15話 「命懸けの制止」 前編
「な、な、なんだぁ!? 貴様ら何者だ!」
ドアを開けて入ってきたオールズの神官。
その集団は五人いた。その中のひとり、やけに小柄な男の声が教会内に響き渡る。
「いったい何者だ! どうしてここにいる! 貴様らここの村人か!」
「なんでオールズの坊主が来るのよ? お前こそ何者よ!」
冷静に考えれば、教会にオールズの神官が来るのは当たり前なのだが、アモスが怒鳴り返す。
「貴様らっ! 神聖な礼拝堂で何をしている!」
小柄な神官が、ズカズカ入ってくるとキーキーと甲高い声でわめく。
「あ、こ、これは……」と、アシュンとハイレル爺さんがうろたえる。
「も、申し訳ありません」と、ハイレル爺さんが小柄なオールズ神官に深く頭を下げて、許しを請う。
「なんじゃ、貴様がここの責任者か! 名を述べよ!」
小柄な神官が、自分より大柄なハイレル爺さんに威圧するように誰何する。
「ここの管理をしております、ハイレル・トマルと申します、神官さま」
ハイレル爺さんが、頭を下げたまま恐縮したようにいう。
「なんだよ、いきなりよぉ。おまえこそ誰だよ!」
そういって、アモスが立ち上がろうとしたら、バークとリアンが彼女の腕を同時につかむ。
無言のままのふたりが、視線でアモスに「我慢しろ」という。
ふたりに押さえ込まれたアモスを一瞥して、小柄な神官がまたハイレル爺さんに向き直る。
そして、教会にいたリアンたちが、食事を摂っていたのを見つける。
「貴様ら! まさか教会内で飲食をしていたのか! なんという不敬な!」
小柄な神官の顔が怒りで歪む。
やけにネズミによく似た顔をした小柄な神官の口から、前歯が歯茎ごとむきだしになる。
「も、申し訳ありません、すぐに片づけますので!」
アシュンが慌てて、周囲の皿やカップをしまおうとする。
しかし、慌てすぎてカップを床に落としてしまう。
砕け散るカップの音が、緊迫した教会内に響く。
飲み物が入っていなかったのが、さいわいだった。
急いでアシュンが、床に散らばったカップを拾おうとかがみ込む。
「なんという罰当たりな……」
突然乱入してきた神官たちが、わなわなする。
「すみません! すみません!」
お盆の上にカップと食べかけのサンドウィッチを乗せ、アシュンが奥の部屋に駆けだす。
「ヨーベルさん、あなたもお茶を片してくださらんか」
ハイレル爺さんにいわれて、ヨーベルもあわてて長椅子の上にあったカップと空になった皿を持って、アシュンの後を追いかける。
バタバタとヨーベルもその場を離れていく。
「大変失礼な場面をお見せしました」
ハイレル爺さんが、頭をオールズ神官たちに下げたまま謝罪する。
「ハイレル・トマルといったな! 貴様がこの教会を管理しているのか!」
「は、はい、そうであります!」と、ハイレル爺さんがいう。
開いた教会のドアの向こうに、彼らを案内してきた村人たちがいて、固唾を呑んでことの成り行きを見守っている。
「貴様が、今までこの神聖な場を、どのように扱っていたのか、よく理解したわ」
小柄な神官が、ネズミのような表情を歪めていう。
「先ほどのは……、も、申し開きできません……」
ハイレル爺さんは、その場にガバリと土下座すると、額を床に打ちつける。
その様子を、ちょうど帰ってきたアシュンとヨーベルが見てしまう。
「お爺ちゃん……」
アシュンは、祖父の土下座する様を見て絶句する。
「ド田舎の漁民無勢に、このように扱われるとは……。聖ベーレさま、おいたわしい限り。恥を知れい! このバチあたりものどもがっ!」
ネズミのような、小柄な神官が一喝する。
そして黙り込むと、クンクンと鼻を嗅ぐ。
「この臭い、まさか貴様ら、タバコを吸っていたというのか!」
小柄な神官が、アモスがうっかり火を点けたタバコに気がついたようだ。
そして、臭いの主であるアモスをにらみつける、小柄な神官。
「なんだぁ? おまえも一服するか?」
アモスが、にらんできている小柄な神官に、挑発するようにタバコを向ける。
慌ててリアンがその手を下ろし、何度も頭を下げながらタバコをアモスの手から取り上げる。
「いきなり来て、おめぇらは、なんなんだよ!」
アモスが、リアンとバークに腕をつかまれたまま、オールズ神官にいう。
慌ててバークが、アモスにアイコンタクトをするがスルーされる。
「こらっ! なにすんのよ! てめっ! どこ触ってるのよ!」
アモスが、自分をさらに強く押さえつけてきたバークに怒鳴る。
「申し訳ありません! この女ちょっとおかしいので」
アモスを長椅子に押さえつけながら、バークはいう。
「いい加減、離せ!」叫んだ途端、リアンがアモスの口をふさぐ。
「お願い、アモス! ここはアシュンたちのために我慢しよう」
リアンに口をふさがれたまま、アモスはそういわれる。
「ふんっ! 血の気の多い蛮族みたいな女だな! フォールの土人は民度も低い」
今にもオールズ神官に殴りかかりそうなアモスを、バークとリアンが必死に抑える。
小柄な神官が、ハイレル爺さんの側まで歩く。
「いいか、ハイレル・トマル。今日見たことはすべて、主教に報告させてもらう。村人の話では、貴様はまだ正式なオールズの信者ではないと聞く。今日まで、ここを管理してきた件は評価するが、先のような不敬な行為は決して許されるべきではない。後日調査団がくるだろうから、その結果で処分を受けることになるだろう。しかと覚悟しておくのだな!」
ネズミのような神官にそういわれ、ハイレル爺さんは土下座したまま、さらに頭を床にこすりつける。
「とりあえず、こやつの処分はあとだ、目的はあれだからな」
小柄な神官が目配せすると、仲間の神官が祭壇に上がる。
そして、ベーレ像から外套を奪っていく。
「あの……、それ持っていくんですか?」
ヨーベルが思わず口を出してしまう。
「持っていくだと? 勘違いするな! 本来これは、我らオールズ教会のものだ! 正式な持ち主に返すのが道理であろう!」
小柄な神官に一喝されて、ヨーベルが怯える。
「違うか! ハイレル・トマル!」
神官の声が再び教会内に響き渡り、ハイレル爺さんが土下座したまま、また頭を床に打ちつける。
「ははぁ、どうぞお持ち帰りになってくだされ……」
ハイレル爺さんが、床を向いたままいう。
「価値ある外套を、このような汚らしい場所で、ぞんざいに保管してきたことも責めるべきだろうが、今はよい、見逃しておいてやろう」
奪い取った外套を眺めながら、小柄な神官が吐き捨てるようにいう。
その間もアモスはずっと、リアンとバークに押さえつけられたまま、神官をにらんでいる。
「このような邪悪な女とともに居つづけたとは、聖ベーレさまの心中お察しいたしますわい」
小柄な神官は、アモスに一瞥をくれると、仲間とともに教会から出ていこうとする。
「近日中に人を送る! それまでここには、部外者以外二度と立ち入れるでないぞ! 以降、ここは我が、オールズ教会が正式に管理する!」
そう高圧的にいうと、オールズ神官たちは立ち去っていった。
バタンと教会のドアが勢いよく閉まる。
それと同時に、アシュンがその場に泣き崩れる。
そんなアシュンに、ヨーベルが心配そうに声をかける。
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