11話 「施設の怪人」 後編

 アモスとバークが奥の部屋に、下に下る階段を見つけていた。

 それは、先ほどアートンが下っていった場所だった。

 そこを降りてみると、ケージが沢山ある地下室に通じていた。

「すっごい、獣臭いわね」

 アモスが鼻をつまんで、不快そうにつぶやく。

「ここは野生動物を保管していた部屋か? 一匹も動物がいないが、どういうことだろうな? 研究対象は猿なのかな?」

 バークがカラのゲージを眺めながら、奥に進む。


「誰っ!」

 アモスが鋭い声を上げる。

 奥のほうで人の気配を察知したのだ。

「待ってくれ! もう逃げない、降参だ!」

「逃げたのは悪かった、だから許してくれ……」

 すると、こういう返答が帰ってきた。

「あれ? あんたらって……」

 アモスが奥から現れた、ふたりの人影の正体に気がつく。

「僕らは何も見ていない、だから解放してくれ。警察関係と騙したうえ、逃走したのは悪かった……」

 奥から出てきたふたり組が、両手を挙げてアモスとバークの前に現れる。

 それを見て、バークの顔が明るくなる。


「あんたたち、無事だったんだな!」

 バークがそういうと、アモスも出てきたふたり組の正体に気がつく。

「あら? あんたら、あの時の見習い神官じゃないの」

 アモスがふたりの男が、探していたパローンとネーティブであることに気づく。

 ふたりの神官見習いも、アモスとバークに気がつく。

「あなたたちは! どうしてこんなところに?」

「俺たちを、救出に来てくれたんですか? でもどうして……」

 解せないといった表情を浮かべながらも、うれしさと安堵の声を上げるふたりの見習い神官。


「話せばいろいろ長いので、あとにさせてくれ。まずは、ここから脱出しよう。うわっ! そこにある死体は、誰なんだい……」

 バークが地面に倒れている、謎の死体を指差して驚く。

「いきなり怪物に殺された、ここの人間だよ」

「なんだか突然、仲間割れを起こしたみたいなんだよ。いろいろわめきあっていたんだが、俺たちも事情はさっぱりなんだよ」

 ふたりの神官見習いが教えてくれる。


「今怪物って?」

 アモスが怪訝な声を上げる。

「そう! 狼男だよ! 人だったのが、いきなり狼頭の毛むくじゃらの怪物に変身したんだよ!」

 興奮気味にパローンが、説明してくれる。

「そうそう! そのあとすぐに、この人が殺されたんだよ」

 ロズリグで祈りを捧げながら、ネーティブが倒れている死体を指差す。


「怪物は誰かを見つけて、そいつを追いかけていったよ」

「そうだ、その追われている人はあんたの仲間じゃないか? 早く助けないと、同じように殺されるかもしれないぞ!」

 ふたりの神官見習いが、怪物が誰かを追っていったことを教える。

「アートン、かもしれないな。急ごうアモス」

「ったく、しょうがないわね。しっかし狼男って本気? ヨーベルが、大よろこびしそうじゃない」

 バークとアモスが、地下室から上の階に急ぐ。

 ふたりの神官見習いも、それを追いかける。


 階段まで来たところで異変に気がつく。

 上の階から、焦げ臭い臭いが漂っているのだ。

 上を確認してみると、二階部分が炎に包まれていた。

「なんで火事になってるのよぅ!」

 アモスが驚いたようにいう。

「こりゃ大変だ! 急いで建物から逃げよう!」

 バークが入り口に駆けだす。

 慌ててパローンとネーティブも、あとを追う。


 建物から逃げだしてすぐに、表にいたアートンとリアンと合流するバークたち。

「あんた無事だったのね! 別に心配してないけどね!」

 アモスがイラついたように、アートンにいう。

「ピンチだったが、リアンに救われたよ。おまえたちも無事でなによりって、そこのふたりは!」

 アートンが、アモスとバークに一緒に同行していた、ふたりの神官見習いに気がつく。


 すると、ゴォっという音がして建物がさらに炎に包まれる。

 一階部分も火が回って、もう建物に侵入することもできそうになかった。

 リアンたちが、焼け落ちる建物を眺める。

 ここで、アートンがバケモノに追われたのを、リアンが助けてくれたことを話す。

 アモスから褒められ、リアンは照れくさそうにする。

 すると、リアンが地面に光るものを発見する。

 なんだろう? と、リアンはそれを手に取ってみる。

 それはペンダントのようなものだった。

「どうしたんだい? リアン」

 バークがリアンに話しかけて、手にしているペンダントを見る。


「あっ! それはあの怪物がつけていたペンダントだよ!」

 アートンがペンダントに見覚えがあった。

 アートンがリアンの側にやってきて、リアンの手にあるペンダントを見せてもらう。

「バケモノのくせに、アクセサリーなんかつけてたの? 異性を意識したバケモノかよ。でもヨーベルなら、ホイホイついて行っちゃうかもね」

 アモスが、クククと笑いながらタバコを一本手にする。

「なんだろうかな……」バークが、ペンダントを見てつぶやく。


「どうしたんだ? バーク」

 アートンが尋ねる。

「いやな、このデザインどこかで、見たような気がするんだよな? なんだったかな?」

 バークが、リアンからペンダントを受け取って眺める。

 三角形が三個、組み合わされたようなデザインをしたペンダントだった。

「俺もそれに似たようなもの、見たことあるなぁ? なんだったっけ?」

 パローンとネーティブがやってきて、ペンダントを見る。

 だが、結局ペンダントの正体は判明せず、アモスがリアンの首にかける。


「怪物、リアンくんがやっつけたんだから、リアンくんの勝利の勲章ね」

 アモスがそんなことをいって、タバコに火を点ける。

 リアンが照れくさそうにペンダントをいじる。

 本当はいらなかったのだが、リアンはいいだせなかった。

 そのリアンの胸元で怪しく輝く、ペンダント。

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