11話 「海を越えて」
アートンとバークがミアリーの屋敷の前までやってくる。
追っ手は、なんとかうまく撒けた感じだった。
追ってくるものは、ひとりもいなかった。
再度、追っ手がいないのを確認したあと、敷地内に入らせてもらうアートンとバーク。
「あれ? どうしたんですか?」
リアンたちは、邸宅の庭でお茶会をしていた。
息も絶え絶えのアートンとバークを見つけて、リアンは驚いたような表情になっている。
「はぁ……。な、なんか、ヤバいことになってしまった!」
アートンが相当焦っている。
すごい形相でそう伝えてくるので、リアンは総毛立つ。
「これ以上、ここにいちゃマズいかもしれない。急いで出よう」
アートンが、そんなことをいきなりいってくる。
理由がわからないリアンたちは困惑する。
でも、アートンの様子から、最悪のケースが考えられる。
「どうされたのですか?」
そこへミアリーが、不安そうに訊いてくる。
「ミアリーさん、ちょっと面倒なことになってしまった。君には迷惑かけられないから、ここでお別れだ」
バークがいきなり、そういってミアリーに頭を下げる。
「え? どうしたんですか?」
ヨーベルやリアンも困惑した顔をして、アートンとバークを眺める。
「まさか! チルって奴が裏切ったの?」
黙って話しを聞いていたアモスが、怒ったように訊いてくる。
「それは違うと思うんだが、今はここから離れたほうがいいんだよ」
「そうだな、理由はあとで話してやるよ」
バークとアートンが、地面に置いてあった荷物を抱える。
「わかりました、何があったかわかりませんが、急いだほうがいいんですね」
リアンは、ふたりの様子からすぐに察してくれる。
「じゃあ、ミアリーさん、僕たちはここで」
リアンがミアリーに頭を下げる。
「そ、そんな……」と、ミアリーが絶句する。
「こういうの、僕らってもう慣れてきた感じだよね」
リアンが笑いながらいい、自分の荷物を手にする。
「みなさん! ちょっとお待ちください! ここは、わたしがなんとかします!」
ミアリーがいきなり、そんなことをいう。
「でもな、君に迷惑をかけられないよ」
バークがミアリーに、申し訳なさそうにいう。
「大丈夫です! みなさんのことを、かくまうぐらいどうってことありません!」
「ジェドルン!」と、ミアリーは執事を呼びつける。
「みなさんを、お屋敷にご案内してあげて」
「かしこまりました」と、頭を下げて命令をきく執事のジェドルン。
「いや、本当に迷惑かかるから……」
ミアリーの提案に、バークとアートンが困る。
「ミアリーがこういってくれてるんだし、ここは助けてもらうわよ。せっかくの好意を、無駄にするんじゃないわよ」
アモスが、タバコを吸いながらそういってくる。
「そうです、お願いします。今こんな感じで、急にお別れだなんて……。わたし、それが一番つらいです……」
ミアリーが、泣きそうな顔でリアンたちにいう。
「さ、みなさま、まずは中に。詳しいお話しは、そちらでお伺いいたしますよ」
執事のジェドルンが、リアンたちを屋敷にまで案内してくれる。
リアンたちはミアリーの屋敷に入っていく。
「クソ! どこに行った!」
ゴスパンとメンバイルが、逃亡者を完全に見失う。
「あいつは以前から、チル中尉と会っていた奴だな?」
「ああ、間違いない!」
「行商人といっていたが、本当のところ何者だったんだ?」
ゴスパンとメンバイルが、周囲を見渡しながら話し合う。
追走している間に人相が悪くなっていたのだろう、周囲の住民が怒れるエンドール兵を前にして逃げ去っていく。
「チル中尉は旧友といっていたが、まさかこんなことになるなんて!」
ゴスパンが悔しそうに地面を蹴り上げる。
「曹長!!」
部下が、一件の屋敷の前で手招きしている。
ゴスパンとメンバイルがそちらに向かう。
「あれを!」
不自然に切り落とされた植木の隙間から、先ほどの逃亡者ふたり組の姿が見えたのだ。
この植木は、以前ミアリーが自分で切り落としたものだった。
切り落とされた隙間から、敷地内が丸見えになっていたのだ。
「他にも仲間がいたのか?」
屋敷の中に入ろうとしている、逃走したふたり組と、その仲間とおぼしき連中をゴスパンとメンバイルは見つける。
「今はそんなことどうでもいい! 行くぞ!」
ゴスパンとメンバイルは、植木をかき分けて敷地に突入する!
「おい! お前ら!」
「何故逃げた! 説明してもらうぞ!」
植木の隙間から、庭に侵入してきたエンドール兵を見て、アートンたちが驚く。
「みなさん! こちらに!」
ミアリーが、手招きしてアートンたちを屋敷に招き入れる。
追いかけるゴスパンとメンバイル。
閉ざされたドアを乱暴にたたく。
「開けるんだ! 」
「エンドール軍だ!」
「殺人の容疑者をかくまうのか!」
口々に、そんなことを叫ぶエンドール兵たち。
ゴスパンとメンバイルが銃を取りだす。
そして、ドアのカギを撃って壊す。
屋敷内にまで突入してきた、ゴスパンとメンバイルたち。
屋敷の使用人たちが驚いている。
「連中はどこだ!」
殺気立ったゴスパンとメンバイルの形相に、何もわからない使用人たちが怯えている。
「待て!」
「どうして逃げた!」
ゴスパンとメンバイルが、アートンたちに追いついた!
アートンたちは、屋敷の裏にあった船に乗って、水路を逃げようとしていた。
銃を構えて、ゴスパンとメンバイルたちがじりじりと接近してくる。
「アモスさん!」
ミアリーが自分のかばんから急に銃を出してくる。
そして、何かをアモスにいう。
絶体絶命のアートンたち。
追っ手の銃を前にして、これ以上動けなくなっていた。
ゴスパンとメンバイルがゆっくりと迫りくる。
「そこまでよ! これ以上近づくんじゃない!」
そういう声がして、そちらを一斉に全員が見る。
「この娘の命がないわよ!」
アモスがミアリーに銃を突きつけていた。
驚くゴスパンとメンバイルたち。
ビックリしたのは、リアンやアートンも同様だった。
「な、何して……」
アートンが、アモスにいおうとしたのをバークが止める。
バークはすぐに、アモスとミアリーの視線ですべてを察した。
「ここは、アモスとミアリーに任せるんだ」
バークがアートンにいう。
「人質を取るか!」
「貴様らやはり!」
ゴスパンとメンバイルが足を止める。
そしてその瞬間、こいつらによるチル殺害を確信した。
執事のジェドルンが、ミアリーの訴えかけるような視線で、やはりすべてを察する。
「お嬢様! なんと卑怯な~」
リアンたちと追っ手の間に、ジェドルンが強引に割って入ってくる。
「軍人さま! この方はクレシェド市長のご令嬢なのです! もしお嬢様の身に何かあれば!」
そして、こんなセリフを嘆き声交じりに、追っ手にいうのだった。
「な、何ぃ! 市長の娘だと?!」
「そうです、どうかこれ以上は!」
ジェドルンが、ゴスパンとメンバイルの前に踊りでる。
「こ、こら!よせ!」
ジェドルンがゴスパンとメンバイルの前に立ちはだかると、彼らの銃口の前に身を出してくる。
「アハハハ!!!! ミアリーはしばらく預かるからね! 残念だったわね~!」
アモスが逃走を開始した船上で、追っ手に向けて高笑いながらいう。
ゴスパンとメンバイルが悔しそうにする。
「くそっ! なんてことだ!」
「急いで追跡するぞ! 我々も船を用意するんだ!」
追跡に躍起になっている追っ手たち。
ジェドルンが、去りゆく船をじっと見つめている。
「ああ……、果たしてこれで、良かったのでしょうか……」
嵐が過ぎ去ったように静かになった中、ジェドルンはひとり独白する。
ミアリーを乗せた船舶は、カイ内海に向かっていた。
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