10話 「その村の秘密」 其の二
「ところで、ハーネロ戦役の際は、この村どうだったんだよ? この山、ハーネロが拠点を置いて、いろいろやらかしてたんだろ?」
ゲンブが村人たちに聞いてくる。
「その時期は、さすがにこの村から逃げましたよ……。ハーネロの悪名は、建国以来、轟いておりましたからな。この村の人間は、早い段階からマイルトロンに逃げましてな。まあ、逃げた先でも、ハーネロの災禍には、悩まされたらしいですがの」
リューケンの言葉に、リアンはハラハラする。
「大変な時代を、生きてこられたんですね」
リアンの言葉に、リューケンはカラカラ笑う。
「運が良かったんだろうねぇ。わたしの元の祖国もハーネロに滅ぼされ、今また第二の祖国も、エンドールに滅ぼされようとしておりますよ。国が滅ぼうが、人は生きていけるものですよ。わたしのようにね」
リアンはリューケンの言葉を聞き、考え込んでしまう。
「ところで、ハーネロンの定義ってさ? ハーネロ神国が召喚した、使い魔ってことなんですよね?」
バークが、考え込みながらいう。
「じゃあ……。さっきのあれは、ハーネロンじゃない、ってことなのかな? だって、ずっと以前から村にいたんですよね?」
バークがリューケンに尋ねる。
「そこがわたしにも、よくわからんのですよ……」
リューケンが首を振る。
「連中は、当たり前のように、昔からここにいましてな。当然のように、さっきの作業を、繰り返していくんですよ。まるで、そう設定されたように、正確に、機械のようにね」
リューケンが、杖でポンポンと材木を叩く。
「連中ってことは、一匹じゃないのかよ?」
ケリーが、森の中を眺めて訊いてくる。
その質問に村長がうなずく。
「さっきの作業で……」
ヨーベルが材木を見る。
「良いハーネロンさんが、村のために木を切って、持ってきてくれるんですね~。良いハーネロン! そんなものもいるのですね! 悪役にも、たまにはいい人がいるものです」
ヨーベルがうれしそうに、聞いてもいないリアンにいう。
「この村のために、やってくれているのかは……。わたしらにも、わからないですがね。だが、ああして、一週間に一度の周期で、木を運んでくれるんですよ」
リューケンが、リアンやバークにいう。
「で、結果として、この村が裕福になった! っていうこと、なわけだ」
ゲンブがどこか、嫌味な感じで訊いてくる。
「うむ、そうなりますな……。あの木を、都会に移った若いもんが、業者に卸しておりましてな」
リューケンがゲンブを見ていう。
「不労所得で、ウハウハの悠々自適じゃねーか! 羨ましい限りだなぁ!」
ケリーが、素直に感想を述べる。
「その言葉、口惜しいですが反論できません。実際、この事実を知られまいと、他者を拒んでいた我々でしたからな。収入とういう面では、確かに問題ありませんでしたよ……」
痛いところを突かれ、リューケンがため息をつきつついう。
「なるほど、だいたいわかりましたよ」
バークが、リューケンたちの心中を察する。
「さっきのバケモノの存在が、あんたらが余所者を嫌がってた、理由というわけか」
エンブルがいい、クククと笑う。
「わたしらも、本来はこんな閉鎖的な暮らしは、したくはなかったのですがね……」
いいにくそうにリューケンがいう。
「確かに、あんなのが村にいるってわかったら。きっと、ただじゃすまないだろうな。よく今まで、隠し通せてきたな」
ケリーが、感心したようにいう。
「運も、良かったんでしょうな……」と、感慨深そうにいうリューケン。
「野良ハーネロン狩りが、盛んだった時代にも、見つからなかったのか? この山は特に、ハーネロン狩りが盛んだったんだろ?」
エンブルの言葉に、何故かリューケンは無言で対応する。
「僕らなんかに、見せてよかったんですか?」
リアンがリューケンに、不安そうに訊く。
村人も村長にならい、皆黙っている。
「車が、故障してなかったら、今回の出来事も、知られなかったでしょうね……」
アートンが、どこか申し訳なさそうにいう。
「いや、いつかは、こういう日が、来るとは思っておりましたよ」
リューケンが諦めたようにいい、薄っすらと笑う。
ここでバークとアートンが、向こうにいるゲンブたちを見る。
そして、ふたりで顔を見合わせる。
「村長、俺たちだけなら、この村での秘密、黙っててあげられるんですけどね……。なにせ、厄介な連中が一緒だったりするから……」
アートンとバークが、リューケンにヒソヒソという。
「ホホホ、やはりあの三人は訳有りさんだったんですね。まあ、どういう連中かは詳しくは訊きませんよ。特に、あなた方を害するような、連中でもないようですしね」
リューケンが、バークとアートンに、やはりこっそりという。
頭をかくバークが苦笑いをする。
「説明が難しい、事情がありましてね……」
バークの言葉を聞き、リューケンがふむふむとうなずく。
「一応、何か脅迫を受けているとか、そういうのではないです。なので、そこはご安心ください。連中とは、キタカイまでの付き合いと、確定していますので……」
アートンがリューケンにいう。
そういわれ、リューケンも下品そうに笑っているゲンブ、ケリー、エンブルの三人を見る。
「いや、今回のことは、もう公にするつもりですよ。いまさら、隠し通せるとも思っておりません。こうなった場合のことも、実はずっと考えておりましたからな。あなた方が、気に病む必要もありませぬよ。村として想定していた最悪の事態に、対処する時期が、ついにやってきたというところです」
リューケンがアートンとバークに、安心させるようにいってくる。
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