11話 「捜索」

 アモスとアートンが、階段を降りた先を捜索していた。

「リアンくん! どこぉ!」

「リアーン! 大丈夫かぁ!」

 アモスとアートンが声を出して、リアンの返事を期待する。

 アモスの持つライターしか光源がなく、ふたりの周囲は暗いままだった。

「ねえっ! 探すならふた手に別れなさいよ! あんたまで、あたしにベッタリついてくることないでしょ!」

「いや、この暗闇じゃ、ふた手に別れたって俺何もできないし……」

「なんで照明、持ってこないのよ!」

 アモスの正しい叱責に、アートンは困った顔をする。


「あんたってば、ほんと役に立たないわ!」

 そういってアモスが、サブのライターをアートンに投げつけてくる。

「し、仕方ないだろ、俺だって急いでたんだから……。じゃあ、俺はこちら側を探すから、あんたは反対側探してくれよ」

 アートンが指差す方向は、やや開けた大広間になっていた。

「いわれなくても、そうするわよ!」

 怒鳴るアモスの怒号が、暗い遺跡内に響き渡る。

 ライターを点け、アートンが広間を調べはじめる。


 すると、また大きな揺れが起きる。

「アモス! あっちにいったん避難しよう!」

 アートンがそう提案する。

「バカ! どこ行ったって同じよ!」

 そういうアモスの手を、アートンがいきなりつかむ。

「何しやがる!」

「危ないって、足元ほら」

 アモスの足元に大穴が開いていた。

「チッ! 離せバカ!」

 アモスが激昂したように、アートンの手を振り払う。

 大穴の底はまったく見えない。

 しかし、ポチャンという音がするので、海面につながっていそうだった。


「なあ、アモスさぁ」と、弱々しくアートンがアモスに話しかける。

「何よ。口を動かす前に身体動かして、リアンくん見つけるように努力でもしなさいよね!」

「思うんだが、バークのいう通りかもしれない……」

「ああ?」アモスが顔をゆがめる。

「怒る気持ちはわかるんだが、もう、どうしようもないよ」

「……何よ。あんたまで、諦めろっていうのね?」

 不愉快そうに、アモスがアートンをにらむ。

「俺だってリアンは救いたいが、この状態ではもうどうしようもないじゃないか……」

「だったら、あんたひとりで帰ればいいでしょ!」

 アモスの鋭い怒号が飛ぶ。

 それに対して、アートンがうなだれる。


(暗すぎて、元来た道帰れないとかいったら、きっと激怒しそうだよな……)


 すると、いきなり周囲が明るくなる!

 まるで照明が灯ったように、周囲が明るく照らされる。

「えっ! なんだこれ!」アートンが驚く。

 見ると、床や天井が淡く光っているのだ。

「ど、どういうことだ?」

 アートンが足下で輝いている光源を、不思議そうに眺める。

「なんだかわからないけど、これで探しやすくなったわ! あんたもぼうっとしてないで、ちっとは動けよ! さっきの言葉は、聞かなかったことにしといたげるわ!」

 アモスが明るくなった足場を確かめながら、アートンにいう。

「わ、わかったよ」と、渋々そうつぶやくアートンも、捜索を再開する。


「ん? 何? この音……」

 アモスが耳をすませる。

「誰かいる!」

 そちらに走っていくアモスと、後を追うアートン。

「リアンくん! そこにいるの!」

 しかし角を曲がったそこにいたのは、一匹のハーネロンだった。

 身体の崩れたボロボロのハーネロンが、モゾモゾとうごめいていた。

「こ、こいつ生きているのか……」アートンが絶句する。。

「まさか生き返ったっていうの?」

 アモスも目の前の醜悪なバケモノを見て、思わず後ずさってしまう。


 しかし、ハーネロンはアモスたちに気も止めずに、うごめいているだけだった。

「敵対してこない?」

「みたいね。あたしらに気づきもしてないわね」

 アモスとアートンはそのバケモノを迂回して、光る場所に向かって歩いていく。

「この周囲の明かりといいさぁ、まさか遺跡が完全に復活したとか?」

 アモスが疑問を口にする。

「そういや、夜でも昼のように明るく光り輝く遺跡だったとか、博物館にあったわね」

 アモスが、以前キタカイの博物館で見た、展示物を思いだす。


 すると、地面が妙な点滅を開始する。

 赤い光が点滅して光りだしたのだ。

「なんだか、また妙な感じだぞ……」

「ん? これって……」

 アモスが光り方を見て、あることに気づく。

 点滅は、まるで道を示すように光っているのだ。

 アモスとアートンが光の点滅に沿って走る。

「これは間違いなく、俺たちを誘導してるよな」

「どういうつもりか知らないけど、今はこれを信じるしかないわ」

 アモスが案内に従って走る。

「罠だとしても、誰がだ? って話だしな……」


 アモスとアートンが、崩壊を免れた建物にやってきた。

「こっちはまだ崩壊していないな」

「よそ見はいいから走れバカ!」

 走るふたりの脇で、蘇ったようにハーネロンがうごめいている。

「遺跡とこいつらって連動してるのか?」

「そういう考察も今はいいから!」

「わ、わかったよ……」

 アモスにいわれ、アートンは考えるのを止める。


 光の案内に導かれ、その部屋に入るとボロボロになったハーネロンが、ガラスを拭いていた。

 ガラスに何か動く物体が見えた。

「リアンじゃないか!」

 ガラスの中で動く人影が、リアンだということにアートンが気づく。

「どけこら!」

 アモスがハーネロンに飛び蹴りをかます!

 吹っ飛ぶハーネロンが、地面に伏して動かなくなる。


「リアンくん!」

 アモスがガラスをたたく。

「あれ! 何よこれ!」

 ガラスは一枚の板のようなものだった。

 裏には何もなかったのだ。

「こいつはリアンだ! 間違いない! これはどういうことなんだ?」

 ガラスに映り込んでいるのは、間違いなくリアンだった。


「こらぁ! 誰だか知らないけど、どういうつもりよ! リアンくんどこにいるのよ! あたしらを助けてあげてるの? それともバカにしてるの? どっちよ!」

 アモスが、これら一連の作業を施す存在に向けて、聞こえるように怒鳴る!

 しかし、何も反応はない。

 リアンが、どこかのドアに向かっているのが見える。

「ここに行くには、どうすればいいんだ? 教えてくれてるんだろ!」

 アートンも謎の存在に向けて、尋ねるように怒鳴る。

「リアンは生きてるんだよな!」

 すると、また床が点滅する。

「そっちか! 感謝する」

 アートンが光源を目指して走りだす。

「アモス! こっちだ!」

 主導権を奪ったアートンに若干イラついたアモスだが、ここは黙って彼についていくことにした。

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