12話 「リットの不安」 前編

 バークが、机の上に集められていた記事の束を見つける。

 バークが、なんとなくそれを一部手に取る。

「リットのレーナー教団に関する記事を、集められているのですね」

 バークがフォードに確認する。

「気になるかい? レーナーについても知っていることを教えてあげようか」

 フォードが、そんなことをいってくる。

 フォードは記事を一部取ると、その紙面を見せてくる。

 記事には「レーナー教団の恐るべき軍勢!」と、センセーショナルに書かれていた。

 記事によると、レーナー教団の使う能力が、まんまテンバールのザイクロというバケモノと同じものなのだという。

「ザイクロねぇ。ハーネロ戦役の登場人物にそんなのもいたわね」

 アモスが記事を見つめ、タバコを取りだす。

 リアンがタバコを控えるように、アモスの袖を引っ張ったが、フォードから喫煙の許可をもらう。


 アモスは礼をいうと、一本をくわえる。

 さっそくヨーベルが、アモスのタバコに火を点ける。

 こういう時だけめざとく動けるヨーベル。

「そもそも、レーナーの巫女ってのは何者なのよ?」

 アモスが煙を吐きだしながらフォードに尋ねる。

「元は祈祷師のような存在だったらしいよ。不思議な力で人々を癒やしてやったりしてたみたいだよ」

 フォードが、比較的古い記事を出してきて教えてくれる。

 記事には、レーナーの巫女を遠くから写した写真が掲載されていた。

 レーナーの巫女といわれるのはふたりいたらしく、ふたりの女性の姿があった。

「人々を癒やしてたヤツらが、どう転んだら反乱軍になるのよ……」

 アモスが呆れたようにつぶやく。

「我々の予想では、やはりザイクロの力を手にしたからだとしか思えない」

 フォードがバークから記事を返してもらい、次の記事を探す。


「人を癒やす力ってのは、ザイクロの力とは別物なんですか?」

 リアンが尋ねると、フォードの見せてくれる記事をのぞき込む。

「そこは不明なんだよ。でも、同じザイクロの力ではないかといわれているね」

「評判で人が集まってきて、規模が大きくなってきたから、ある時期に軍団化に走ったのかもしれないですね」

 アートンが人差し指をまた囓りながらいう。

「そんな感じだろうと、わたしも思うよ。今年の頭ぐらいから、リットに怪しげな軍団が現れだしたという話しだよ」

「この連中の首魁は何者なんですか? どうも巫女ではなく、このフープという男らしいですが」

 バークが記事を読みながら、興味深そうにフォードに訊いてくる。

「元政治家ってありますけど、本当なんですか?」

 リアンが驚いたように記事を見る。

「フープさんは、前期までは議員だったよ」

「何よ、落選した腹いせで、反乱でもしたっていうの?」

 フォードの言葉に、アモスが煙を吐きだしつついう。

「フフフ、今となっては、彼の気持ちまではわからないよ」


「レーナーの巫女ってヤツだけなんでしょ? 怪しげな能力を使うのは」

 アモスがフォードに質問する。

「それだったら、どれだけいいか」

 そういってフフフとフォードが笑う。

 フォードの不敵な笑いに、アモスはちょっと不愉快そうな顔になる。

 八つ当たりとして、アートンに向けてタバコの煙を吐きかける。

「この巫女さんだけ、じゃないんですか?」

 ミアリーが目を輝かせて訊いてくる。

「軍団の指揮官クラスは、全員能力を扱えるという話しみたいだ。だからこのフープという元政治家の男も、能力者らしいよ」

「そんなにも能力者がいるんですか!」

 フォードの言葉に、リアンが驚く。

「能力者のバーゲンセールのようなありさまだよ」

 フォードがニヤリと笑いながらいう。

「その能力者たちが軍を組織して、反旗を翻したってことか。この国でハーネロ神国時代の能力を、露骨に出してくるとは相当な覚悟があると見えるな」

 バークが、記事を読みながら腕を組み替える。


「でさ? 具体的にどちらに対してこいつらは反乱してるのよ? フォールなの? それともエンドールに?」

 アモスが、レーナーの巫女の写真を見ながら訊いてくる。

「今の段階ではフォールに対してらしいよ」

 フォードが、何故か口元を歪めていう。

「フォールなんてもう死にかけじゃん? この混乱期に乗っ取ってやろうっていう魂胆?」

 アモスがタバコを一口吸いながらいう。

「かもしれないね。でも、その真偽は不明なままだよ」

「でも、彼らもエンドールの侵攻を知らないわけでもないだろ? まさかエンドールともやりあう気でいるのか?」

 アートンが、記事をにらむように眺めながらフォードに訊く。

「その可能性が、今のところすごく高いんだよね」

「あら、能力者の軍団とエンドール軍が、戦うっていう激熱の展開が今後見れるの?」

 途端に、アモスがうれしそうにいう。


「具体的にザイクロの能力って、どういうものですか?」

 リアンが、興味深そうな感じで訊いてくる。

「この木がそうだよ」

 出窓にあった、怪しい植木鉢を移動させてくるフォード。

 その木は葉が黒く、幹まで黒くてねじれまくっており、なんだかおどろおどろしい感じだった。

「なんなのこれ?」

 全員が一斉に謎の木に注目する。

「ザイクロの能力は“ 森 ”。その名の通り、木を使うのさ」

 フォードがニヤリと笑って教えてくれる。

「木?」リアンが不思議そうに、フォードが持ってきた木を眺める。

「これが、その能力で作られた木さ。これを自由自在に生成できたんだ」

 フォードが木を指差して教えてくれる。

「何もないところからこんな木を出せるなんて、なんかそれは便利な能力だな」

 アートンが、木をしげしげと眺めながらいう。

「薪集めが捗りそうですね~」

 ヨーベルがニコニコして、木の葉っぱを指でチョンと触れる。


「フフフ、匂いをかいでごらん?」

 フォードにいわれ、木の匂いをかぐヨーベルとアモス。

「くっさ! なによぅ、これ!」

「ひどい臭いです!」

 アモスとヨーベルが、木の臭いに鼻をつまむ。

「ん? ちょっと離れると何も臭わないわね……」

「あれ? ほんとですね、臭くないですね~」

「どうだい、不思議な植物だろう?」

 鼻をつまんでいるアモスとヨーベルに、フォードが笑いかける。

「燃やせば、この木はさらに悪臭を放つよ。あとは枝を折ったりしてもね」

「まるで、感情を持っているかのようですね……」

 バークが木を眺めてつぶやく。

「まったくだよ、実践してみてもいいが、どうする?」

 ライターを取りだしてきて、フォードが木に火を点けようとする。

「え、遠慮しておきますよ……」

「フフフ、賢明だね。わたしもこの部屋が使えなくなるのは困るからね」

 バークに不敵に笑いかけて、フォードはライターを胸ポケットにしまう。


「この木が森となって、ハーネロ神国建国初期、大地に無数に現れたんだよ」

 植木鉢を指ではじきながらフォードがいう。

「昨日いったよね。彼らの能力で大地が荒廃したと。その原因が、この木で覆われた森が原因さ。土と水を腐らせ、大地を使い物にできなくするんだよ……。伐採したり燃やそうとすれば、悪臭が撒き散らかされる……。厄介だろ?」

 フォードは、何故かうれしそうに話す。

「ひゃあ、迷惑極まりない力だな……」

 木の臭いを嗅いだバークが、鼻をつまみながらいう。

「ところで、この木はどうやって入手したんですか?」

 鼻をつまんだリアンがフォードに尋ねる。

「以前、まだレーナー教団がそれほど大きくなかった頃に、もらいに行ったんだよ。人々を癒す苗として有名だったんだよ。レーナーの巫女の生む、これは」

 臭いを嗅ぎたがっているミアリーに、フォードが植木鉢ごと移動させる。

 臭そうに鼻をつまむ、ミアリーを見てフォードがニヤリと笑う。

「それが、数ヶ月でこの変わり様さ。最初は小さくて弱々しい、一本の苗木だったんだけどね」

 おどろおどろしい幹と黒々とした葉っぱを広げている、怪しい木をフォードが指差す。

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