12話 「リットの不安」 後編

「信者どもは、こんなのをありがたがっているの?」

 アモスが胡散臭そうに訊く。

「実際、癒やし作用があったんだよ」

「癒やし効果ってのは、どういうものなのよ?」

「幻覚作用だね」

 キッパリと答えるフォード。

「なんだよ、麻薬みたいなものなのかよ」

 アモスが、興味深そうな顔をして木を見る。

「それだけでなく、治癒効果も実際あるみたいだよ」

 生死に関わるような重症が、レーナーの苗の効果で完治した。

 そんな胡散臭い記事を、リアンたちは読ませてもらう。

「これホントなの?」

 眉唾そうな記事に、アモスが疑るように訊く。


「でも、時間が経つと、ほら、この通りさ。ひょっとしたら、信心が足りないとこうなるのかもしれないけどね」

「なんか、笑えない冗談ね」

 不愉快そうにアモスが煙を吐きだす。

「いずれにせよ、この森を使った能力を連中は使うんだ。そして、それは間違いなく、ハーネロ神国のテンバール、ザイクロと同じ力なんだ……」

 フォードが、植木鉢を元あった出窓に直す。

「連中はどうやってその力を?」

「それだよ」

 アートンの言葉に、フォードが指を鳴らす。

「実は、それがまったくわからないんだ。レーナーの巫女だけが、最初はその力を使っていたんだが。いつの間にか、その能力が身内に広まっているんだ。どこで身につけ、どう伝えたのか。それらがまったく不明なんだよ……」

 フォードが困惑しように記事を眺める。


「考えられるとしたら、昨日話した……」

「遺跡から、技術を復活させたってことですか?」

 フォードにリアンが尋ねる。

「うむ……。その可能性が、現在一番高いとは思っているよ」

 フォードが腕を組んで、リアンに話しかける。

「ひょっとして、ピーグロアドの能力を解放しようとするのは、彼らに対抗する手段としてなんですか?」

 リアンがそんな予想を口にする。

「能力者バーサス能力者! そんな妖怪大戦争みたいな展開!」

「すごいです!」

 ヨーベルとミアリーが興奮する。

「いや、昨日いった通りさ。わたしたちは、あくまでも管理する立場だよ。それに、まだピーグロアドの能力が開放できるとは、決まったわけじゃないからね」

「なんだぁ。つまんないわね」

 フォードの言葉にアモスが悪態をつく。


「もし、レーナー教団が、遺跡から技術を開放する方法を知っているとしたら。ピーグロアドの能力まで、解放されたらたまらないだろ? わたしたちの目標は、まずは遺跡を調べ、それがどういうものかを解明することなんだ。それから、しかるべき処置を考えていくつもりなんだよ」

 フォードがデスクの椅子を引き、それに腰掛ける。

「そんな悠長なこといってていいの? 相手は、ハーネロ神国の技術を持った連中なのは確実なんでしょ? その力で何するかわからないんでしょ? どうにかするなら、こちらも力を手に入れて、最悪の事態になる前に先制攻撃するぐらいの気概でいかないとさぁ。その度胸は、あんたたちにはないの?」

 アモスが挑発するように、フォードに対しても煙を吹きかける。

「いやはや、気が強いお嬢さんとは思っってはいたが、それ以上だね。フフフ、君たちも苦労してそうだね」

 フォードが煙りを手で払いながら、バークたちを見る。

「ああ? どういうことよ?」

 挑戦的なアモスを、リアンがなだめる。


「現時点では、まだこちらサイドの足並みもそろっていなくてね。遺跡の解放という危険な行為に発展する可能性もある上、時期が時期。しかも眼前にエンドール軍まで迫ってる。フォール王国は内憂外患、まさに最悪の状態だからね」

 フォードがお手上げだといわんばかりに、落胆したようにいう。

「現時点で、レーナー教団の動きはないのですか?」

 リアンが挙手してフォードに尋ねる。

「まだ動きはないよ」と、フォードが教えてくれる。

「この人たちは、怖いこといっぱいしてくるのでしょうか?」

 ヨーベルが記事に映るレーナー教団を、指差しながらフォードに質問する。

「それも不明だけど、まだ実際に何かをされたという報告も届いていないね。力を使い恐怖政治をしている感じでもないが、今後どうなるかはわからないよ」

 そういうと、フォードもタバコを取りだす。

 一本を口にくわえると、ヨーベルがすかさずフォードのタバコにも火を点ける。


「これはどうも。……レーナー教団側も、この戦争の行方を今は静観している感じだよ」

「教団、けっこう理性的に動こうとしてますね」

 アートンがポツリとつぶやく。

「だな。彼らも自分たちの能力が、両刃の剣ということを自覚しているということでもあるよ」

 フォードは、煙を旨そうに吐きだす。

「でも、この人も綺麗な人ですね」

 リアンが、他の記事からレーナーの巫女の写真を見つけてくる。

「あらやだ、リアンくんのスキル、女漁りが発動したわよ」

「な、なんですかそれは……」

 アモスの言葉にリアンが狼狽する。

「ほう、きみはそうなのかい?」

 フォードがうれしそうに尋ねてくる。

「なかなかのジゴロっぷりよ。将来怖いわ」

「そんなことないですって!」

 アモスに反論をするリアンの頬は、赤くなっている。


「リアンくん、純愛が一番ですよ!」

 ミアリーが、リアンを諭すようにいってくる。

 その言葉に、アモスが何故かニヤニヤする。

「写真にはふたり写っていますが、どちらがレーナーの巫女って呼ばれているんですか?」

 リアンが指差した写真には、ふたりの女性が並んでいた。

「ふたりとも、巫女さまと呼ばれているみたいだよ。謎の癒やし姉妹というのが、最初のキャッチコピーみたいだったようだよ」

 フォードがそう教えてくれる。

「二年前の記事ね。そのぐらいに、こいつらが現れたの?」

 アモスが新聞の日付を見ていう。

「メディアに登場しだしたのは、その時期だね」

 フォードがそう答える。

「あの木は、いつもらってきたんですか?」

「一年ぐらい前かな?」

 リアンの質問にフォードがいう。


「当時はまだ、こじんまりとした建物でひっそりとやっていたよ。そういえば、わたしが行った時は……。どちらの女性が応対してくれたんだっけかな? この記事の写真では、当時とかなり印象が変わってるから、どちらかわからないな」

 フォードが記事を見ながらそう話す。

「で、このふたりの正体はわかってるの? 急に現れたってことはないわよね」

アモスがレーナーの巫女の出自を尋ねる。

「戸籍は当然あるだろうが、今はもう調べようがないからね。リットに元から住んでいた人物には、違いないとは思うよ」

 写真に映る、遠景のふたりの巫女の姿をフォードが見つめる。

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