10話 「施設の謎」 後編

 すると、後方に気配を察知した男がいそいで振り返る。

 アモスとばっちし顔が合う。

「だ、誰だ! おまえたちは!」

 男が、血走った目をしながら叫ぶ。

 手にした書類が、バラバラと床に落ちる。


「畜生! もう増援が来たのか!」

 男が懐から銃を取りだすと、アモスに向けて問答無用で撃ってくる。

 いきなりの銃撃に驚いたアモスだが、部屋のソファーの陰に隠れる。

「警察に知られた! 畜生! 警察にぃ! クソ! 警察どもめ! 見逃してくれぇ!」

 口ではそんなことをいいながら、男は叫びながら銃を乱射する。

 ドア付近にいるバークにも気がつき、そちらにも銃撃を仕掛けてくる半狂乱の男。

 バークは、慌てて物陰に隠れる。


 半狂乱の男は、バークとアモスを警察と思い込んでいるようだ。

 その誤解を解きたいと思っているのだが、男は一切聞く耳を持つような様子もない。

「待ってくれ! 俺たちは敵じゃない! 警察でもない! 落ち着いてくれ! 人を探しているだけなんだ!」

 バークが、半狂乱になって銃撃してくる男に話しかけるが、まったく聞き入れてくれない。

 男は新しい銃を取りだすと、さらに銃撃してくる。

 男は理性を失ったように目を血走らせ、何かを叫ぶが言葉になっていない。


「畜生! 畜生! だから俺は、こんなことしたくなかったんだよ! なんでこんなことに関わっちまったんだ! 何がゲームだ! ルーツーの野郎恨んでやるからな! あいつの話しに、乗っちまったばかりにぃ!」

 男は銃撃をいったん止め、足下の書類を全部かき集めると、暖炉の炎の中に放り込む。

 その隙を逃さず、アモスが男に向けて駆け込む。

 アモスの放った助走のついたパンチが、男の顔面にクリーンヒットする。

 吹っ飛び暖炉の角で顔面を、男は強打する。

 あっという間に、男を無力化するアモス。

 手にしていた銃を奪い取り、バークにもう大丈夫だという。

 男は地面でうめきながらも、まだ何かをブツブツしゃべっている。


「何? 聞きとれない! あんたさっきから何いってるのよ? わかるようにいってくれない?」

 アモスが、男に銃を向けながらいう。

 短くなったタバコを暖炉にプッと吐き捨てると、アモスのそばにバークが遅れてやってくる。

「もう終わりだ、こうなったらもう、最悪の結末しか残されてない……。どうせゴミみたいに扱われるぐらいなら、いっそ……」

 男は地面に伏しながら、そんなことをブツブツ繰り返し話している。

 流れる鼻血が、ポタポタと床を汚す。


「こっちは人を探しにきたのよ。あんたなんか、別にどうでもいいのよ。さっきから何か、ひとり先走ってないか?」

 アモスが、銃口を男に向けながら男にいう。

 男はそんなアモスの言葉も耳に入らないようで、ひとり床を眺めながら、絶望にうちひしがれているようにうなだれる。

「俺たちは、ふたりの神官見習いを探しにきただけなんだよ。ここに来なかったか?」

 バークが、暖炉で燃え上がる謎の資料を眺めながら、男に尋ねる。

「俺はあんたの敵じゃないから、安心してくれよ。いきなり銃撃してきたのも、目をつむるからさ。アモスも怒ってないだろ?」

「正直、イラッとはしてるけどね」

 男に向けていた銃を下ろし、アモスは近くのテーブルの上に置く。


「おい、あんた冷静になれそうか?」

 バークが、うなだれている男に声をかける。

「あんたら、覚えておけ、ニカ研ってのは最低最悪の企業だ……」

 男はそうつぶやくと、ズボンのポケットから何かを取りだそうとする。

「あんた! 何しようっていうのよ!」

 アモスが、うずくまってる男の肩を反射的に蹴り飛ばす。

 後方に吹き飛んだ男の手には、何かが握られている。

 そして、男は手にした何かを口に放り込む。

 男が口にしたのは、クスリのような錠剤だった。


「おまえ! 何飲んだ!」

 アモスが驚いて男に駆けよると、また顔面に一発パンチを浴びせる。

 地面に伏した男が、さらにクスリのような錠剤を取りだして、一気に飲み込もうとする。

「毒薬か! ヤバい! いそいで吐かせるんだ!」

 バークが驚いて男に駆けよると、手を男の喉に突っ込もうとする。

 しかし、男は目の焦点が消えた表情になると、ゴブッと血を口から噴きだす。

 そのまま昏倒した男が、地面で痙攣をする。

 口と鼻の穴から、大量の血が流れでる。


「おい! どうして、ここまでする必要があるんだ! 俺たちは、人捜しに来ただけだといったろ……」

 バークの後半の言葉が、弱々しくなる。

 男が目の前で死んだ。

「ダメだ、死んでしまったよ……」

 バークは、目をひん向いたままの血まみれの死に顔の男をそっと床に伏せると、アモスに向き直る。

「こいつ何か勘違いしてたみたいね。警察がどうとかいってたから、あたしらを警察と間違えたのかしらねぇ」

「その可能性は高いよな。しかし、いったいこいつ何を燃やしていたんだ?」

 バークが、暖炉で燃える紙を眺める。

「おっと、これだけ半分生きてるな」

 バークは暖炉の中から、燃えかけの書類を一枚拾い上げる。


「何が書いてあるのよ?」

 アモスが、バークの持つ書類をのぞき込む。

「投薬による、身体能力と知性の向上実験について、だとさ。どういうことなんだろうな?」

 バークが、書類に残された文字を読み上げる。

「投薬? 何かの実験をしていたってわけ?」

 アモスが腕を組んで考え込む。

「身体能力と知性の向上とあるが、どういうことだろうな……」

 バークも考え込むが、よくわからない。

「とにかく、もう少しこの建物は調査する必要があるわね。何か非合法な実験でも、していたのかしらね。こんないきなり銃を、持ちだしてくるヤツがいるってことは、ここ相当ヤバい建物かもしれないわね」


 アモスがまた一本タバコを取だすと、暖炉の炎でそれに火を点ける。

「目的の見習い神官が、無事だといいわね」

「それが一番心配だな。表の血溜まりも、気になるしな。無事であることを、祈るばかりさ」

 バークが燃え残った書類を折りたたんで、ポケットにしまう。

 騒動が一段落したので、バークは冷静になって部屋を眺める余裕が生まれた。

 部屋はリビングのようで、奥にキッチンがあり、そこには食べかけの食事が残っていた。

 いつも通りの食事中に、何事かがあったようだ。

 慌てて席を立ったのがわかるように、椅子が床に転がっている。


「確かここには、研究員が三人いるって話しだったよな。あとのふたりが、どこにいるのか気になるな。いきなり銃を撃ってくる相手だ、慎重にならないとな。ってアートンひとりで大丈夫かな? 不安だぜ」

 バークが、ひとりで行動をさせたアートンの身を案じる。

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