12話 「きっかけは非現実的」 前編

「カーガイドなんか、芸人と同じじゃないかい。それの研究者とは、また笑えるな。坊や、その研究者って、どんな笑える容姿してた? ほっぺたに、渦巻きは確実に描いてあったろ?」

 ケリーが、バカにして笑いながらリアンにいう。

「渦巻きも、酒焼けもなかったですけど……」

「変なオジサンでも、なかったですか?」

 ヨーベルがニコニコしながら訊いてくるが、リアンはそれも否定する。

「その人は、すごく真剣に研究してるような感じでしたよ。とても冗談をいうような、雰囲気の人でもなかったですし」

 リアンが過去出会った、カーガイドの研究家を思いだして説明する。

 すると、突然リアンの中に、突然フラッシュバックのような光景が広がる。

「あ、あの人……、そういえば例の場所で」

 リアンが、一言つぶやいた。

 その脳裏に、仮装した人々が慌ただしく動き回る姿が見える。

 その人混みをかきわけて、騒動の中心に向かっていると……。


「で、リアン、その後どうなったんだい?」

 バークが声をかけてきたので、リアンは我に返る。

「その研究者さん、どういう結論を、君に見せてくれたんだい? 村にいたっていうバケモノの正体、暴いてくれたんだろう?」

 バークの言葉に、リアンはうなずく。

「ほう、興味深いですなぁ」

 リューケンが、ヤナンの背中の上からリアンにいう。

「あのお札、見えますか?」

 リアンが、巨人の背中に張りついている、一枚のお札を指差す。

「あ~、なんかついてるわなぁ」

 ゲンブがお札に気づいて、ランプで巨人の背中を照らしてみる。

 暗闇でうごめく巨人の巨大な背中に、ランプの灯りを受けてお札が浮かび上がる。


「あれが、あのオバケを動かしてる、原動力みたいなんですよ」

 リアンが、浮かび上がるお札を指差す。

「そんな、簡単な仕組みなのか?」

 ケリーが、拍子抜けといった感じでいう。

「カーガイドっていうのは、元々古い呪術師の流れを汲んでたらしいからな。呪術を込めた札を使って、無機物を操る力もあったらしい」

 エンブルがしたり顔でいう。

「その研究者さんの、肩持つみたいなこといいますけど。一応、カーガイドの中でも、かなり下級な術だそうです。本当は、もっと偉大な術があるんだって、その方、憤慨してました……」

 リアンが苦笑いしながら、過去を思いだして、カーガイドの研究者を一応擁護する。


「ヒャハハ、面倒臭いヤツだったみたいだな。こいつと、どっちがウザかった?」

 ケリーがエンブルを指差して、リアンに尋ねてくる。

 返答に困ったような、リアンの表情を見てケリーが笑う。

「そうか、そうか、どっちもウザかったか」

 ケリーの笑い声に、エンブルがムスッとする。

「じゃあなんだ……。要は、あれを剥がせば、あいつは死んだりするってのか?」

 ゲンブがリアンに訊いてくる。

「僕は実際に、そうなるところを、見せてもらいました」

 リアンの言葉に、その場の全員が驚く。

「本当かよ、そんな雑魚いのか、あのデカブツ。見掛け倒しにも、程があるな!」

 ケリーが、洞窟に響き渡るような声でケラケラ笑う。


「しかし、カーガイドであろうと。ノベルドマークの力だったとしてもだ。これは、けっこうすごい発見じゃないのか?」

 ゲンブが腕を組んで、ノシノシと歩く巨人を眺める。

「そういうのを、血眼に探してる組織がなかったか?」

「ああ~」といって、ケリーがバケモノに石を投げつけつついう。

「なんかそういう機関が、あったような気がするな~。なんだっけ?」

 石を投げつけたケリーを、リューケンやヤナンがにらみつつ口を開く。

「クルツニーデですな」

 リューケンが不愉快そうにいう。

 そのワードを聞いて、リアンたちの顔も曇る。


「あいつら遺跡と見れば見境なく、保護と称して、その場を専有するんじゃないのか?」

 ゲンブがそういってくる。

「我々が、この遺跡を隠そうとした一因ですな。ですが、これを期に、連中を招いてみても、いいかもしれませんな。ずっと隠匿していた遺跡ですが、その謎について知りたいという思いも、生まれてきましたわい」

 リューケンの言葉に、ヤザンが驚いたような顔をする。

「ここの守り人のおかげで、村はじゅうぶん潤った。クルツニーデを招くことで、失われた叡智が、新たに発見されるやもしれん。人類にとって、良い結果になるかもしれんしな。いつまでも、わたしらが専有しているのは、よろしくないであろう」

 諦めの境地を感じさせながら、リューケンが自嘲気味にいう。


 クルツニーデなら、この村の存在を知れば、確実にやってくるだろう。

 そうなったら、村の産業として成立していた林業が、今後やっていけるかどうかも不透明になる。

 産業を失った村にとって、廃村の危機もあるのだろうが、リューケンは覚悟したようでもあった。

「ノベルドマークか……。確か、わたしが子供の頃にも、そういうのが流行りましたな。いや、懐かしいですな」

 覚悟を決めたリューケンは、穏やかな顔になって、はるか昔の少年時代を思いだしていう。


「十年ぐらい前に、再ブームきてませんでしたか?」

 バークがやや、リューケンに気を使いながら尋ねる。

「そういえば、ありましたかなぁ。連日、同じような人間がマスコミに出ては、遺跡の発見を報道しておりましたな」

 リューケンがバークに笑いかける。

「それって、マイム、ギュビンといった、冒険者一味のことなだ」

 ゲンブが、十年前に有名になった、遺跡の発見者として名を挙げた冒険者を挙げる。

 彼らの多くの発見で、クルツニーデは過去の遺跡から、技術の解放を果たしたのだ。

 伝説級の冒険者として、今でも名前が知られるほどの人物だった。

「そういや、そんなのいたけどよぉ。ブーム自体は、すぐ収束してたよな」

 ケリーが、つまらなさそうにいう。


「でも、クルツニーデさんの発見した技術は、ニカ研さんと同じぐらい、すごいの多いですよ~。遺跡から開放した技術を、現代に甦らせるなんて、心躍ります~」

 ヨーベルが、心からうれしそうにいう。

「ハーネロ戦役が起き、この村を逃げだした際に……。わたしもハーネロ神国の連中が、ノベルドマークの技術を甦らせているのだろうとは、思っていましたよ。彼らの力は、明らかに人知を越えておりましたからな。きっと、失われた力を、開放したのだろうとな」

 リューケンがそういい、目をつむる。

「未だにそれは、いわれつづけていること、ではありますよね。ハーネロはどういうわけだか、失われた文明の力を甦らせることに、成功したんだろうって」

 バークがそうつぶやいて、歩く巨人を眺める。

「そういえば、なんですけど……」

 ここでリアンが、また挙手して話しだす。

「僕の故郷にいたオバケには、なんか目的が、あったみたいなんですよ」

「目的? なんだい、それは?」

 バークが気になって、リアンに尋ねる。

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