10話 「遺跡の主」

 ビタンビタンという、何かが跳ねる音がこだまする。

 その音に気づいたリアンが、ぼんやりと目を覚ます。

 リアンは、ゆっくりと上体を起こす。

 そして身体を見渡してみる。

 リアンは周囲を見渡すが、周りは真っ暗だ。

 ビタンビタンという音は、ずっとしている。


「真っ暗です、照明お願いします!」

 リアンが叫ぶ。

 すると、周囲が急に明るくなる。

 床や壁、周囲が急に明るく光りだしたのだ。

「ありがとう!」

 当たり前のようにリアンは礼をいうと、その場から立ち上がる。

 体中に、ドロがこびりついていて気持ち悪かった。

 ところどころ服も破れている。

 が、不思議なことにどこにも外傷もなかった。


 おそらく上空から落下したはずなのだが、怪我ひとつしていない状況に、リアンは首をかしげざるを得ない。

 リアンは自分の身体を見回して、考え込む。

「さっきのあれは……、夢じゃないのか……。だとしたら、早く行動すべきだね……」

 リアンは夢の中で見たビジョンを思いだし、急いで行動を開始する。

「あそこから落ちたのかな?」

 ふと、リアンが上を見上げる。

 壁に空いた大穴は、かなりの高さがあった。

「どうして生きてるのかっていう疑問もあるんだけど……。まずは、あの人に会いにいくのが先なんだよね……」


 リアンは、何故か先ほど見た夢に現れた、謎の存在に会いに行かなければならないと理解していたのだ。

 なぜそう思うのか? リアンにはまったくわからなかったが、逢うべきだと認識していた。

 周りを見て、自分が今、舞台のような場所の上に立っていることに気がつく。

「ここって、さっき見た夢の場所?」


(さっきの演劇、よくわかんなかったんだよなぁ。せっかく観せてくれて悪いんだけど。感想を訊かれるようなことが、なければいいんだけどな……)


 そして、先ほどから断続的に聞こえていた、謎の音の正体が判明する。

 サメが、ビタンビタンと苦しそうに地面を跳ねていたのだ。

 サメは落下した際に、鉄骨が身体に刺さって串刺し状態になっている。

 そんなサメを無視して、リアンはゆっくりと舞台を降りる。

「確か、こっちだっけ……」

 リアンは進行方向に階段を発見する。

 階段を登ると、どこかで見たような廊下に出る。

「ここでは、考えるだけ無駄なんだよね……」

 リアンはかぶりを振る。


「今までも、同じようなことはあったけど。こういうのって、誰かに相談したほうがいいのかな……」

 リアンは自分の身に、時たま起きる既視感のような謎の現象を、誰かに相談すべきか悩む。

「でも、まずはここから出ないことにはね。みんな、きっと心配してるだろうし」

 リアンは周囲を見回す。

 何故か照明がこうこうと灯っており、道を指し示してくれている。

「あっ! あれだ!」

 リアンは走る。

 そこにあるのは、夢で見た謎のゲート。

 うっすらと門の内側が光って、装置が起動しているのがわかる。


 リアンが、謎のゲートまで駆けてくる。

「あの便利なの、お願いします!」

 リアンが、頭の中の誰かに向けてお願いをする。

 しかし何も反応がない……。

「あの~! お願いしますって!」

 リアンが叫ぶ。

 すると、ゲートから出てきた光にリアンが包まれる。


 一瞬目を閉じたリアンが再び目を開けると、どこかの廊下に転送されていた。

「ここって……」

 リアンが窓から外を見ると、東の方角に直立して引っかかっている戦艦が見えた。

「みんなの場所って、お願いしたのに……」

 リアンは、ちょっとガッカリしたようにつぶやく。

「ひょっとして、あの人がこっちで呼んでるのかな? 行ってみるしかないか……」

 建物がかなり崩れてる。

 全体的に勾配も酷くなってきており、水平な場所はもうどこにもなかった。

「あの人に会えば、なんとかしてくれるんだよね。わざわざ僕を呼んでいるんだから」


 リアンは導かれるように、歩みを進める。

 そして、リアンはひとつのドアの前に立つ。

「ここかな……」

 ドアを開けた部屋は、ヘドロでドロドロに汚れている。

 調度品の様子から、元は書斎になっていたのが想像つく。

 空になった書架が部屋にビッシリあり、本は地面に散乱してボロボロに朽ちていた。

 足下に転がる泥だらけの本を踏まないように、リアンは前に進む。

 さらにその部屋の奥には、なにやら怪しい機械のようなものが山ほどあった。

 機械は今でも動いているらしく、低く駆動音が聞こえる。


「おじゃまします……」

 リアンはこの部屋に、どこか見覚えがあった。

 どこで見たのかは、思い出せないが、確実に知っている場所と思えた。

 その部屋の奥には、小さなベビーベッドらしきものがある。

 そこに向かうリアン。

 そして、そこにある何かを見つける。

 床が光り輝いて、周囲が照らされる。


「あなたですね……。僕を呼んだのは」

 ベビーベッドには、脳みそのような物体がケースに入れられて残っていた。

 そのケースのガラス面が、チカチカと光っている。

「こんな姿に、なってしまったんですね……。それがあなたの、望んだ姿だったわけですね」

 リアンはいっていて、悲しい気持ちになってくる。

 リアンは慈しむように、ガラスに付着した汚れを拭ってあげる。


 すると、リアンの頭の中に何かが聞こえる。

 リアンは首を振る。

「ダメです、理解できないです……。さっきよりも言葉が弱まっている感じです」

 リアンは声の主に、申し訳なさそうに訴えかける。

「僕の声は聞こえますか? 一方的なお願いになるんですが、いいでしょうか?」

 すると、立体的な地図がリアンの目の前に登場した。

 リアンは驚いて地図を眺める。

 立体的に表示された地図を、リアンはいろんな角度から眺める。

「……これは便利ですね。できれば、戦艦の場所もお願いできませんか?」

 リアンの言葉に反応して、南西の方向の一角が赤く光る。

 広範囲に広がる赤いマーク。


 そして、この地図に直立した戦艦の姿が浮かび上がる。

「ありがとうございます。じゃあ、みんなは……」

 リアンの言葉を受けて、地図上に赤い点がいくつか現れ点滅する。

「みんなは二手に分かれているんですね。こっちは、ひょっとしたら、僕を探しているのかな?」

 リアンは地図の下層部分をうろつく、ふたつの赤い点を見つめてそんなことを思う。

「あの、ところでさっきいおうとしていた、渡したいモノってなんでしょうか?」

 リアンが、ベビーベッドの脳みそに尋ねる。

 きみに託したいモノがあると、先ほど頭の中に伝わってきたのだ。


 すると、ベビーベッドの中から引き出しが現れる。

 引き出しの中は泥だらけだった。

 リアンは意を決し、泥の中を手ですくう。

 すると、何かを見つけてそれを手にとって引っ張りだす。

 それは、全長十五センチぐらいの長さの棒だった。

「これを、くださるんですね。持っていけばいいだけですか? 何をすればいいかわかりませんが、いただきますね……」

 リアンは、現れた棒の泥を振り払い、じっくり観察してみる。

 その瞬間、また何かが頭の中に聞こえてくるが、よくわからない。

 すると、脳みその気配がふっと消える。

 目の前の脳みそは沈黙し、ベビーベッドの駆動音だけが響く。


「僕にいったい、何をお願いしようとしたんだろう……」

 リアンはもらった棒を眺める。

「いや! こんなことより早く、みんなと合流しないと!」

 脳みその意識は完全に消えたが、前方に漂うこの建物の地図は、まだ消えていなかった。

 地図上の赤い点が五点、それぞれの場所でせわしなく動いていた。

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