9話 「遺跡での夢見」

 舞台にスポットライトが照らされる。

 リアンは眩しい光で目を覚ます!

 聞こえてくる拍手喝采で、リアンは周りを見渡す。

 前方に見える客席には、観客としてやってきた無数のバケモノがいた。

 舞台にいるリアンは驚きもせず、そのまま拍手に混じる。

 出演者なの? と思いながら、とりあえず拍手をつづける。


 観客の誰もが、リアンのことは見えていないかのようにスルーしている。

 そして舞台から、次から次へとセットが浮き上がるようにして登場してくる。

 シーンは屋外から屋内に変化していた。

 リアンは邪魔にならないように、舞台の脇に逸れてそこから演目を観察する。

 舞台袖から登場してきた、おぞましい姿形をしたハーネロンたちが、何やら演技をはじめている。

 合計五体のハーネロンは、必死の形相で迫真の演技をつづける。

 その表情は鬼気迫るといった感じだったが、何をいっているのかはリアンには聞き取れなかった。

「ハーネロン? あれはハーネロンなの?」

 舞台で演技をしているバケモノたちを、リアンはなんの疑問も持たずにハーネロンと断定した。

「まあ、いいか……」とりあえず、リアンはそういうことにしておくことにした。


 演目はつづくがハーネロンの演者は、やっぱり何をいっているのかよくわからない。

 いったいどのような演目が繰り広げられているか、リアンは退屈すぎて、それすら考えようとしなかった。

 すると、リアンの頭の中にかすかな声が聞こえてくる。

 周囲を見回し、リアンは声を良く聞こうとする。

「これを観てからですね、わかりました……」

 諦めに似たような感情で、リアンはポツリとつぶやく。

 いつの間にか舞台から客席に移動していたリアンは、演目を鑑賞していたが……。

 やはり、なんだかすごく退屈な舞台だった。

 どうして急に客席に、移動しているのかという疑問を思い浮かべることもなく、リアンはありのままを受け入れる。

 リアンは、客席に座ったまま目をつむる。

 舞台ではハーネロンによる演目が、クライマックスに近づいていた。


 完全に寝ていたリアン。

 がやがやと席を立つ、バケモノたちの音で目を覚ます。

 観客のバケモノの中を、リアンも歩いていた。

「こっちなんですね……」

 またリアンの頭の中に、声が聞こえてくる。

 その声に従い、歩みを進める。

 舞台から廊下に出ると、壁にかかっているいくつもの肖像画が目につく。

 どれも全部同じ人物のようだった。

「これが、あなたなんですか?」

 リアンは、頭の中に訴えかけてくる誰かに訊く。

「そうですか……。でも、この人、どこかで会ったような気もするなぁ……」

 壁の肖像画を眺めながら独り言をポツリと漏らすリアンが、舞台から退出するバケモノたちの流れについていく。


 すると前方に、怪しげなゲートがあった。

 そこにバケモノたちが入っていく。

 すると、怪しい光とともに、瞬時に消えるバケモノたち。

「あれなんですか? え? 転送? なんですかそれは?」

 リアンが驚いて、頭の中に直接訴えかけてくる存在に尋ねる。

「え? 僕はこっちじゃない?」

 リアンは左手側を見る。

 そこには立派なドアがあった。

 ドアの前に立つと、ドアが自動で開いた。

「これは自動で開くドアなんですね、すごいや……」

 ドアの境界に立つと、リアンはくまなくゲートを観察する。

 ドアは青白い光を発し、何やら小さく駆動音が聞こえてくる。


 自動ドアを抜けると、そこには先程見たのと同じ、怪しげなゲートがポツンとあった。

 そのゲートに、リアンは恐れることもなく足を踏み入れる。

 視界がぼやけたと思ったら、リアンはまったく別の場所に出てきていた。

「わあ、便利ですね」

 リアンは、瞬時に違う場所に現れたことを驚く。

 転送された部屋を見回すと、肖像画の人物がいた。

 肖像画の人物は輪郭がおぼろげで、まるで幽霊のように実態感に乏しかった。

 その人物が、リアンに手招きをしている。

「わかりました、そこに向かいます」

 リアンが肖像画の人物に答える。

 うれしそうに表情を崩す、肖像画の人物。


 リアンは気がつけば、豪華な一室に招かれていた。

 ポツンと用意された椅子に、リアンは座っている。

「君が後を継ぐものかい?」

 そんな声が、リアンの頭の中に聞こえ、彼自身が声に出す。

「いえ、僕ではないと思いますよ。せっかくお招きしてくれたのに……」

 申し訳なさそうに、リアンは頭の中の声の主にいう。

「そうか、でもせっかくだ、こちらにおいで」

 そんな声が頭の中に聞こえ、やはりリアンが口に出していう。

「わかりました。あの……。いろいろお願いしてもいいでしょうか?」

 リアンが、頭の中に聞こえてくる声の主に訊く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る