9話 「接触」 後編
「まさかこんなところで出会えるなんて、ほんと夢みたいだよ! で、恩赦ってのはいつ?」
チルが、アートンに訊いてくる。
「一年前だよ……。いろいろ身内が尽力してくれてな……」
アートンがチルを向かいに座らせて、面会していた。
「そうか、それは良かったよ。やっぱり、スワック中将のお力もあったのかい?」
「その件に関しては、すまない、あの方にご迷惑がかかるから……」
「そ、そうか、深く訊くと悪いな」
小声でそういい、チルは周囲を警戒する。
「いや、いつかおまえには真相を話したい、だけど、もう少し待ってもらえるとありがたいよ。俺も、今は新しい仕事で大忙しでな」
「行商人だっけ?」
アートンから渡された、ヒュルツの村のパンフレットをチルが見る。
「観光地化を進めていてな、そこで必要な物資を届けたりしてるんだよ」
「なるほどなぁ、それにしても、まさか君がフォールに来てたとはねぇ」
「エンドールじゃ、いろいろあったからな……」
「うん、無理もないね。でも、本当にこうして再会できてうれしいよ。もう二度と会えないと思ってたぐらいだよ!」
そういってチルが握手を求めてくるので、アートンはそれを握り返す。
バークは、すぐ後ろの席で雑誌を読みながら、アートンとチルのやり取りを盗み見ていた。
「うむむ、確かに人間的に信用が置けそうなヤツだな。それに、本当に彼中尉なのか、それが信じられないな。いや、軍人らしからぬ男とはいってたしな……」
バークはコーヒーを追加で注文をすると、新しい雑誌をラックに取りに向かう。
クルツニーデの機関紙を発見して、バークはそれを手に取る。
「ティチュウジョ遺跡か……。海に沈むハーネロ期の巨大遺跡か。ヨーベルがやたら食いついてたヤツだな。何が理由で存在していたのも不明なのか。親子二代に渡り、遺跡探索に命を賭けるねぇ……」
バークはポーラー親子という、クルツニーデのキタカイ支部長の紹介記事を読む。
「何かに没頭できるってのは、それはそれで幸せなんだろうな。だが、クルツニーデか。信用ならない連中ってのが確定している以上、この親子も、うがった目で見てしまうな……。ん?」
ここでバークが、記事にある写真を見つける。
「このスタジャン……。アモスがジャルダンで着てたやつだよな……」
男性クルツニーデ職員が、黒と白でデザインされたスタジャンを着ていたのだが、それはかつてアモスがジャルダン島で着ていたのと同じものだった。
「……あいつ、自分はクルツニーデかもしれないし、そうでもないとも、いってたんだよな。なんでこの衣装を着てたのか、追求してみたいが、絶対藪蛇だと思うんだよな。ヤツに関しては、もうしばらく正体について追求するのは避けておくか。今は心強い仲間だし、リアンのおかげで凶暴性も低くなったしな。旅自体を楽しんでるようだし、好きなようにさせておく限り、心強い味方でいてくれるだろうな」
すると、バークは前の席のアートンが、こっちを見てゴーサインを出しているのに気づく。
「アートン、いよいよ本題に入るのか……。あの温厚そうなのなら大丈夫と思うが、ヘマだけはしないでくれよ……」
バークはそう願い、クルツニーデの機関紙に目を落とす。
「ポーラー親子の念願、ティチュウジョ遺跡の再浮上。必ず再浮上させ、ティチュウジョ遺跡の謎を解き明かしてみせます!」
という見出しの記事をバークは読む。
「ふうむ、信念の人って感じだな、この支部長さんは。こういう人は、執念深いだろうし、当然厄介な性格もしてるだろうな。なおさら関わり合いたくないものだな」
「エンドールに?」
チルの大きな声が聞こえて、バークがドキリとする。
どうやらアートンが本題に入ったようだ。
バークが不安そうにそちらを眺める。
またアートンと目が合うが、俺に任せろというのを目で訴えてくる。
「実はエンドールに、向かいたいっていう仲間がいてな。ほら、せっかくキタカイまでエンドールの領土になったろ? あわよくば、グランティルの統一だって夢じゃないと思ってるんだよ。でな、俺としてはここでまた、エンドールに戻ってみたいと思っているんだよ。そっちで事業拡大を目指したいんだ」
そうアートンが力強く訴える。
「ヒュルツはどうするんだ? まだリゾート地として完成してないだろ?」
「そっちは部下に任せるつもりさ。相当軌道に乗ってるからな、こっちの方面は。俺は、エンドールとフォールの輸送ルートを確立させたいんだよ。ついでに、このビーチをエンドールにも宣伝したいっていうのもあるんだ。どうだい、最高の海だと思わないか?」
青い海の写真がふんだんに使われたパンフレットを開いて、アートンが力説する。
「この白い砂浜に、首まで埋まってみたいなぁ」と、チルがうっとりつぶやく。
「だろう? おまえならそういうこと思うと思ったよ」
「うむむ、魅力的だね、特に自然環境も」
パンフレットに紹介されている、ヒュルツの自然の説明文を読みながらいうチル。
「フォールでは珍しい南国特有の植物も自生してるんだぜ。おまえの好きな植物も観察し放題だぜ」
「いやぁ、存在は知っていたが、こんな魅力的な土地だったんだな」
「誰もが口を揃えて同じセリフをいうぜ。どうだい? そのために、おまえの力、軍の力を借りられたらって思ってるんだ。どうだろうか? 力になってくれないか? エンドールまでの道のり、途中マイルトロン領を通らなきゃダメだろ。その辺りの行路に不安が多くて、なかなか踏ん切りがつかなかったんだよ」
アートンが本題に入る。
「確かに、あの道中は、今も危険が多いからなぁ。心配は理解できるよ」
「だから、おまえの力を借りて、安全なルートを教えてもらいたいんだよ。もちろんタダなんていわないよ。行路が確保できた暁には、おまえにも軍にも報酬を支払うさ、ビジネスだからな」
手で金のマークを作り、わざと商人ぽさを出しつつアートンはいう。
「ふぅん……。アートン、あんたしばらく会わなくなってたら、すっかり商人になったんだなぁ」
「俺もおまえと同じで、軍人は元々性に合ってなかったってだけだよ」
「ハハハ、そうかもね。実はね、いや、このことはまだいいか。とりあえず、君のいい分はわかったよ」
何かいおうとしたことを飲み込んで、チルは納得したようにうなずく。
「どうだい? 決して迷惑はかけたりしないよ。マイルトロンじゃ、軍人どもが勝手にガイドや警護のバイトをしてるとかいうじゃないか。しかも相当悪どい、ぼったくり金額なんかで。俺は、そういうのも一掃して、正しい価格で安全な行路を確保したいんだよ。そのためには、おまえみたいな信用できる軍の人間が必要なんだよ。ここでおまえがいるって知って、これは天啓に似た何かを感じたくらいなんだよ」
アートンが大げさ気味に語る。
それを耳にしていたバークが、やや不安になるが、チルは特に怪しんでいる風でもないようだ。
「その熱い思い、きみらしいな。なんか変わってなくて安心したよ。そうだなぁ、きみの願い、僕なんかでよければ協力してあげてもいいよ」
「ほ、ほんとか! ありがとう! ここで出会えためぐり合わせに感謝だよ!」
アートンがうれしそうに快哉を叫ぶ。
「だけどね、ひとつ条件があるんだけどいいかな?」
ここでチルが条件を提示してくる。
「その依頼を受けてくれたら、僕も全面的に協力を約束するよ。親友のきみに交換条件を提示するのは心苦しいんだけどね。今は頼れる人が、タイミング良く現れたきみしかいなくてね……。お願いできるかい?」
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