最終話 「ジャルダンへの電信」

 キネがライ・ローと面談していた。

 キネから報告を受けたライ・ローは、興味深そうな感じで彼の言葉に聞き入る。

 ストプトンから仕入れた情報を、さっそく共有していた。

 キネ同様ライ・ローもメモ魔だった。

 今聞いた内容を、すぐにメモにする。

「なるほど、なるほど、興味深い内容ですね」

 ライ・ローはニコニコしながら、キネの報告をメモしている。


「旦那上機嫌だな。どういった報告だったんだ」

 ユーフがライ・ローの様子を見て、ツウィンに尋ねる。

「パルテノのとこにいたストプトンが偶然、バスカルの村って場所で、あの女神官と再会したそうだぜ」

「あの旨そうな女神官と!? マジかよ!」ユーフが驚く。

「ああ、そこでいろいろ気になる情報を、仕入れてきたって話しだ」

 ツウィンが、自慢の角型の髪型をセットしながらいう。

「じゃあ、当然あの女の仲間とも出会ったわけだな。何者だったんだ?」

 ユーフがツウィンに尋ねる。

「他の仲間とは会えてないそうだが、ストプトンがいうには、連中エングラスまで向かう旅の劇団員らしい」

「会えてない? 旅の劇団員?」

 ユーフが胡散臭そうにオウム返しする。


「女の仲間が、ネーブ殺害の実行犯とかいう予想も出てたよな。同行者が女同様劇団員ってことはなんだ、あの女の仲間はシロってことか?」

「そこまではわからんよ、劇団員だと、女がいってるだけだからな。実際のところはまだ判明していない。ストプトンも女にしか会っていないそうだ。他の連中とは接点が持てなかったようだ。しかも肝心の、どうやってネーブの元から移動したのかが訊けてないんだと」

 ツウィンが髪を角型にセットし終える。

「そのいかす頭の角を使って、何かいい情報でもサーチできないのかい?」

 同じサルガの隊員のワンワンが、ツウィンを煽る。

「これは部族の長の印だからな。それ以上でも以下でもない。俺は、おまえみたく無駄な心霊現象を、察知できるって訳じゃないんだよ。ところで、カイ内海から奇妙な気配を感じるとかいってるが、単にみんなの気を引きたいだけじゃないのか?」

 ツウィンが、サルガで唯一例霊感を持つ隊員のワンワンを、馬鹿にしたようにいう。


「気を引きたいなら、別のことするだろうよ。この海から、ただならぬ気配を感じるのは確かだよ。この感覚、教えてやりたいよ。きっと海に沈んでる遺跡から発する何かだろうさ」

 ワンワンが海に向けて弓を向けて、ニヤリと笑いながらいう。

 霊能力を持つワンワンは、海から確かに何かを感じ取っていた。

「で、おまえはゲンブたちを探しに、街の入り口付近を捜索したって事だが、結局どうだったんだよ?」

 ユーフがワンワンに尋ねる。

 キタカイの街には三つ、大きな入り口になるような道路が存在していた。

 そこには詰所があり、検問も実施されていたようだった。

 しかし、その三つの道路を使わなくても、キタカイの街には入れる道がいくつも存在するのだ。

 検問をスルーして街に侵入しようと思えば、楽にできるのだ。


「三つの検問所を調査してみたが、なんの反応もなかったよ。もしゲンブたち三人が殺害されていれば、何かしら感じることができるはずなんだがな」

 ワンワンが、自分の弓矢の鏃をいじりながらいう。

「あと、三つの道路以外を通行されたらどうしようもない。手がかりを見つけられなくても、俺のせいじゃない」

 ワンワンが責任転嫁するようにいう。

 軽く動くだけで、身につけている羽根飾りがワサワサと動く。

「とにかくよぉ、本気であの三人どこに消えたんだ? ゲンブの野郎からは、この町のオススメ風俗を教えてもらうことになってたんだぞ! それ、お預けしてろってことかよ!」

 ユーフがやや怒り気味にいう。


「シャッセの話しではヤツら、サーザスの村経由とかいう山岳ルートを検討していたらしいな。一応刑事どもがその村に捜索隊を送るって話しだったよな?」

 ツウィンが、サイギンで最後まで一緒にいた、サルガの隊員のシャッセの情報を口にする。


「サーザスっていやあれだろ、ハーネロ期にいろいろあったって、曰くつきの場所じゃないのか?」

 ユーフが噂で聞いた、サーザスの村のことを話す。

「俺もそのサーザスに向かえといわれてたが、いらないだろ。俺も前線で戦いたいんだがな」

 ワンワンがつまらなさそうにいう。

「おまえは人捜しに適した能力を持ってるんだから、その力をもっと発揮しろよな!」

 ツウィンがワンワンの持つ霊視能力を指していう。


「はあぁ~! キタカイでもまだ暇なんだよな。戦いのあの高揚感よ再び! と願っているんだがなぁ」

 ユーフが大きく背伸びをして愚痴る。

「なんだかんだで、もうじき決戦の時も近いだろ。海戦がどういう顛末になるのか、結構期待できそうじゃないか」

 ツウィンが、広げられた地図のカイ内海を指差して不敵に笑う。

「戦いに参加できるなら、俺も参加してみたいんだがな。そんな歴史的大戦なら、是非とも経験しておきたい。一番乱戦になりそうな、ド派手で目立ちそうな軍艦に乗ることはできないのか?」

 ユーフが背もたれに大きくもたれかけ、再度背筋をうんと伸ばす。

「今回はエンドール海軍に、花を持たせるって話しらしいな」

「パニヤ中将が、期待していろっていっていた艦隊が、ご登場してくるらしいな」

 ツウィンが、まだ秘密にされているエンドール艦隊のことをいってくる。


 すると、ライ・ローが立ち上がっているのが見えた。

 キネとの会談を終えたようだった。

「わたしはさっそく、今キネくんから聞いた情報を、軍部に共有してくるよ」

 ライ・ローが部屋から出ていこうとする。

「キタカイでの行動だけど、サイギン同様やりがいはないかもしれないけど、真剣に当たってくれると助かりますよ。くれぐれもみなさん、緊張感持って行動してくださいね」

 ライ・ローの言葉を受けて、いちおう素直に一礼しておくサルガの隊員たち。



 スワック中将がさっそく、ライ・ローを迎えていた。

 ライ・ローの口から、バスカルの村でストプトンが体験したことを、スワックが聞く。

 ライ・ローは、ここで気になることを発見する。

 謎の女ヨーベル・ローフェが仲間だといった、アートン・ロフェスという男の名前を聞いた時のスワックの様子が、かなり変だったのだ。

 どう変なのかはライ・ローにもよくわからなかったが、彼の反応、とにかくそこが気になったのだ。

 突っ込んで訊こうかとも思ったが、なんとなくはぐらかされたのだ、仕方ないのでライ・ローはそこでは追求しなかった。


 一方スワックは、ライ・ローの報告を聞き終えると、すぐに独自に行動した。

 部下を呼ぶスワック。

「ライ・ローの口から、アートン・ロフェスという名前が出てきた。少し気になってな。ジャルダン刑務所に連絡して、調べてもらいたい」

 スワック中将は部下に、アートンという男のことを調査して欲しいという。

 部下はさっそくその名前を、ジャルダン刑務所に連絡して調査しようとするが、ニカイド通信の調子が悪い。

 そのことを聞いたスワックが、別の手段を講じる。


 ロイと共に行動する内務省の人間に、ミルエスバーンという女性職員がいるのだが、彼女はニカイド流行以前に流行った電信技術の資格を持っていたのだ。

 その電信技術を使って、ジャルダン島と連絡を取ることにしたのだ。

「ニカイドなんて怪しい技術、電気の前にはオカルトですわ」

 ミルエスバーンはこの時代には珍しい、電気信奉者だった。

 電気というのが発見されて、研究がこれから発展していくという時期に、ニカイドが登場してきたのだ。

 この世界は、まだ黎明期だった電気よりも、可能性が無限大なニカイドのほうをニューテクノロジーとして選択したのだ。

 こうして、この世界では電気の力は、カーガイド同様のローテクノロジーという立場に、生まれてすぐ追いやられていたのだ。


 捕まえたミルエスバーンのおかげで、なんとかジャルダン島と連絡を取れることになったスワック。

 さっそくアートン・ロフェスについて、島の見解を聞きだそうとする。

「電気の力は偉大なんですわよ! いつかニカイドなんかよりも、電気のほうが使えるってことを証明してみせますわ!」

 島に連絡してくれたミルエスバーンは、ニカイドに敵愾心をむきだしにする。

 うんざりしたように、スワックはその呪詛の言葉をスルーする。


 ロイの直属の仲間連中は、一団の長のロイ・ロイテムス同様一筋縄ではいかない個性派の集まりで、対応に毎回苦慮していた。

「ジャルダン刑務所に電信で連絡してみましたけど、“ 特に何も問題ない ”とのことですわ! あと、将軍がおっしゃられていたアートン・ロフェスについてですが、今調べてもらってる最中ですわ! 明日にでも返答するとのことですわ!」

 メモを見ながらミルエスバーンが、スワックにいちいち語尾を強めていう。


「特に何も問題がない」という回答に違和感を感じるだろうが、ここでは報告を受けたスワックの主観のみ描写させてもらう。


 スワックは、腕を組んで考え込む。

「何かが起こるわけもないか……。それに、同姓同名の別人の可能性もあるだろう、だが、まさかな……」

 電気の素晴らしさを演説してくるミルエスバーンの言葉を、適当にあしらいながらスワックはその場を離れる。



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