8話 「もうひとりの客人」

「ケプマスト! ケプマストってあのケプマストですか?」

 アートンが驚いている。

 朝食の際に、リアンが昨夜中庭で見た男のことを話したのだ。

「そうですか、ハハハ、彼にもお会いしたのですね」

 ジェドルンが笑う。

「いや、見かけただけなんですが。で、ケプマストって誰ですか?」

 リアンがジェドルンに訊く。

「ねぇ、この屋敷あと何人、そういう隠しキャラ飼っているの? 他にもいるの? いるなら全部教えといてくれない」

 アモスがジェドルンに不満そうにいう。

「わたしも隠しキャラ探したいです~」

 ヨーベルが相変わらず脳天気そうにいう。

「わ、わたしも探したいです!」

 ミアリーもヨーベルと同じように挙手している。

「ケプマストさまで最後ですよ。他にはいないのでご安心を」

 ジェドルンの言葉に、ヨーベルとミアリーがちょっと残念そうにしている。


「なんだか黒髪の小柄な女性もいるかもって、職人さんがおっしゃっていましたが」

 ミアリーが尋ねる。

「はて、それは、こちらのお嬢様のことではないのですか?」

 ジェドルンがアモスを示す。

「そんなことより、ケプマストって何者よ? 教えなさいよ」

 アモスがジェドルンに尋ねる。

「アットワーヌ流剣術の最強剣士? これまた胡散臭いのがでてきたわね。っていうか、アットワーヌってエンドールの流派じゃないの? フォールじゃレアなんじゃないの」

 アモスが眉間に皺をよせていう。

「その人は、エンドールの人物ですよ。しかも王族だって話しです。王位継承権三位の偉い人と聞いてますね。今回の戦争で、最前線で戦っていたらしいですよ」

 ジェドルンがそう教えてくれる。

「なんでそんな偉い方が、ここにいるのですか? 王族? エンドールのですか?」

 リアンが驚きつつ、不思議そうに尋ねる。

「クウィンの戦いで、フォールの捕虜になられたのですよ」

「そんな話しははじめて聞くな。そうなのかい?」

 バークがジェドルンに訊く。


「どういった経緯で、捕虜になられたのかは、わたしも存じませんが。客人として、こちらでお預かりさせて頂いていますよ」

「監禁しているわけではないのですね」

 アートンが腕を組んでいう。

「高名な剣士さまであられる前に、エンドール王国の王子さまですからね。いくら捕虜とはいえ、礼を失するわけにはいきませんからね。最大限のおもてなしで対応させてもらっていますよ」

 ジェドルンがそう説明する。

「どうしてこのお屋敷に?」

「ご主人さまがお招きしたんですよ」

 バークの質問に、ジェドルンが当たり前といった感じで答える。

「ああ、なるほどね。物好きそうな人だもんね。ここの主さん」

 アモスがタバコを取りだして、一本を口にくわえる。

 ヨーベルがすかさず火を点けてくる。

 一連の流れができて、ヨーベルも満足そうだった。


「庭に自由に出ていましたけど、屋敷を出ようと思えば出れるんじゃないですか?」

 リアンがジェドルンに質問する。

「でしょうね、ここでは軟禁させてもらっている感じですからね。そうそう、手紙を使って外部との接触もしているほどです。驚くなかれ、手紙の相手はエンドールの、ヘムロニグス大老ですよ」

「ヘムロニグス大老!?」

 リアンたちが驚く。

 ヘムロニグスといえば、サイギンを出るときに出会ったエンドールの老貴族だった。

「どうして文通を?」

 アートンが不思議がる。

「年齢は相当離れているみたいですが、ケプマストさまにとって大の親友だそうです」

 ジェドルンがそう教えてくれる。

「文通なんてせずに、親友なら直接会いにここから出ればいいじゃない。なんで、その男は帰らないわけよ」

 タバコの煙を吐きだしながらアモスがいう。


「ここが気に入ったんですか~?」

 ヨーベルがそんなことを口走る。

「面倒だから、あんたはもう黙っておきな」

 アモスがヨーベルに冷ややかに突っ込む。

 しょんぼりするヨーベル。

「フォールとしては、解放を何度もお勧めしていたようなのですよ」

 ジェドルンが困惑したように教えてくれる。

「自ら、解放を拒んでいるんですか?」

 ケプマストの不自然な行動に、アートンとバークが驚く。

「きっと、ここのお料理が美味しいんですね」

 またヨーベルがそんなことをいってくる。

「あんたは黙ってなって、いってるでしょ」

 そんなヨーベルにアモスが、連続でゴツゴツとチョップをたたき込む。


「わたしどもにも、ケプマストさまのお心はわからないのですが……。帰りたくない何かがあるのでしょうか……」

 ジェドルンが、首をかしげていう。

 過去、何度も帰参を勧めたのだが、頑なに了承しなかったケプマストをジェドルンが思いだす。

「昨夜の怪しいフォードとかいう男も、案外ケプマストってヤツと接触してそうね。で、遺跡への同行者としてスカウトもしてそうね」

 アモスがタバコをふかしながら予想する。

「その通りです」ジェドルンが即答する。

 アモスの予想は当たっていたようだ。

「ですが、お断りになられたようで、フォードさまも残念がっていましたね」


「最強の呼び声が高いそんな剣士が、どうしてこんなところで軟禁なんて状況に甘んじてるんだろうな? 戦士として聞こえているケプマストなら、まだ戦いの場でその力を発揮できるはずなんだろうがなぁ」

 バークが腕を組んで考え込む。

「実際にお会いして、その辺りお尋ねされてみますか?」

「え? 会えるんですか?」

 ジェドルンの言葉に、リアンが驚いて尋ねる。

「大丈夫ですよ」

「危険はないのかい?」

 バークが不安そうに尋ねる。

「最強の剣士として知られていますが、粗野な部分はまるで無く、とても紳士なお方ですよ。ただ、無骨なお方ですので、会話には苦労すると思われますよ」

 そうジェドルンが教えてくれる。

「ヨーベルのテクで籠絡させてみるか?」

「籠絡て何ですか?」と、ヨーベルがアモスに訊き返す。

「あんたが、ネーブにしようとしたことを、やってあげるのよ」

「おい、こら、変なこと吹き込むなよ」

 バークがアモスをたしなめる。

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