13話 「暴虐の遺跡」

 先頭を歩くアモスの尻と脚を眺めながら、ゲンブがニヤニヤしながら彼女を追いかける。

 アモスはどうやら、遺跡奥の、主の眠る小部屋に向かっているようだった。

「俺はこの湖を、ちょっと見てみるぜ! 何かありそうな気がするんだよな、ここにもよ」

 ケリーがランプをかざして、地底湖を観察してみる。

 地底湖から飛びでた謎の突起物が、ランプの光りを浴びて怪しく輝く。

「湖に落ちたって、助けてやらねえぞ」

 ゲンブがケリーに笑いかける。


「おまえこそ、遺跡の主の怒り買っても、助けないで、俺逃げるからな」

 ケリーが奥に向かっているゲンブにいう。

 ゲンブはケリーの言葉を無視して、アモスの後ろを追いかける。

 その際に、堀の下でうごめく巨人をチラリと見つめる。

 リアンのいっていた、「何かを守るために存在している可能性が高い」という言葉が、ゲンブの興味を引きまくる。

「クルツニーデに教えたら、狂喜乱舞だろうな、ここは。遺跡だけじゃなく、動く巨人までセットだ。おっと、アモスねえさんは、小部屋に行ったか。ねえさん! 何か面白いもの見つかりそうか?」

 ゲンブが、アモスに大声で語りかける。


 エンブルは、また堀に架かる橋を渡り、地下墓地側にきていた。

 そして、そこで古びた梯子を見つけた。

 ボロボロで、使えるかどうかエンブルには不安だった。

 古さからみると、どうやら村の人間が子供の頃にかけた梯子のような気がする。

 肝試し感覚で、遺跡を遊び場にしていたと、村長もいっていた。

 その時に、使われた物なのだろう。

 小柄なエンブルでも、さすがにこの梯子の強度では、降りるのは不可能だと考える。

 エンブルは、地面に倒れて動かなくなっている巨人を、ランプで照らしてみる。

 首の根元辺りに、お札のような物が見える。

「あのガキが、いっていた札か……。どこまで信じていいのかわからんが、一枚ぐらい拝借したいものだな」


 立ち上がったと同時に、ゲンブがアモスを呼ぶ声が聞こえる。

「地下墓地側からも、あの小部屋に向かえそうだな」

 エンブルが地下墓地側の奥を眺め、小部屋との繋がりを見つける。

「あそこは、俺も気になるな」

 エンブルは、小部屋から漏れる灯りを目指して歩いていく。

 しかし数歩進んだところで、エンブルは足元にあるものを発見する。

 錆びてはいたが、比較的強度の高そうな鎖を発見したのだ。

 エンブルは鎖を手にして、引っ張ってみる。

 かなり長い鎖だった。

 これを使えば、下に降りられるかもしれないとエンブルは考えた。

 どうやらこれも、遺跡を遊び場にしていた子供たちが用意したものなんだろう。

 エンブルはジャラジャラと、鎖を引っ張りだす。

 そして、巨人たちがいる堀に鎖を投げ入れる。

 鎖の根本は、地下墓地の石棺の脚に、くくりつけられている。

 強度的にも、問題ないようだった。

 当たり前だが手がドロで汚れる。


 ゲンブが部屋に入ると、まず目についたのはアモスの美しい脚だった。

 しかし、何故かぼんやりとした感覚に、ゲンブは囚われる。

 そしてゲンブはおもむろに、視線を部屋の中央に位置する、台座の上に置かれた石棺に向ける。

 階段状の台座は五段ほどあり、四方に菱形状に広がっていた。

 その中央に、その石棺は存在していた。

 壁には、村人が残したらしいランプが、数か所配置されている。

 すでにランプに火が灯っていたのを、ゲンブは不思議に思う。

 壁を確認すると、見たこともない古代文字が描かれている。

「これも、クルツニーデ大歓喜だろうな。そして、周りに設置してるのは、例のバケモノどもの彫刻か……」


 石棺の小部屋には、いろいろなポーズを取った、あの巨人の彫刻が設置されていたのだ。

 バリエーションの多さが豊富で、ひとつひとつ確認してみても、なかなか楽しめる。

 そんな巨人の彫刻で、気になるのがひとつあった。

 長い腕を鳥の羽根のようにして広げ、脚から何かを噴きだしているようなポーズだったのだ。

「これは、まるで飛んでるみたいだな……。そういや村長が、この遺跡から出る時にあのバケモノども、驚くような行動するとかいってたな。まさか、本当に飛ぶのか……」

 ゲンブは腕を組んで考え込む。

「まあいいか! 俺は別に遺跡の専門家でもないし、そいうのは考えないようにしとくか。クルツニーデが、そのうち新発見として公表するだろう」

 ゲンブは深く考えないようにして、階段状の台座を登る。


「さてさて、今や村人から厄介とさえ思われている巨人どもの、哀れな主さまとご対面といきますか。どういう理由で、村のために樹木伐採なんてやってたんだ?」

 ゲンブが石棺のところまで来るが、石棺は重い石の蓋で覆い被されていた。

「お宝なんてない、とはいってたが、こんなの目の前にしたら、アレだぜ。中身確認したくなる、ってもんだよな。たららら~ん! っと!」

 ゲンブは、自分でファンファーレをいいながら、石棺の蓋に力を込めてどかせようとする。

 その時、ゲンブの足元でパキリという音がする。

 石棺の四本の脚の一本に、亀裂が入っている。

 それに気がつかないゲンブは渾身の力で、さらに石棺の蓋を押しどける。


 そして、そんなゲンブの様子を同じ部屋にいたアモスが、タバコを吸いながら観察していた。


「ふんっ!」というゲンブの声がする。

 すると、石棺の脚が一本へし折れる。

 それと同時に、石棺が大きくバランスを崩す。

「うわぁっ!」とゲンブが声を上げて、体勢を崩す。

 ドガガという轟音を立てて、石棺が石段の上を滑り落ちる。

 砂埃が舞い上がり、小部屋が白く煙る。

「うぐぐ……、くそっ! なんってこった! か、身体が動かねぇ……」

 地面でうめくゲンブが、自分の状況を確認しようとする。

 そして、それを確認した瞬間、ゲンブにミイラになった死体が覆い被さってくる。

 石棺の中の、遺跡の主のようだった。


 声にならない悲鳴を上げて、ゲンブはそのミイラを振り払う。

 ミイラは部屋の隅まで吹っ飛んで、そこでゴミのように丸くなる。

「ちくしょうっ! 驚かせるなっ!」

 ゲンブは、冷静に自分の状態を確認する。

 ゲンブは石棺と、石段の隙間に、うつ伏せ状態のままはまり込んでしまっていた。

 動こうにも、石棺が上に覆いかぶさり、抜けだせない。

 自分の状況を理解したとたん、足や身体に激しい痛みが訪れる。

 必死にゲンブはもがくが、石棺はびくともせず、彼にのしかかる。

 そんな時、ゲンブの目の前に綺麗な生足が見える。

「あ、あんたは!」

 見上げると、アモスが冷たい目で見下ろしていた。


「よう、大変そうだな?」

 アモスは、ニヤニヤしながらゲンブにいう。

「遺跡の主の怒りを、買っちゃった系か?」

「あ、ねえさんっ! とりあえず助けてくれ! この石棺どかすの、手伝ってくれないか! っていうか、ケリーとエンブルも呼んでくれ」

 ゲンブが必死にアモスに頼む。

「大丈夫、それにはおよばないわよ。ちゃんと解放してあげるわ、あたしたちの物語からね」

 そういってアモスは、ポーチから土産物として買った模造刀を出す。


「ねえさん! それは缶切りだろ! どうやってだす気だよ!」

「簡単よ、こうすんのよ」

 そういうや、アモスは倒れているゲンブの喉元に、模造刀を突き立てる。

 そして、なんの躊躇もなくそれを横に掻き切る。

「うごご……」という、ゲンブの声にならないうめきが響き、同時に血が地面に吹きだす音がする。

 たちまち地面は、ゲンブの血で真っ赤に染まる。

 ゲンブは喉を掻き切られ、まだピクピクと蠕動していたが、やがて動かなくなる。

 自分の血溜まりの中で、ゲンブは頭を突っ込み、そこで息絶えた。

「この缶切り、ちゃんと役に立ったじゃない」

 そういって笑うと、アモスはゲンブを殺した模造刀を、横倒しになっている石棺の中に放り投げて捨てる。

「さて、あと二匹か……」

 アモスの目が怪しく光る。


 遺跡の主の間に、入る時に使った入り口とは、正反対側にアモスは出てみる。

 そちらからは、地下墓地側に向かえるようだった。

 アモスはランプを片手に、地下墓地方面でうごめく小さい影に近づく。

 エンブルが、巨人たちのいる堀に、鎖を下ろしていた。

 どうやら、鎖で堀の下に、降りようとしているようだった。

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