3話 「リゥピンの忠告」

 先ほど知った、新事実に戸惑いながら曇った表情で考え事をし、レンロが自分のアパートに帰ってくる。

 カギを取りだし、鍵穴にはめようとしたら異変に気がつく。

 ドアの鍵穴が壊されている。よく見ると、鍵穴が黒く焼け焦げている。

「これは……」

 部屋に入ると、机の上に爆弾が置いてある。

 当たり前のように、爆弾はチクタクと時を刻んでいる。

「どういうつもりよ……」

 レンロが爆弾をにらみつけ、腕を組んで考えると周囲を見渡す。


「おかえり~、レンロちゃん!」

 部屋の奥から、同じシルヴァベヒールのリゥピンが颯爽と現れる。

 低い身長で、でっぷりと出た腹が醜悪な印象をレンロに与える。

「やっぱりあんたか! なんでここにいるわけよ!」

 リゥピンはゆっくり歩いてレンロの前に登場すると、モデルのようにポーズを取る。

 短い手足のリゥピンが、そんなポーズを取ると違和感しかない。

 そのリゥピンの態度を見て、レンロはさらに不快な表情になる。


「いやぁ、今夜は寒くてな。カギがかかってたから壊して入った。せっかく来てやったのに、怖い顔すんなって」

 悪びれた様子もなく、リゥピンがポーズを構えながらのたまう。

「あんたが、ここにいるってことは、まさかあの連中も?」

「さすがにここには連れてきてないって、安心しなって。それとも会いたかったか?」

 リゥピンがレンロに笑いかける。

 クククと含み笑いをする仕草まで、仰々しく臭ってきそうなほど臭い。


「そいつはコエンドバンモデルだ。なかなか上手に再現できただろ? せっかく作ったのに、連中壊滅しちゃってさ。使う機会がなくなったんだよなぁ」

 リゥピンが時限爆弾を指差し、勝手に拝借したワインを飲みながら愚痴る。

「なんであんたがここにいるのか? そのことを話しなさい」

 レンロが、にらみつけるように訊いてくる。

「お前がさっきいったろ。あいつらが来てるからだよ。わかってるじゃないか」

 そういってクスリと笑うと、リゥピンはまた一杯ワインを口に含む。


「なんであいつらが、ここにいるのよ。わざわざエンドールからフォールにやってくる理由は何?」

「ヤツらの行動力は半端ないからな。思いつきで、こんなとこまで連れてこられる。さすがの俺も、面食らうほどさ」

 リゥピンはそういうや、テーブルの上の爆弾をつかみ上げる。

 そして手の中でその爆弾を分解する。

 爆弾の部品が、パラパラと音を立てて崩れ落ちる。

 自在に爆発物を、生成することができる能力を持つリゥピン。

 残った時計部分が、まだ時を刻み続ける。


「理由はだいたいわかるだろ? 連中が、面白そうと思ったからだろうよ。ヤツらの行動原理は面白いか、そうじゃないかだ」

「何をして、面白そうと判断したのよ」

 レンロが不愉快そうにリゥピンに尋ねる。

「う~ん、そうだなぁ……」

 リューピンはニヤリと笑うと、手に残った爆弾の残骸をテーブルの上に置く。

「ここで話しを聞くよりも、実際に見たほうがいいかもな。そのほうが、君も絶対楽しめるからさ」

 含みを込めたリゥピンの言葉に、レンロのいらつきが募る。


「部屋のカギ壊して勝手に入り込んで、自分面白アピール? あんたはしょせん連中のおまけよ! そんなくだらないことしても、わたしの中でのあんたの評価は変化しないわよ!」

 レンロはそう怒鳴り、顔を歪める。

「ハッキリいわしてもらうわ!人間としてつまんないのよ、あんた!」

「おいおい、ひどいなぁ。なんで俺、そこまで嫌われちゃうのよ。っていうか、あんなオッサンのどこがいいわけよ。俺と大差ないじゃない?」

 リゥピンが、肩をすくめて大げさにガッカリしてみせる。

 あんなオッサンというのは、クルツニーデのポーラーのことだ。

 レンロがクルツニーデのポーラーと関係を持って、情報を引きだすスパイ活動をしているのは、ニカ研内では周知の事実だった。


「あんたが他人を意識しなきゃ、自分の存在を認識できないような男だからよ。誰かと比較しないと何もできないの? あんたみたいなコバンザメ、いくら頑張ってもゴメンだわ」

 レンロの言葉に、リゥピンがしょんぼりとする。

「そんなに嫌わなくてもいいじゃん……」

「拗ねんな、バカ!」

 レンロは自身に向けられた、リゥピンの手を払いのける。

「ほら、けっこういい酒も買ってきたんだしさ。いろいろお話ししようぜ!」

「結構よ!」とレンロが怒鳴る。

「あんたなんかと、話すことなんかないわ! さっさと帰ってちょうだい。玄関のカギの修理代も置いていくのよ!」

 レンロの激昂、そして静寂。

 リゥピンはしょぼくれた顔をして、ため息をつく。


「わかったよ……」

 リゥピンはそういってポケットから、折りたたまれた紙幣を出してくる。

「出番のたびに徴収されたくなければ、今度からはきちんとアポ取りなさい! わたしが無計画な人間、一番嫌いだってことぐらいいい加減理解しなさいよね!」

 レンロは、金をリゥピンからふんだくる。

「ヤツらが、何するか教えるからさぁ……」

「しつこいわよ! どうせすぐわかるんでしょ? あんたの口から教わらなくても、それで知るわよ」

 奪い取った金をポケットにしまいこむレンロが、冷たくリゥピンに吐き捨てる。


「俺結構、本気だったりするよ?」

「そのショボくれた顔がいっそうムカつくの! さっさと出ていけ!」

「わかったよ……」

「じゃあ最後に一個だけ」といい、リゥピンがワイングラスをテーブルの上に置く。

「帰れ!」レンロが怒鳴る。

「いや、これはちょっとマジな話しなんだよ」

「……何よ」

 レンロは冷たい視線を、リゥピンに向ける。


「クウィンにいる双子に、おまえ接触しようとしてるんだって?」

 リゥピンの言葉に、レンロが表情を曇らせる。

「……どこで知ったのよ」

 不快そうな顔でレンロがいう。

「はっきりいう。手を引いたほうがいいぞ。お前の管轄はフォールの南部。リットまでだろ。北側は管轄外だろ?」

「部下を派遣して、軽く調査してるだけよ。それぐらいいいじゃない」

 レンロは、口をとんがらせて拗ねたようにいう。


「それが良くないんだよ。ゴールの後釜にきたのが、あの蛇女だ」

「何? まさか、スティーエン?」

「そうだ、あいつのことだ、縄張りを荒らされたとでも疑われたら、面倒なことになるぞ。おまえと違って、融通も洒落も効かない女だからさ」

 リゥピンは、スティーエンという同僚のことを話す。

「お前はなんだかんだで、構ってくれる……」

「……気持ち悪いんですけど」

 リゥピンに、レンロは白い目を向ける。

「だけど、あの女だけは無理。存在が別次元すぎて!」

「恨みを買うと、碌なことにならないぞ」

「そうね、不本意だけど、クウィンからは手を引いておいたほうが良さそうね」

「いい情報だっただろ? 評価上がった?」

 リゥピンが、レンロにぐいっと近づいて訊いてくる。

 レンロはリゥピンを部屋から蹴りだす。


──────────────────────────────────────


ここでまたシルヴァベヒールのひとりが、再登場になります。

リゥピンは出川哲朗氏のようなキャラです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る