10話 「その村の秘密」 其の三

「なあっ! 村長! 相談がある!」

 ここでゲンブが、リューケンに話しかけてくる。

「おい、あんたら、口止め料とか、変なこと考えてるんじゃないだろうな」

 アートンが、ゲンブに先制するようにいう。

「この村でのことは、この村の人らに任せてやろうぜ。一泊させてもらった、せめてもの恩返しじゃないか」

「おいおい、兄さん、何勝手に俺らが、ゆすりをすると決めつけてるんだよ。いくら悪人面してる俺でも、そんなこと考えねぇよ」

 ゲンブが笑いながらいってくる。

「なんだ? 違うのか?」

 アートンとバークが驚く。

 リューケンや他の村人たちも、意外そうにしている。


「俺たちゃ別に、金なんか特に興味ないよ! 俺たちが、興味ある一番のものといえば、好奇心! これだぜ!」

「そうそう!ロマンってヤツよ!」

 ゲンブがいい、ケリーも乗っかってくる。

 後ろのエンブルが、つまらなそうにしているが、特に反論はしてこない。

「さっきのバケモノ! あれの正体! どこからやってきてるのかとか、他にもいるのか! とか! いろんなことが、知りたいんだよ!」

「俺たちは金なんかよりも、そういった知的好奇心を満たしたいって、欲求のほうが強いんだよ」

 ゲンブとケリーが、同時にいってくる。

 その言葉に、顔を見合わすリューケンや村人たち。

 彼らの言葉から、何を要求してこようとしてくるのが、理解できたからだ。


「別に、口止め料なんかいらないよ。俺たちに、あのバケモノがどこからくるのか、ってのを教えてくれたら。何も、ことを荒立てようって気なんか、元よりないよ。どうだい? せっかくだから教えてくれないか? 興味があるんだよ、あのバケモノに!」

 ゲンブが、うれしそうにリューケンにいう。

 その言葉を、アートンとバークも黙って聞いていた。

 そういえば、こいつらは捜索するのが仕事の人間といっていた。

 ヨーベル曰く、「探偵」なんじゃないかとも。

 だとすれば、金なんかよりも、好奇心を満たすという欲求が、強いのもうなずけるとバークは思った。

 村にとって、災厄にしかならないと思った三人組だったが、意外と真相は黙っていてくれるのではと、バークは思いだしていた。

 アートンも似たような気持ちになっていて、ゲンブの言葉を信じだしていた。


「案内しろと、おっしゃるのですね?」

 リューケンが、ゲンブたちに尋ねる。

「そういうことだよ。あのバケモノの、巣みたいなのがあるんだろ? そこを見せてくれたら、俺たちは何も見なかったってことにして、この村のことなんか忘れるって誓うぜ。悪くない、取引きだと思うぜ? どうだい?」

 ゲンブが、リューケンや困惑している、村人たちに向かっていう。

「その案には、あたしも興味あるわ。是非とも、行ってみたいわね。さっきのバケモノの真相を、あたしも知りたいわ」

 ここで急にアモスが現れる。

「あれ? あんたは……」

 ゲンブが、アモスを見てぼんやりする。


「あれぇっ! アモスちゃん、今まで、どこ行ってたんですか~?」

 ヨーベルが、驚いたように声を上げる。

「バ~カ! ずっといたわよ」

 ヨーベルに近づき、アモスは手刀を一発、挨拶代わりに食らわせる。

「あれれ? そうでしたかー?」

 くわえていたタバコに、さっそく火を点けてあげるヨーベル。

「ねえ、あたしも興味津々。ぜひともアレが、どこから来るのか知りたいわ」

 煙を吐きだす口元が、怪しく歪むアモス。

「ひょっとして、知らないなんてこと、ないよな?」

 エンブルが、村長を煽るようにいってくる。

「わたしが、子供の頃からいるのですよ、そんなわけないでしょうに」

 リューケンが不愉快そうに、エンブルに答える。


「じゃあ、案内頼むぜ~。あんな面白そうなの、目の前にしてお預けは、なしって話しじゃん」

 ケリーがうれしそうに、ニヤニヤしながらいう。

「けっこう、ここから遠いんですか?」とバークが尋ねる。

「いや、三十分もかからんよ」

 リューケンがいい、近くの村人を捕まえて耳打ちをする。

「すぐじゃん! じゃあ、案内頼むぜ~!」

 ケリーが手をたたいて、煽るようにいってくる。


「あの……。僕も見てみたいです、ダメ……、でしょうか?」

 リアンがおそるおそる、手を挙げてお願いしてみる。

「おお~、リアンくんも興味津々なのですね~。男の子だな~、やっぱロマンですよね!」

 ヨーベルが、リアンの頬を両手でふにふに引っ張る。

「おいおい、ヨーベル、あんたまで行くつもりなのか?」

 バークが、驚いたようにヨーベルに尋ねる。

「こんなすごい出来事があって、その真相を、見せてくれないというのですか? そんな意地悪はバークさんでも、許せないのです~」

 ヨーベルは少し眉を上げ、バークにいってくる。

 でも、胸に当てた両手はお願いのポーズをしている。


「どうするかなぁ……」

 バークがアートンと顔を見合わせて悩む。

「大丈夫でしょう、案内しますよ」

 リューケンがさらりといってくる。

「洞窟内部は暗くて滑りやすいですが、危険な場所はきちんと把握しております。女性でも、同行できるはずですよ。そちらのお嬢さんは、遺跡関連にご興味があるようですからな。いい土産になってくれる、とも思いますよ。大丈夫、危険はありませんよ。だから、そちらの坊やも、問題ないでしょう」

 リューケンがそういい、ヨーベルとリアンの同行を許可してくれる。

 ヨーベルが、リアンの手を持ってよろこんでいる。

 ヨーベルは遺跡に向かえることと、さっきの巨人をまた間近で見れることを、純粋によろこんでいるようだった。

 しかし、リアンはそれ以外に、どうしても気になったことがあって、それの確認をしてみたかったのだ。


「俺も、興味がないといえば、嘘になるが……。でもここは、車の修理をしてたほうが、いいんだろうな。もう少しで直せそうだしな、ここまできたら、一気にやり終えてしまいたい」

 アートンの言葉に、ゲンブが歓声を上げる。

「あんた働き者だなぁ! しかも機械に詳しいヤツだとは思ってもいなかったぜ! 役者なんか辞めて、その道のほうが、稼げるんじゃないのかよ」

 ゲンブが、アートンを賞賛しつつそんなことをいってくる。

「なんなら、俺らのツテで、いい仕事斡旋してやるぜ!」

「いやいや、案外、アモスねえさんの尻に敷かれていたいんじゃないのか、この色男は。ねえさんの、理不尽な言動に、屈折した愛情を感じてるんだろ?」

 ゲンブの誘いの後、ケリーが勝手な憶測をいってくる。


 アモスの顔をチラリと見ると、彼女が妙にニヤニヤしているのが、アートンは気になる。

「あんたは行かないんなら、さっさと車直してな! あたしらが帰ってくるまでに、直してないと、夕食抜きだかんね!」

 アモスが、アートンにそんなことを、平然とのたまう。

「うっひょ~! たまんないねぇ! そういうの、俺もちょっと羨ましいぜ!」

 ひとりでケリーが、アモスの暴言に興奮している。

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