12話 「接点の宿」 前編

「金づるよ!」

 アモスが急に叫ぶ。

 アモスが指差す方向を見て、リアンは肝を冷やす。

「オールズさんが……、ですか?」

 ヨーベルが、オールズ神官たちの姿を見つけて首をかしげる。

「アモス、勘弁してって、どうやってお金手に入れるんですか」

「どうせまた、サイギンみたく、ガラクタ売りつけるんでしょうよ。そこから拝借するのよ、いい案でしょ」

「いい案じゃないです!」

 リアンがアモスに、やや大きな声でいう。


「お願いですから、盗賊みたいなことするのはもう止めて下さいよ」

 リアンにいわれ、アモスがじっとりとした目つきで見てくる。

「そんな目しても、僕、絶対強盗みたいなこと、許可しないですよ。オールズ教会の人も、いちおうお仕事でやってるんですから、それを掠め取るようなことは駄目です。お金を払うことで、その一帯を、とりあえず教会が保護してくれることに、なるんですから。必要悪と、割り切ってください」

 リアンが真剣にアモスに説得する。

「……リアンくん、あたしには、きちんと怒ってくれるのね」

 そういうアモスの顔は、どこかうれしそうだった。

 顔を紅潮させて、諫めてくるリアンの頭をアモスがなで回す。


「悪いことしようとしたら、正さなきゃ駄目だと思いますから!」

「リアンくんは、立派な男の子です~。アモスちゃんを悪の道から矯正してくれる、正義の、正義の、え~と、なんかです!」

 リアンの肩を持つヨーベルが、また妙なことをいってくる。

「アモスちゃんは、リアンくんをガッカリさせるようなこと、しちゃダメですよ~。リアンくんに愛想つかされたら、メーター振り切って冒険終了でゲームオーバーです」

 ヨーベルが、アモスのほっぺたを突いてくる。

「わかったわよ、ちっ、せっかく極上の金づるだったのにさ! っていうか、オールズの連中のくせに、やけにボロっちい宿に泊まってるわね。ネーブがいなくなって、金策苦しんでるのかもね」

 アモスが見かけた、僧兵たちが泊まる汚らしいボロホテルを見て、クスクス笑う。


「ねぇ、僕たちも、あれぐらいの宿にしようよ。お金は、大事に使いたいからさ」

 リアンがオールズ教徒が宿泊している、ややボロい宿を指差す。

「わかったわよ。ヨーベル、あんたのチョイスで、選ばしてあげるわ。どんな怪しげな宿を、あんたなら選ぶかしら?」

 ヨーベルはそういわれ、周囲のホテル街を眺め回す。

 そして、ビシリと一件のホテルを指差す。

「あそこがいいです! なんだか、賑やかそうです!」

 そこは、やはりネオンが光り輝く、いかがわしそうな宿だった。

 しかも、トランプの電飾が輝いており、カジノが常設されているようだった。

 ネオンでペカペカ光った、「勝利の白黒うさぎ亭」という屋号がデカデカと読めた。


「そういやあんた、ギャンブル狂だったわね。宿泊期間中に、どれだけ勝てるか任せてみるか」

 アモスがヨーベルに、十万フォールゴルドほどを握らせる。

「この娘にできる稼ぎって、案外、ギャンブルなのかもしれないわよ」

「ううう、そういうのも、どうかと思うけど……」

 目を輝かせているヨーベルを見つめ、リアンが困惑したようにいう。

「はいはい、そういわない。あたしに悪さして欲しくなければ、あのカジノつきの宿に泊まるわよ」

「どういう理由なんですか……」

 半ば強制的にアモスは泊まる宿を決める。


 カジノがあるホテルから、悲壮感漂う泊まり客が出てきて、その表情の落胆ぶりを見てアモスが指を差して笑う。

「ボロ負けしてすべてを失ったような顔よ! ほんとにあんな顔になるのね」

 アモスの言葉に驚いて、リアンは慌てて彼女の手を下ろす。

「人を指差さない! ダメですよ、そんなことしちゃ!」


 リアンたちが、現在泊まっているホテルに向かって歩きだし、雑踏に踏み込んだ辺りだった。

 リアンがホテルに帰る前に、アートンとバークを向かえに行こうと提案する。

「ああ、そういや、あのふたり忘れてたわね。いなくても全然気づかないわね。もうパーティーにいらないんじゃない?」という、アモスの言葉にリアンは眉をひそめる。

「ここから、あのホテルまで戻るのでもかったるいのに、ふたりまで回収しなきゃダメなの~」

 アモスが面倒臭そうにいう。

「放っておくわけには、いかないでしょ」

 リアンが呆れたようにアモスに声を上げる。


 そのリアンのセリフを聞いて、アモスとヨーベルが何故かクスクス笑う。

「リアンくんも突っ込み役として、レベルが上ってきたわね」

 アモスがそういって笑う。

「リアンくんの突っ込みスキルは順調に上達していますよ。いつかわたしもリアンくんから、脳天にチョップ食らわされそうです。 成長に期待大ですよ!」

 ヨーベルがニコニコしながらリアンにいい、リアンが困ったような顔をする。

 アモスが、道路に向かって不意に片手を上げる。

 そしてタクシーを止めると、これで戻るわよという。

 また無駄遣いをしてと思うが、アートンとバークに、早く合流したいと思ったリアンは素直にタクシーに乗り込む。

 ヨーベルは、まだぼうっと周囲を見回して、景色や人々を観察している。

「ほら、さっさと乗りなさいよ!」

 そういってアモスに手をつかまれ、強引にヨーベルもタクシーにつれ込まれる。

 カジノのあるホテルの入り口をじっと見つめて、ヨーベルはそこから出てくる悲喜こもごもの人物たちを興味深そうに観察する。

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