7話 「就寝」
リアンが寝室で寝ていた。
突然パチリと目が覚めて、ムクリと起き上がると時計を確認する。
深夜の二時をまわったところだった。
そして荷物の中から、例の棒を手に取ってみる。
「遺跡の力を蘇らせる時に使う道具。ディプアかぁ……。やっぱりこれも、ディプアっていうものなんだろうか? どうしてあの人は僕にこれを……」
遺跡内で、脳みその姿をした、おそらく遺跡の主らしき人物からもらったことを思いだすリアン。
「やっぱりあの脳みそが遺跡の主さん、なんだろうね。どうして僕を誘って、この棒くれたんだろう? それに、僕あの主さん知ってるような気もするんだよね……」
リアンは例の遺跡で見た、肖像画の人物に心当たりがあったような気がするのだ。
リアンが、例の棒のボタンを押してみる。
棒の先端から青白い光が放たれ、リアンの顔が照らされる。
リアンは無言で光を眺める。
「これチックに見せたら、よろこぶだろうな」
リアンはベットの上に横になる。
そして、故郷の友人の顔を思いだす。
別れてからたいして時間が経っていないのに、何故かその姿が消え去りそうなほど、おぼろげに浮かんでる友人。
リアンは天井を見ながら、別れた友人ならきっと僕の冒険談を知ったらよろこぶだろうなと思った。
時間は少しさかのぼる。
「明日ですか?」
バークがフォードに驚いたように尋ねる。
「ああ、カーナーとは話しをもうつけているよ。ずっとこの屋敷に閉じこもっているのも、退屈だろう? 街を散策するついでに来たらいいよ。場所はさっき渡した名刺にも書いてあるから」
怪しげな陳列物が並ぶ、地下室から戻ってきたリアンたち。
フォードから自分の屋敷に来ないかと誘われ、地図をもらう。
地図には、フォードの事業所への道筋が書かれていた。
「あんたの屋敷も、ガラクタだらけなの?」
アモスが怪訝な顔をして、フォードに尋ねる。
「ここほどではないが、協力をお願いする遺跡に関する資料や遺物は、けっこうありますよ」
「確認ですが、遺跡を調査するっての、断ることも可能なんですね」
不安そうにバークがフォードに訊く。
「そうだね、残念だけど無理強いはできないからなぁ。そうなった場合は別の候補者を探さないとな。危険は、それほどないとは思うんだけどね。わたしのような老人でも大丈夫な場所だよ。ティチュウジョ遺跡から、帰ってきた君たちなら造作もないとは思うよ。謝礼として報酬もきちんと渡すし、その後のこともいろいろ便宜を図らせてもらうよ。決して悪い話ではないと思うぞ」
全員が廊下に出てきたのを確認したフォードが、隠し扉のカギをかける。
「きみたちは、エンドールに接触するのはマズい立場なんだろ? 詳しくはまだ知らないが、そのあたりも正直にお話ししてくれたら、絶対協力可能だよ。よ~く考えてみておくれ」
フォードが口角を怪しげにつり上げていう。
「なんか無理強いを、させられてるような感じね!」
アモスが不満そうにフォードにいう。
その後、バークはフォードにも、カーナー市長に話したのと同じぐらいの内容の、身の上話をするのだった。
エンドールの獄門島から流れてきた等、サイギンに不本意ながらやってきた経緯。
それらを興味深く、フォードは聞いていた。
フォードからの誘いの場面を、思いだしていたリアンの意識が戻ってくる。
「ピーグロアドか……。なんだろうかな? あの綺麗な絵の人も、どこかで会ったような気がするのは気のせいかな? ティチュウジョ遺跡の主さんといい、ピーグロアドっていう人といい……、どこで知り合ったんだろうか……」
リアンはピーグロアドとされる、美人な女性の肖像画を思いだす。
誰かに似ているような感じがするのだが、それが誰だか思いだせずにいた。
ハーネロ神国の大幹部は、一般的に「テンバール」と呼ばれていた。
ピーグロアドも、その「テンバール」のひとりだった。
「テンバール」は、人知を越えた怪しげな術を使う大魔道士として、その悪名を広く知られていた。
リアンがテンバールについて思いだしていると、窓の外から物音を感じる。
リアンがベッドから降りると、そちらを見てみる。
すると、中庭の彫刻の足下に穴が開き、そこから男が出てきている最中だった。
「え? 誰? あれは……。あんなところにも隠し扉?」
地面に開いた穴をふさぐ謎の男。
地面の隠し扉から出てきたのは、髭面の中肉中背のやや小柄な男だった。
男はその場に座り込み、夜空を見上げる。
リアンは身を潜めて男を観察する。
男は座禅を組むと、そこで瞑想をはじめたかのように動かなくなる。
ピクリとも身体を動かさずに、男は座り込んでいる。
「あの人が、このお屋敷の隠れ客人なのかな?」
昼間、改装業者のバーリーがいっていたことをリアンは思いだす。
確か屋敷には、もうひとり客人がいるとのことだった。
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