7話 「観光地化事業はじめ」 後編
「なぁに? アシュン、他のお客に対して粗相とか、しまくってるの?」
アモスがそう尋ねてくる。
「いや、概ね好評ですがねぇ……。見ていて危なっかしいものですから、心配で心配で。お客さんたちも、初めてこの娘見た時は、不安でしたでしょう?」
ハイレル爺さんの言葉に、リアンたちが固まったようになる。
「でしょう……」と、リアンたちの反応を見て、ハイレル爺さんが納得したようにうなずく。
「単なるお客さんじゃなく、村の今後に関わってくる人と多く接しますからなぁ。この娘の危うさに、もう、毎回ハラハラしておりますよ」
ハイレル爺さんが目をつむって、またため息をつきながらいう。
「それを含めて、修行だと思えばいいじゃない。この娘は接客業、実際ナチュラルに向いてると思うし。あんまり押さえつけないほうがいいと、あたしは思うわね」
アモスがタバコの煙を吐きだしながら、アシュンを擁護する。
「アシュンちゃんは、自然なままが魅力なのです! わたしと違って、したたかさがない分、好感触ですよ!」
サムアップしながら、ヨーベルがそんな言葉をいう。
「あんた、自分でそれいうのかよ……」
アモスが呆れたようにヨーベルにつぶやき、灰皿でタバコを揉み消す。
「明日は、海をまた間近で見てみたいですね~。キラキラして青くて、波の音が心地よくて、いやぁ、最高でしたよ。わたしの故郷の海は、こんなに綺麗な青さじゃなかったのです」
ヨーベルがうっとりと、思いだすようにいう。
「でしょっ!」
アシュンは、とても元気な返事をヨーベルに返す。
気を抜くとすぐに、歳相応の少女の口調になってしまう。
ヨーベルとは精神年齢が近いからなのか、よく素の反応を、アシュンは無意識にしてしまう。
「明日は是非、浜辺に行ってみるのをオススメ!」
アシュンは、ヨーベルのようにサムアップしていう。
「残念だけど、まだ海に入るのは、寒いから禁止だけど……。遊覧船で、少し沖のほうまでなら、案内してますよ!」
ポケットから次は、遊覧船のパンフレットまで出してくる、営業熱心なアシュン。
船の床がガラス張りになっていて、青い海を船倉から見渡せるというのが、売りのツアーらしかった。
「リアンくんは、記念品マニアだから、こういうのよろこびそうね」
アモスが笑いながらいってきて、リアンは赤面してしまう。
実際、記念にもらおうと思っていただけに、リアンは先読みされて恥ずかしかった。
「あらっ? なによう! けっこうな金額じゃない、こっちタダじゃ乗らしてくれないの?」
アモスが、リアンの持つパンフレットをのぞき込み、不満そうに料金を指差してアシュンにいう。
「わたしの宿が関係してる業種じゃないから、さすがにタダってわけにはいかないです。ちょっと高いけど、是非乗って欲しいなぁ」
アシュンが、甘えるようにお願いしてくる。
「あら、こういう時は、あざといわね! あんたそういう小芝居もできるのね、ますます感心じゃない。まあ、それぐらいがっつくほうが、商売人としてはいいかもね」
アモスが口元を歪めながら、アシュンからもう一冊、同じパンフレットをもらう。
「しかし、不思議ですなぁ……。わしら年寄りには、いつもの見慣れた海なんですが、他所から来なすった方は、美しいと絶賛してくれるようでな。最初はベラボウな予算と、労力をかけてまですることかと、わし含めて観光地化するなど、反対意見も多かったんですけどな」
ハイレル爺さんが、また複雑そうな顔をしていう。
「確かに、この観光地化に賭ける情熱は、大博打だったかもしれませんね」
遠くに見えるリゾート建設地にある、わずかな灯りを見つめてアートンがいう。
「若い人は賛成してたの、でも、お爺ちゃんみたいな古い人は、最初は反対してたんだよ」
アシュンが不満そうに、当時を思いだして教えてくれる。
「でも今では、村人総出で、この計画を成功させようって頑張ってるの。反対派の人だって、みんなが一丸になって! これも計画に、ニカ研が乗ってくれたからなの! ニカ研さんのお金で、当初の計画よりも大規模になったの! そりゃもちろん、儲けはニカ研が、ほとんど持っていくんだろうけど、村が一致団結したのは、やっぱり素敵だと思うの」
アシュンが胸を張って、そう主張する。
「うん、村の団結は、賞賛すべきものだよ。一枚岩の組織なんて奇跡的だな。是非とも頓挫せず、最後まで完成するのを祈ってるよ」
バークが関心したようにいってくる。
「バークさん、ありがとう。まだまだ観光地としては未完成で、建設中の建物多いけどさ。宣伝の甲斐あって、視察のお客さんは、まだまだ増えている感じ! 現に毎日、てんてこ舞いの忙しさだしね!」
アシュンは、衝立で仕切られた向こう側の客室を指差す。
「みなさんも、サイギンで宣伝を実際に聞いて、村に来てくれたんですよね?」
アシュンが訊いてきた瞬間、驚いたように自分の口を手でふさぐ。
「いっけないっ! また余計な詮索しようとしちゃった! ごめんなさい!」
アシュンが慌てて謝罪してくる。
「案内時にきみのいった通り、サイギンのプロモーションチームの人間と、知り合ったんだよ。名前は忘れちゃったけど、何人かと意気投合してね。で、ここの存在を知ったってわけさ」
バークが、アシュンが案内時に口にした言葉を使い、咄嗟にそんな嘘をついた。
「うん、ああ、そんな感じだよ」
アートンも、すぐさまその嘘を、肯定するようにいう。
そんなハッタリを口にしたバークは、すぐにリアンやアモスの顔を見る。
バークの視線からすべてを察し、リアンもうなずく。
ところが……。
「それと、もうひとつ! 聞いて驚くなっ! あたしたちはね、……うぐっ!」
アモスが何かをいおうとしたのを、バークが急いでアモスの口をふさいで止める。
「ちょっとっ! 何よ!」と、アモスがバークの手を払う。
「何よじゃないよ、また変なハッタリかまそうとしたろ」
バークが小声で、アモスに注意する。
「ダメだよアモス、また妙な設定つけたら面倒になるから」
リアンもアモスの服を引っ張り、小声でバークを援護してくれた。
バークに頼まれて、アモスのハッタリを抑制するように、リアンも密かに依頼されていたのだ。
「何よ……。よく、わかったわね」
アモスは舌打ちしつつ、不満そうにいう。
「当然だろっ! ワンパターンなんだから! 俺たちは、あんまり目立っちゃマズい身なんだから、勘弁してくれよ」
アモスが余計なハッタリをかまそうとしたのを、事前に察知したバークにより、頓挫させることができた。
そんなコソコソと話し合ってるリアンたちを、不思議そうに眺める、アシュンとハイレル爺さん。
「アハハ、ちょっとまた、いい加減なこといおうとしたのかもね。あっちの女、いろいろ吹くもんだから」
アートンがそんな言葉を、アモスに聞こえないように、こっそりとアシュンに話す。
すると……。
「わたしたちは、旅の劇団員なんですよ~」
いきなりヨーベルが、自分からそんなことをいいだしたのだった。
ヨーベルは得意満面。
凍りつくリアンたちと、驚いたような表情のアシュン。
ハイレル爺さんも目を丸くして、ヨーベルを見ている。
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