13話 「採取依頼」
「コーリオの花ですか?」
リアンが考え込みながらいう。
リアンたちは五人全員そろって、近くの惣菜屋で買った質素な夜食を摂っていた。
窓からは照明を灯したフォールの大船団が、また艦隊運用の訓練をしている。
リアンたちは、今夜は最初に泊まったホテルに、結局滞在していた。
ヨーベルが泊まりたいというカジノつきホテルには、明日に移動する予定だった。
「いったろ、クレッグは元々、植物学者になりたかった男なんだって」
アートンが今日チルからもらってきた、バスカルの村のパンフレットを見ていう。
リアンたちは、今日アートンが仕入れてきたチルとの接触の顛末を聞いていた。
そして、バークの口からも、クレッグ・チル中尉という人物が信用おけると聞かされた。
「本当なのかしらねぇ。このオジサン以外と抜けてるからさぁ」
アモスが胡散臭そうに、バークからチラシを引ったくる。
「おまえが、人物を観察してこいっていったんじゃないかよ。ちゃんとやってきたのに、なんで文句いわれないといけないんだよ。勘弁してくれよ……」
バークが、ヤレヤレという感じでアモスにいう。
「で、なんで猿の楽園なんて、キャッチコピーがついてるのよ?」
バークから奪ったチラシを見ながら、アモスが訊く。
「見ての通り、野生の猿との共存が、その村の売りで観光名所だからだろ」
アートンがいい、アモスをチラリと見る。
「コーリオの花って、どっかで聞きましたよね、最近」
探して欲しいという花の名前を口にし、ヨーベルが首をかしげる。
「あいつらでしょ、この街に入る時に拾ったふたりの神官見習い。あいつらが探したいとか、いってたでじゃない」
アモスの言葉に、ヨーベルが「おお~」と思いだして手を打つ。
「名前なんか忘れちゃったわね、なんだけ」
「パローンとネーティブだな」
バークが惣菜を頬張りながらアモスにいう。
「そんな名前だったかしらね、いっさい覚えてもいないわ。でも、こんなんだったら、こいつらと一緒に、その村に行ってれば良かったわね」
アモスの言葉に、リアンが軽くうなずく。
「で、そのあんたの旧友ってヤツ! クソ生意気にも、交換条件を突きつけてきたってわけね。この花を探してこないと、助けてやらねぇってか! いい度胸してんじゃないの!」
見返りを求めて交渉してきたチルのやり方に、アモスが不愉快そうにいう。
「協力を惜しまないと約束してくれたんだ、いい条件じゃないか」
アートンが。眉をしかめてアモスにいう。
「本人も、後日ひとりで捜索しに向かう予定だったそうだが、そこに俺が現れて渡りに船って感じで、よろこんでくれていた。しかも、面倒な詮索も一切してこなかったし、取引としては上々だろうよ」
「アートン以外の仲間については、まったく口外してない。尋ねもしてこなかった、これは本当だよ」
バークがアートンの言葉を補足する。
「いわゆる~、お使いクエストですね~! まるで冒険のミニイベントみたいです~! ここから本格的に冒険のはじまりって感じです! いつ出発するんですか? 可愛いお猿さんと、触れ合うのも楽しみですよ~!」
ヨーベルが、脳天気によろこんでいる。
「帰りに、バスカルの村までの行き先を調べておいたよ」
バークがメモを取りだす。
「三日に一度しか、今はバスがでてない辺鄙な場所らしいね。で、ちょうど二日後にバスがあるみたいだよ。それを使って、村に向かう予定さ」
バークが、調べてきたメモを見ながらいう。
「全員で、小旅行みたいですね」
リアンがうれしそうにする。
「違いますよ、お使いイベントです。でも、大事なイベントです~。冒険には欠かせない要素ですね、舐めてはいけません!」
ヨーベルに真顔でいわれ、「は、はい」と、リアンはうなずく。
「先行してるふたりの、え~と名前思いだせないわ。なんとかっていう二人組が、花を見つけてたら、探す手間も省けるでしょうね。っていうか、そもそも、簡単に見つかるような花なの? その辺りちゃんと訊いたの? 幻の花とか一応いわれてるんでしょ、とんでもなく辺鄙な場所に生えてて、採取も困難だってオチなんじゃないの?」
アモスにいわれ、アートンとバークが互いの顔を見つめ合い黙り込む。
「訊いてなかったのね、大した交渉人だこと、関心しちゃうわ。とんでもなく、危険な場所に行かなきゃダメ、だったらどうするのよ。そもそも、普段着で気軽に採取に行けるような場所なの? うわ、これも訊いてないな……」
反応の悪いアートンとバークの様子を見て、アモスが眉をしかめる。
「アートンは当然としてよ。バーク! あんた、またこういう場面で、詰めの甘さがでてるわよ! ほんと、肝心な場面で任せられないわね、あんた。かなりガッカリっていうか、不安すら覚えるんですけど!」
アモスに指を差され、バークが申し訳なさそうな表情をする。
「まぁまぁ、まずは村に行ってみて、村で色々情報を集収しようよ」
リアンが、アモスをなだめながらいう。
「村人に話しを訊くのは、クエストの基本です~!」
「あんたはさっきから、訳のわからないことばっか、いってんじゃないわよ!」
脳天気なヨーベルに、アモスが強めの手刀をたたき込む。
ゴスっという鈍い音が響く。
「猿と同じく、花も観光名所にしてたぐらいなんだし……。村人に訊けば、案外すんなり、見つけられるかもしれないよ。それ専門のガイドさんも、いるかもだし」
リアンがチラシを見ながらいうが、若干チラシがボロボロで、古いのが実は気になっていた。
いったい何年前に刷られたチラシなのだろうか……。
「で、必要経費とかは当然、あんたのダチ持ちなんでしょうね」
「ああ、それは問題ないよ」
アモスにいわれ、アートンが封筒に入ったお金を出してきた。
「前金で十万フォールゴルドもらってる、花を持ち帰ればもう十万もらえることになってるよ。悪くない取引だろ? 帰路についても、あいつの知り合いのツテで、移動手段を用意してくれるっていうしな。後方支援担当をしていたヤツだ、物資調達はお手の物だぜ。人脈もあるだろうし。な? 頼って正解だったろ?」
アートンが、自信満々にいってくる。
「あんたのドヤ顔が、ムカつく! でもまあ、信用メーター少しアップだ、せいぜいよろこべ」
アモスの言い草に、渋い顔をするアートンだが無視しておくことにする。
「あたしらが、この村に行ってる間に、海戦終わってないだろうな。それが気がかりだわ」
「もっと、気にすることあるだろ」
アモスの言葉に、バークが呆れたようにいう。
「あの!」と、リアンがここで挙手してくる。
「じゃあ、村に出発するまで、明日は一日、皆さんで街を観光できますか?」
リアンが、期待を込めた視線でいってくる。
「いや、それなんだが、ほら、役所の観光課に例の書類を届けないと」
「あと、もう少しクレッグと、話しを詰めておきたいんだよ」
バークとアートンにいわれ、リアンは少しガッカリする。
「せっかくのリアンくんの頼みを無下にするとは、お偉い身分ねぇ」
アモスがちくりと嫌味をいう。
「すまないな、でも、バスカルへの旅は五人で向かえるから、それまで我慢しておくれ。バスで、丸一日の旅路らしいからね。けっこうな小旅行になるよ」
バークがそういって、リアンを安心させる。
「小旅行ね……」
アモスは、古臭いバスカルの村のチラシを胡散臭げに見る。
可愛い猿が、村人たちと仲良く共存しているイラストが描かれている。
「ったくよぉ、これ、何年前のチラシなのよ」
アモスは、つまらなそうにチラシをテーブルの上に置く。
「可愛いお猿さんと友達になろう!」そんな文言が書かれていた。
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