4話 「報告」 前編

 翌日、アートンとバークがクレッグ・チルと再び、前と同じ喫茶店で再会していた。

「そうか……。わかったよ。自生しているという事実が、知れただけでも収穫だよ」

 チルが少々残念そうにいう。

「もし何なら、一緒にバスカルの村によっても構わないぞ。花を見てから帰る段取りにしたって、俺たちは別にいいぞ」

 バークがそういう提案をしてみる。

「僕は大丈夫だよ。落ち着いたら、ひとりでその村に行ってみますよ。村、今いろいろゴタツイてるんでしょ?」

 チルがアートンとバークに確認してくる。


「まあ、そうだな……」

 バークが村のことを思いだして、ポツリとつぶやく。

「話しを聞いた感じじゃ、村が落ち着くまでに時間を要しそうな感じだし。パルテノ主教なんていう、面倒くさそうなお人もいるんだし、時期をずらしたいよ。アートンたちも、その村にもう近よりたくないでしょう?」

 チルが紅茶をすする。

 パルテノ主教がいると聞いた時のチルの顔が、珍しく不快そうな表情をした。

 これはアートンには新発見だった。

 こいつこんな顔もするんだな、とアートンは思ったのだ。


「これだけでも、いい収穫だよ」

 チルは、ヨーベルが持ち帰ったコーリオの花の種を手に取る。

 アートンから、押し花ももらったのだ。

 チルはそれらを手にして、クネクネと身体をくねらせてうれしそうだった。

「そういってもらえて良かったよ。でだ、さっそくで悪いんだけど。段取りって、どうなっているか訊いていいかい?」

 バークがチルに尋ねる。


「そうだね。クウィンまでは、普通に列車を使って帰ろう。交通機関は復旧しているからね。料金は気にしなくていいよ。こっちで用意しておくから」

「そこまで気を遣わせては悪いよ。こちらもそれなりの金は用意できるから、そこは払うよ」

「お、そうかい?」

「こっちも商売でやってるんだ、金の準備もできてるよ」

 バークが嘘設定を踏襲し、安心させるようにいう。


「ところで正直なところ、クウィンから先はどうなってるんだ?」

「クウィン以降って、どういう感じなのか想像もつかないんだよなぁ」

 アートンとバークが、ふたり揃ってチルに質問する。

「そうだ、クレッグなら知ってないか? どうやってクウィンが陥ちた理由を」

 アートンが、興味深そうにチルに尋ねる。

 しかし、チルは考え込み、重々しく口を開く。

「実はこの一件は、軍部でも特上級の事案らしいんだよな。まるで情報が降りてきてないんだよ」


「クレッグでも知らないのか?」

 アートンが驚いて尋ねる。

「僕ごときは知る由もないさ」チルがフフフと冷笑する。

「この話題、軍内部でも口に出すことも、禁止されているんだよね。なんでだろね?」

 チルが半笑いの表情で、アートンとバークにおどける。

 クウィンの陥落原因は、結局まだ知ることができなかったアートンとバーク。

 話題を、マイルトロンの治安に戻すことにした。


「特定の場所以外は、比較的落ち着いているよ」

 チルがそう教えてくれる。

 それを聞いて、アートンとバークが安堵の表情を浮かべる。

「マイルトロンという国風の関係で、フォールよりも軍による警備が厳重だけどね」

「反エンドールの抵抗が、フォールの比ではない印象があるんだが」

 バークが予想をして尋ねる。


「そういった連中は、マイルトロン中部に集まっている感じだよ。未だ武装解除せずに立てこもっている連中がいるよ。首魁は地方の軍閥だったらしく、同じような連中がそこに集結している感じだよ」

「規模はどんなものなんだ?」アートンが訊いてくる。

「数こそあるが、帰るルートにはほぼ影響はないだろう。今もその地をエンドールが完全に包囲している状況だからね」

「目に見える形で、反乱分子を囲い込んでいるってことかい?」

 バークがチルにただす。

「そうだね。今も武装を解かず、エンドールに対して徹底抗戦の構えだけ示しているよ」

 そうチルが教えてくれる。


「マイルトロンの軍隊は、はっきりいって時代錯誤の連中だよ。未だに中世のような軍備に戦術。近代戦争の前には、いくら軍備を整えて威嚇してきても、ただのカカシの大軍さ。危険とされる場所も中央部だし、帰路に影響もあるとは思えない。君たちは海岸沿いに行けば、比較的安全にエンドールに帰れるはずさ。そのルートを選択して、実際に移動している人たちがいるからね」

 チルが、ふたりを安心させるようにいってくれる。


「今エンドールト敵対しているのの多くは、マイルトロン時代の権力者だったりするのが大半だからね。大部分を占めている国民の多くは、彼らから虐げられていた人々だったりするよ。だから、むしろエンドールに対しては好意的さ。解放軍とかいって、歓迎されているぐらいだからね」

 チルの言葉に、元軍属のアートンは自分のことのように、ちょっとうれしそうにする。

「実際、そういった感じの場面にも遭遇したよ。悪い気はしなかったってのは、正直な感想だったよ」

 チルが、当時を思いだして頬を緩ませる。


「そういえばさ、マイルトロンには確かコエンドバンとかいう、テロリストがいなかったか?」

 ここでバークが、そんなことを口に出す。

「コエンドバンってなんだ?」アートンが質問する。

「簡単にいえば、エンドールを標的にしている爆弾テロ集団だよ」

 チルが教えてくれる。

「そんな物騒なのが、いるのか?」

 アートンが驚いたようにいう。


「構成員の多くが、マイルトロンの若い元貴族連中でな。エンドールに対して何度も爆弾テロを仕掛けてきているよ。コエンドバンっていうのは、一番最初のテロの被害で崩壊した宮殿の名前らしい。世間知らずのおぼっちゃまの集まりらしく、よくわからない詩に見立ててテロを予告してみたり、なんか犯行もゲーム感覚なんだよ。しかし、多くの被害が出ているから笑い事ではないのだけれどね」

 バークが、コエンドバンの特殊な生態を口にする。

「ゲーム感覚か……。なんか気にくわない連中だな……」

 アートンが顔を歪めてつぶやく。


「幸か不幸かはわからないが、ゲーム感覚だからこそ、連中のテロにも法則のようなものがあってね。犯行そのものというより、犯行予告状を送付するという行為を、楽しんでいるようでな。その予告状から、犯行が事前に発覚して未遂ということもあったりするんだよ」

 バークが、知っているコエンドバンの知識を教えてくれる。

「ゲーム感覚、ほんとそんな感じだな……」

 アートンがまた嫌そうな顔をする。

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