4話 「破壊される猿神信仰」

 リアンたちが、用意されているという捜索用の装備をもらいに、役場の老紳士と一緒に移動している時だった。

 廃墟になった廃屋辺りに、人だかりがあった。

 そこにいたのは、パルテノ主教の僧兵たちだった。

 見ると、パルテノ主教の僧兵が何かの建造物を、メイスで滅多打ちにして壊していたところだった。

「あれは何をしているんですか?」

 リアンが代表して、おそるおそる老紳士に訊いてみる。


「猿神の社を破壊しているんですよ」と、老紳士が苦々しい表情で教えてくれる。

「そんな大事そうなものを、あそこまで壊していいんですか?」

 アートンが、ガンガンと大きな音を立てて壊される建造物を見ながら尋ねる。

「まあ、多少心が痛みますが……。これも仕方ないことです。オールズ教の人間にとって、他の神は存在してはいけないようですからね……」

 老紳士がそんなことをいって、破壊される社から目を逸らす。

「古いしきたりからの脱却ってやつ? あたしは評価するわね。いつまでも過去に捕らわれてても、どん詰まりでしょうからね。多少強引でも、やっておく価値はあると思うわ。みんなは、この村の判断に若干引いてるようだけど、あたしは賛成ね」

 アモスが村の決断に対して、好意的な見方をする。


「この村は、猿との決別を決めたからね」と、力強い目で老紳士がつぶやく。

 その決意の表情は揺るがない。

「村を苦しめた、悪習からの解放というわけか……」

 バークが村の選択を理解しつつ、どこか残念そうにつぶやく。

 破壊される社を、リアンは不安そうに眺める……。

 社から引きずり出された猿の置物が、僧兵たちのメイスにより粉々に砕かれていた。



 社を破壊する様子を、建物から見ていた僧兵がいた。

 それはストプトンだった。


 かつてネーブ主教の下で鉄仮面と呼ばれていたストプトンは、今は露骨に不機嫌そうな表情をしていた。

 ストプトンは上司のクルマダに、強引にこの村につれてこられた。

 今はパルテノ部隊の、装備品のチェック作業に追われていた。

 猿を駆除するための銃器が、テーブルの上に並べられている。

 銃器は型の古いものが多かった。

 文化レベルが、かなり遅れているマイルトロン王国で入手した武器がほとんどなので、旧型のものばかりだった。

 それでも、猿の駆除にはじゅうぶんすぎる火器の量だった。


「おい! ストプトン、作業はもちろん順調だろうな?」

 ノックもされずガチャリとドアが開いて、クルマダとその部下たちが部屋に入ってくる。

「……問題ありません」

 鉄仮面が冷徹に応える。

「よしっ! これで猿どもを狩ればいいのだな。いいか、パルテノ主教に我らの心象を良くするためにも、この任務は全力で当たるんだぞ。相手が猿とて油断はするなよ!」

 クルマダの発破に、他の神官たちもうなずく。


 クルマダたち旧ネーブ主教の僧兵たちは、温かいとはいわないが、比較的すんなりとパルテノ主教から受け入れられた。

 それもひとえに、他の主教に比べて扱える兵隊の絶対数が少ないからだった。

 兵員が少ないから、自分たちも迎え入れられると判断したクルマダの考えは、いちおう間違いではなかったようだった。

 パルテノ主教の僧兵団、「ガミル聖堂騎士団」の一員として、信頼を取りつけようとクルマダたちの士気は高かった。


(まったくなんてことだ……。我々で、たかが猿を駆除するために? わざわざそのためだけに、よりによってパルテノを動かすとは、この村どうかしているぞ)


 ストプトンは死んだような目つきで、銃器を手にしているクルマダたち仲間を見ながら、心の中で悪態をつく。


(くっ! 逃げるなら、もっと早く行動しておくべきだった)


 ストプトンの中には、ネーブ暗殺後の身の置き方についての後悔しか存在していなかった。

 おとなしくライ・ローと早々に合流していれば良かったと、ストプトンは何度も後悔していた。


 意外にもドアがノックされ、パルテノの部下の司祭がやってくる。

「ストプトン。パルテノ主教がお呼びだ。顔を貸せ」

 パルテノの部下はストプトンを呼びつけると、すぐに部屋から出ていく。

「なんでお前なんだ? あのネポロ司祭と、いつの間に知り合っていたんだよ」

 クルマダは、自分ではなくどうしてストプトンなのか不満そうだった。

 クルマダはストプトンの、過去の経歴を知らないから無理もなかった。

「ちっ、さっさと行ってくるんだ。くれぐれもパルテノ主教には、失礼のないようにするんだぞ! もちろんネポロ司祭にもだぞ! おまえの失態で、俺たち全員の評価が下がるんだからな!」

 クルマダはいちいちうるさい。


(ネーブ主教がいた際は、ここまでうるさいヤツではなかったんだがな……)


 そんなことを思いながら、ストプトンは部屋から出る。

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