14話 「ライ・ローへのニュース」 前編
ひっそりとした廊下をライ・ローが歩いていた。
目的地が定まっているようで、彼の歩調はしっかりしていた。
普段はトロトロとした緩慢な動作のライ・ローだが、今日は別だった。
「おとうさん!」
そう呼ぶ声がして、ライ・ローが振り返る。
そこには、グレーのスーツを着込んだハイハの姿があった。
ハイハはサルガの一員で、一番若い構成員だ。
おとうさんといったが、ハイハは別にライ・ローと血縁関係はない。
「エンドール本国から面白いニュースが、ふたつほど入ってきましたよ」
ハイハが新聞を手にして、ライ・ローの側によってくる。
「ほう、どういったニュースですか?」
ライ・ローが自分の丸眼鏡を軽くいじる。
長くフォールにいたので、祖国エンドールのニュースには興味を惹かれるのだった。
「野党の大物議員にスキャンダルです」
ハイハの言葉に、ライ・ローが足を止める。
「スキャンダル?」
「はい、ハーネロ神国のバケモノを、かくまっていたとのことです」
「それって、ハーネロンのことかい?」
「はい、それです」
ハイハの言葉を受けて、ライ・ローが考え込む。
「この時期にエンドール国内でも、ハーネロン絡みですか……」
「この事件には、さらにつづきがあります。ネバーランの村という場所出身のエイチェランド議員というのですが、拘束されて移送される際に、襲撃を受けてつれさらわれたそうです」
「つれさらわれた?」
ハイハの言葉に驚いて、ライ・ローが記事をのぞき込む。
「犯人は、エイチェランド議員の息子とその仲間らしく、徒党を組んで移送途中のエイチェランド議員を乗せた車を襲撃してきたそうです。その際に警官がひとり死亡したそうです」
「ふうむ、とんでもないことを、やってくれたものですね……。若さ故の暴走にしては、大事すぎますね」
「まったくです。犯人の息子とその一味は、議員奪還後西に逃走して、現在警察により全力で追跡されているようです」
「エイチェランド議員といえば、野党の実力者ですね。その失脚は、政権与党のデジャネルさんにとってはよろこばしい展開でしょうね」
記事を読みながら、ライ・ローはまた眼鏡をいじる。
「こんな形で政敵が退出してくれるわけですから、デジャネル政権の基盤がさらに強固になりますね」
ハイハが別の記事も出してくる。
「そして、もう一件のニュースがこれです。こちらは笑えるニュースです」
「なになに? オーニン議員、議会に糞尿をぶちまける? なんですかこれは」
「文字通りのニュースですよ。国会内で牛の糞尿をまき散らして、その存在をアピールしたそうです。この人は毎回こんなことばかりでしか、話題にならないですね」
ハイハが笑いながらいう。
「でも、声がデカいというのは、政治家としては有利ですよ」
ライ・ローが記事をハイハに返す。
「僕の記憶が間違いじゃなければ、このオーニン議員って、かつてはデジャネル首相と蜜月関係にあった人物ではなかったですか? 何故今は、反目しあっているんでしょうか?」
「意見の相違なら、政治の世界では日常茶飯事でしょう。きっと何かしらトラブルが発生したんでしょうね」
ライ・ローが歩きだしながらいう。
「反目しなければ、このオーニン議員も与党内で要職に就けていたでしょうにね」
本人ではないのに、何故か悔しそうな表情でハイハがいう。
「今は泡沫野党のひとりでしたっけ。でも、存在感はなかなかです」
「存在感といえば、レーナー教団のフープという人物も、声がデカい人で有名だったらしいですね。リットという民族に誇りを持ち、何かにつけてそれを主張してくる、厄介な民族主義者だったようですね」
ハイハが、ちまたで噂される逸話を口にする。
「レーナー教団の、ですか……」ポツリとつぶやくライ・ロー。
「本人はリットのためにと、やっていたらしいですが、それをやりすぎて煙たがられていたようです。選挙区内でも厄介者扱いされて、選挙も落ちたそうですね」
何故か、ハイハはうれしそうにいう。
「そんな人物が、レーナー教団の首魁なわけですね。此度の行動、怨恨が原動力だとしたら、厄介な話しですね」
ライ・ローが記事の中から、レーナー教団の話題を見つけて話す。
「現在はまだ反旗を翻しただけで、実質何もしていないレーナー教団ですが、今後が怖いですね……」
「彼ら、テンバールのザイクロの力を持つ、といわれてもいますね」
ハイハが一転、険しい表情でいう。
「そのあたりの情報は、フォーンくんとウタくんの報告待ちだね」
ライ・ローが、独断でリットに渡ったふたりの仲間のことを話す。
「じゃあ、僕のほうからもひとつ情報を提供しようか」
ライ・ローが含みを持たせたようなことをいい、ハイハが興味を持つ。
「長くマイルトロン内で活動していた、メイトリーンくんがフォールにやってくるという話しになっているんだよ」
「メイトリーンさんが、ですか? そりゃまた厄介な人が合流しますね。あの人は平地に波瀾を起こすような人ですよ。うちのメンバーと、また揉め事が起きないといいんですが……」
ハイハが、やや不安そうにいう。
過去、何度か衝突をしたことがある人物の名前を聞き、ハイハは困惑したような表情になる。
「そういえば、こういうニュースも届いていますよ」
ライ・ローが、思いだしたように口にする。
「どんなニュースですか?」
ハイハが尋ねる。
「ヒュルツという海辺の村で、正体不明のモンスターが現れているという話しです。なんでも白い竜のようなバケモノらしく、上空を優雅に飛び回っているそうですよ」
「白い竜ですって?」
ハイハがライ・ローの言葉を聞いて驚く。
「その竜の上に、謎の老人がまたがっているとの目撃情報もあるんだとさ。高笑いを発するその老人は、まるで仙人のようだといわれているよ」
ライ・ローが新聞記事をまとめながらいう。
「ニュースにはなっていないのですか? その竜の話題は」
「まだ報道にはなっていないね。今のところ伝聞として伝わってる感じだね。なんでも、ヒュルツの村に行った人たちが目撃したそうでね。しかも一度ではなく、二度三度と目撃されてるそうだよ」
「へぇ……。興味のある話しですね。そんな珍しいものなら是非とも目にしておきたいですね」
ハイハが目を輝かせていう。
「マイルトロン領に現れつづけている野良ハーネロン問題といい、この白竜といい、なにやらきな臭い感じが漂っていますね。リットではテンバールのザイクロの術を扱う集団もいるとのことですし……。人外の要素が多くなってきて我々一般人にとって、もてあまし気味ですよ」
ライ・ローが深いため息をついて、言葉を吐きだす。
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