。


「銃器だけでなく、死体も一緒に見つかるかとも思ったが、それは見つかっていないんだな」

 キネが車の中をチラリとのぞく。

「殺されたというのは、ほぼ間違いないだろうが、どこで殺されたのか……」

 穴の中から現れた、アタッシュケースを空けながらツウィンがいう。

 アタッシュケースの中には、大量の銃器が入っていた。

「しかし武器を遺棄するなんて、妙な連中だな。犯人どもには、もう必要ないのか? 希少価値のありそうなナイフを捨てたのも、理解不能だしな……」

 キネが腕組みしながら、現れた銃器を見ながらいう。

「ここに銃器を残すのはいいとしてだ、あの車はどうしたんだ? ゲンブのヤツ、目立つ車に乗っていただろ。なんでこんなボロい車にグレードダウンしてるんだよ」

 シャッセが疑問を口にする。

「目立ちすぎる車だから犯人ども、どこかで乗り捨てたんだろう」

 キネがそう予想する。


「ここに残されたこの車の所有者は、現在調査中らしい。こっちは、案外すんなり見つかりそうな感じだな」

 ツウィンが考え込みながら話す。

 視線の先に、放置して乗り捨てられた古くさい車があった。

 警察、鑑識の胡散臭げな視線を感じるが、ツウィンはそれをスルーする。

「しかし、ゲンブたちはいったいどこに消えたんだ。厄介な事態に巻き込まれたのは確実なんだろうが……」

「ワンワンがいうんだから、やはり最悪の事態を考えておかないといけないな……」

 キネとツウィンが、自分たちを邪魔者扱いしている警官官たちの視線を、一斉に受けながら現場を堂々と歩く。

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