2話 「ふたりの神官見習い」 其の一

 ふたりの神官見習いは、パローンとネーティブという若者だった。

 まだともに、二十代半ばといった若さだった。

 妙に愛想がよく、特にヨーベルとの会話を楽しんでいる感じだった。

 ヨーベルに構う男を総じて嫌うアモスだったが、今回のふたり組に対しては特に敵愾心もない感じだった。

 ヨーベルに対してデレまくっているふたりの見習い神官に、やっかいな因縁をふっかけたりもしなかったのでリアンは安心していた。

「あんたたちって、ほんとに教会の人間なの?」

 後部座席に座るアモスが、信じられないといった感じで、ふたりの見習い神官にいう。

 リアンが安心したと思ったら、こんな挑発的な発言をするので身体をこわばらせてしまう。


「急にどうしてだよ?」と、アモスに尋ねる運転席のパローン。

「その口のききかたよ。そこらの普通のにいちゃんと、変わんないじゃない? 教会関係者ってのが、まず疑わしいわ!」

 アモスがビシリと決めつけるようにいうが、以前同乗したケリーたちに対するような敵意に似た印象はない。

「いや、あのオールズの人間だからこそ、その軽薄さもありえるのかしらね」

 それでもかすかに残った警戒感を含むアモスの言葉に、パローンとネーティブは困惑した表情をしてしまう。

「アモス、助けてくれた人を……。あんまり失礼なこといわないでね」

 リアンが、隣に座るアモスに注意する。


「ま、まあ、数ヶ月前までは、俺たちもオールズ教会に、実際、籍置いていたわけじゃないからなぁ。まだ、そういう風に見えなくても、当然かな。本当に、駆けだしのペーペーだからね、俺たちふたりとも」

 助手席に座るネーティブが話してくる。

「そうなんですか? じゃあ、それまでは何をしてたんですか~?」

 ヨーベルが、興味深そうに訊いてくる。

「俺たちは元は、マイルトロンの商家の息子でしてね」

「そそ、俺が鍛冶屋で、ネーティブが仕立屋なんですよ」

 ヨーベルに話しかける時は、パローンとネーティブの顔がニヤける。


「マイルトロンの人なんですよね?」

 リアンが、驚いたように尋ねる。

「カンズリーンって場所さ」

 パローンが教えてくれる。

 リアンが地図を出してきて場所を確認する。

 その街はクウィン要塞の北西部に位置する、ほぼフォールよりの街のようだった。


「なあ、ひとつ訊いていいかい?」とバークが質問する。

 クウィンがどうやって落ちたのかを尋ねたのだが、ふたりも知らないとのことで、この話題はここで終わった。

 バークとアートンが若干ガッカリする。

 この話題に対する明確な回答が、いつか果たして得られるのか、バークは不安になる。


「おふたりはどういった理由で、キタカイに来たんですか?」

 ヨーベルが質問すると、ふたりの神官見習いは表情をうれしそうに崩す。

「わけあって探しものをね」

 ネーティブが、後ろを振り返りながらいってくる。

「探しもの、ってなんですか?」

 ヨーベルがさらに尋ねてくる。

「コーリオの花、って知っていますか?」

 デレデレしながら、ネーティブがヨーベルに訊く。

「コーリオの花?」

 アモスが怪訝な顔をして、タバコを取りだそうとする。

 それをリアンが、待ったをかける。

 リアンの無言の圧力に、ため息をついてアモスがタバコをしまう。


 一方、後部座席に座っていたバークが、コーリオと聞いてピンときていたが、何もいわずにいた。

 隣のアートンが窓の外を見て、「また雨、振ってきたな」という。

「ああ、厄介な天気だな」と、バークが答える。

「オールズの聖典ダイアリに登場する、奇跡の花とも呼ばれてるものらしいんだよ。あまりにも美しい花の姿に、ビックリ仰天、見たものの病を治すとか、ね」

 ハンドルを切りながら、パローンがそういってきた。

「ただ、その存在は、ほぼ幻といっていいんだよ。今は、ほとんど絶滅種らしくて、その生息地が限られているんだそうだ」

 ネーティブが、地図を出してきて指で示す。


 リアンたちが地図をのぞき込む。

 バスカル山という山に、チェックがつけられているのが見えた。

「このバスカルという山にしか、生息してないんですか?」

 リアンが尋ねると、ネーティブが「そうだよ」と答える。

 キタカイの北西に位置する、山岳地帯のようだった。

 チェックマークの近くには、バスカルの村という集落があるらしい。

「そんな幻の花を探す大冒険に、おふたりはでかけたのですね! すごいです! 冒険、冒険、憧れます!」

 ヨーベルが目を輝かせていう。


 その言葉に、パローンとネーティブがうれしそうに顔を崩す。

 それを見たアモスが、眉をしかめる。

「あんたらやっぱ、聖職者なんて向いてないと思うわよ。デレデレしちゃってさ、自由を得たんならもっと別のこと、したらいいじゃない。よりによって、オールズとか、なんの冗談だよって話しよ」

 アモスにいわれ、バツの悪そうな顔をするふたりの見習い聖職者。

「それに関しては、いろいろわけありなんだよ」

 頭をかきながら、ネーティブがいう。

「商家のボンボンが、どうして教会に入るのよ。なんだか良からぬ下心があって、オールズ神官目指してるとしか思えないわ。実際、そういう輩、いろいろ見てきたからね!」

「ちょっと、アモスって」と、リアンが慌ててアモスを止める。

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