12話 「きっかけは非現実的」 後編

「どうも、大切な何かを、守っていたようで……」

 リアンの言葉に、全員がまた反応する。

「大切なもの? 坊っちゃん、けっこう、さっきから興味を引く話しをするなぁ。しかも小出しにして、なかなか飽きさせないぜ」

 ゲンブがうれしそうに、リアンにいう。

 そういわれ、リアンは照れ臭そうにする。

「リアンくん、具体的にどういうモノだったの?」

 いきなりアモスが、リアンに尋ねてくる。

 全員が驚いたように、突然会話に参加してきたアモスを見る。

「なんだ、おまえいたのかよ。ずいぶん静かだったんだな……」

 バークがアモスに進路を譲る。

 ランプも持たず、タバコの火だけが暗闇の中で、ぼんやりと揺らめいている。


「見つけたそれが何なのかは……。あのカーガイドの研究家は、教えてくれませんでした」

 リアンが残念そうにいう。

「おまえ同様、ケチなんだな。偏屈者ってのは、嫌だねぇ」

「なんで俺に振るんだよ……」

 ケリーがエンブルの頭をペチペチたたく。

 エンブルが不満そうにケリーをにらむ。

「そのカーガイドさんは、他にも何かいってなかったのですか~? わたしもそんな面白い人に、会ってみたいですよ~」

 ヨーベルが、リアンの頬を突きながら訊いてくる。


「何かを守る……、ねぇ?いったいなんなんだろうかね」

 ゲンブが興味深そうに、バケモノを見る。

「あ、でも……。ここのは、村に木を運んだりするっていう、目的を持ってますから。そういうのとは、違う可能性もありそうです……」

 妙な期待を持たせてしまったのを感じて、リアンは慌てて否定する。

「いやいや坊ちゃん、そんな話し聞いちゃったら、気になるじゃないかよ。なんであれ、奥に何があるか確認してみたいと思うじゃねぇかよ。何もなかったとしても、恨みもしねぇよ、安心しな。それに俺たちゃ、隠された謎を追い求めるのが、好きだっていったろ」

 ゲンブが、不安そうにしているリアンにいう。

「あたしも、けっこう興味あるわね。是非とも、この奥に行ってみたいわ。ひょっとしたら、奥にすごい何かが、あるかも知れないじゃない」

 ここでアモスまでもが、急にいいだす。


「おい、アモス、もういいじゃないか。村の聖地でもある場所を、勝手に荒らすようなことは、どうなんだよ。それに……」

 バークはそういって、向こうで話し合っているゲンブたち三人を見る。

「あいつらだけで、行かせておけば、いいじゃないか」

 バークが、コソコソと小声でアモスにいう。

 アモスは無言で口元を歪めると、バークに耳打ちする。

「あたしも奥に興味があるのよ、フフフ」

 怪しく笑うアモスの顔を見て、バークは不安になってくる。

「ねぇっ! あんたらどうすんの! 奥に、探索しに行くんでしょ? いまさら、怖気づいたなんていわないわよね?」

 アモスが、ゲンブたちに声をかける。


「へへへ、アモスねえさん、わかってるクセにさ!」

「俺たちが、こんな面白そうな場所、放っておくわけないじゃないかよ」

 ケリーとゲンブがいってくる。

「おっと、アモスねえさんのお仲間は、お帰りかい?」

 ケリーが若干バカにしたように、バークにいってくる。

「こっちは、リアンとヨーベルもいるんだよ。臆病だろうが、勝手に思ってくれよ」

 バークが、煽ってきたケリーにいう。


「俺たちは奥に行くぜ。村長さんよ、いいだろ? 一応貴重な遺跡ってのは、理解してるつもりだ。荒らしてどうこうしようとか、考えてないからよ。安心してくれよな」

 口ではそういうゲンブだが、内心では宝探しめいたことをしようと、密かに思っていたりした。

「……ふむ。どうせいっても、聞きそうもないようですの」

 リューケンが、諦めに似た表情でいう。

 ヤナンが、「本当にいいのですか?」と小声で村長に尋ねる。

 それでも、リューケンは黙っている。


 バークは、アモスが無言で手招きしてるのに気づく。

「な、なんだよ?」と、尋ねるバーク。

 アモスはポケットから、見覚えのあるカギを出してくる。

「これ、なんだか、わかるわよね?」

「お、おまえ、いつの間に……」

 バークがアモスの手の中にある、ゲンブの持っていた車のキーを見て驚く。

 いつの間にか、アモスが掠め取っていたようだった。

「わかるでしょ、あんたがこのまま、逃げないようによ。あたしも仲間なんでしょ? 置き去りになんかしないわよね?」

 アモスが小声で、バークにそう語りかける顔は、冷徹そのものだった。

 バークはその表情に、思わずたじろいでしまう。

「これがある限り、どこにも行けないわ。いいわね、この意味、わかるわよね。いいこと? あたしが戻ってくるまで、村から出られないわよ」

 アモスが、バークにだけ聞こえる音量で耳打ちする。


「リアンくんは、ヨーベルと一緒に村長らと帰んな」

 アモスが、リューケンの側にいる、リアンとヨーベルにいう。

「ほら、バークもお帰りの時間だぞ!」

 アモスがバークの背中をたたいて、追い払うようにいう。

「アモス、ひとりで行くの?」

 リアンが心配そうにいう。

「え~、アモスちゃんだけ、ズルいです~。わたしも奥、見てみたいです」

 ヨーベルが食いついてくるが、リアンがヨーベルの袖を引っ張る。

「ここは帰っておこう……」

 微妙な顔をしたリアンが、ヨーベルを諭すようにいう。

「仕方ないですね~、お土産忘れないでくださいね~」

「ダメダメ! 遺跡のものを、勝手に持ちだしちゃダメだよ」

 ヨーベルのアモスへの頼みを、リアンがすぐに否定する。

「今日は貴重なモノを見せてもらいました、ありがとう」

 リアンたちに合流したバークが、リューケンに礼をいう。


「なんだい? そっちは、アモスねえさんひとりだけかい?」

 ゲンブが、アモスしか来ないことを確認してくる。

「そういうことよ。奥、興味あるわ、行くならさっさと行くわよぅ」

 アモスが、ひとりで奥に歩いていく。

 リアンから貸して貰ったランプの灯りが、奥で地響きを轟かせる、真っ暗な洞窟に進んでいく。

 一方、ゲンブとケリーがアモスの後ろ姿を眺めて、ニヤニヤとしていた。

 ショートパンツから伸びたアモスの脚が、ランプの灯り同様に、まばゆく輝いて見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る