9話 「村の決意」 後編

 リアンは村人たちと一緒に、野菜の収穫を手伝っていた。

 ヨーベルもリアンと一緒に手伝い、村の住人から感謝されていた。

 昨夜は露骨に怪しんでいた村人たちだったが、リアンとヨーベルは、わずかな時間で受け入れられていた。

 特にヨーベルが村の男たちに人気で、ことあるごとに話しかけられている。

 それに対してヨーベルも、いつもの妙なテンションで返答するものだから、なおさら珍しがられてチヤホヤされる。

 どこにいっても、ヨーベルは姫さまのような待遇を受ける。

「それじゃ、そろそろお昼に、しまようかねぇ」

 村の老婆がやってきて、昼食を広げる。

 テーブルの上に出された昼食を、リアンたちは他の村人たちと一緒に立ったまま食べる。


「そういえば、ヨーベルなら、よくあるかなぁ……」

 リアンが、サンドイッチを食べながらヨーベルに尋ねる。

「おっ! なんでしょうか? あるあるネタをご所望ですか~」

 ヨーベルがリアンに訊く。

「え~と、何かを忘れているような、感覚っていうの? 絶対に何かあると思うんだけど、どうしても思いだせない時が、僕時々あるんだ……。ド忘れ、というわけでもなくて……。記憶が混乱して、上手く繋がらないって感じ」

 リアンが困惑したように、ヨーベルにいう。

「それは、例のジャルダンに流された件のことを、いってるのですか?」

 ヨーベルの問いかけに、リアンは首を振る。

「そっちもそうなんだけど、この村でのことなんだ……。見たものが思いだせない、あるはずなのに見えない、そんな感覚。夢……、みたいな感じかな?」

 リアンがそういうと、ヨーベルがポンと彼の肩をたたいてサムアップする。

「夢はなくしちゃいけないよ、諦めずに追いかけなきゃ」

 ヨーベルのどこかずれた回答に、リアンはカラ笑いをしてしまう。


「夢は持っていれば、頑張れるのです! くだらない人生も、生きていけるんですよ。途中で諦めたら、本当に中途半端な、くだらない人生だったことになります。諦めたら終わりなんですよ~」

 やけに熱心に、リアンにいってくるヨーベル。

「ハハハ、ヨーベルちゃんは、きっと夢叶いますよ。そうだねぇ、ヨーベルちゃんほどのルックスを持っていれば、役者として成功間違いなしだよ」

「そうそう、甘い物はお好きかい?」

 村人の老婆がひとり、リアンに飴玉を渡しにくる。

 それを受け取ったリアンがお礼をいう。

 また飴玉をもらい、リアンはそれをポーチに入れる。


「坊やも、頑張って勉強していれば、夢は叶うわよ」

「少年、悩め、悩んで、悩んで悩み抜きなさいな。演技に説得力をつけるには、人生いろいろ経験してみないとな」

 村人たちが、リアンとヨーベルにそんなアドバイス的なことをいってくる。

 リアンは村人たちに劇団員という嘘を、改めて説明したのだが、以前サイギンのファニール亭でやったような、シドロモドロさはなくなっていた。

 バークと設定を上手くすり合わせ、劇団員という嘘設定を、よどみなく話せるようになったのだ。

 若干、まだ内心騙しているという葛藤が残っていたが、表面上では上手く嘘をつけるようになっていた。


 そこへ、村長の息子の甥が合流してくる。

「やぁ、せいが出るね。君たちも手伝いありがとう」

 リアンとヨーベルに礼をいい、村長の息子の甥が、村人数人に耳打ちする。

 その光景が気になったリアンが、少し様子を眺める。

 村人たちは、深刻な表情をしていたと思っていたら、次の瞬間、明るい表情になっていた。

「何かいいこと、あったんでしょうかね?」

 ヨーベルも気づいて、リアンにいってくる。

「どうなんだろう……。ひょっとして、車、直ったのかな?」

 リアンは、村長の息子の甥が立ち去っていく、その背中を眺める。



「お客人や」

 村長のリューケンがケリーとエンブルに話しかけてきた。

 リューケンはまた雑用係の、ヤナンに背負われている。

「あなたたちの疑問に、お答えしよう」

 リューケンの言葉に、ケリーとエンブルが驚く。

「俺たちの疑問? なんの話しだよ、いったい?」

 ケリーがとぼけて答える。

「なに、この村のことですよ。不思議に、思っておったんでしょう? コソコソ調べ回る、手間を省かせてあげますよ」

 リューケンは細い目を少し開いて、ケリーとエンブルにいう。

 村長を背負ってるヤナンが、胡散臭そうにふたりを眺めている。


 リューケンが、手にした杖で指し示す。

 そっちを見ると、巨大な大木が積み上げられていた。

「その木、気になっておったんでしょう?」

「ハハハ! こりゃ驚いた。なんか全部バレてるなぁ。大正解さ、村長さん!」

 ケリーが、高笑いをしながら手をたたく。

「気になることをいっていたが、どういうことだ? 疑問に答える、とかいったが?」

 エンブルがリューケンに尋ねる。

「言葉の意味、そのままですよ、お客人。村は高齢者ばかりで、若い人間がいない。なのに、村には大量の材木が保管されている。この材木は、誰がどうやって、切り倒しているのか? 違いますかな?」

 リューケンが、エンブルを見据えていう。

「ハハハ! その答え、期待していいのかい!」

 ケリーがバカ高い声を出して、リューケンに訊く。


「期待以上のモノを、お見せしましょう。ガッカリすることなど、絶対にないでしょうな。もう少しで時間ですな、それまでに昼食を摂られるとよろしかろう。あそこの屋敷で、村人が集まっておりますよ。おふたりも合流して、まずは食事でもどうぞ。例の疑問は、時間が来たら、きちんとお答え、お見せしましょう」

 リューケンがそういうと、ケリーとエンブルを引き連れて目的の屋敷に向かう。


 ケリーたちの後ろ姿を、眺めていたアモス。

 アモスは、切り倒された材木の上で、タバコを吸っていた。

 今の会話を、「認識できなくなる能力」を発動させ、聞いていたのだった。

「いったい、どういうことかしらね? なんだか、パーティーの前に、一波乱ありそうな感じね。フフフ、どんな余興か楽しみじゃない」

 アモスは自分が座っている材木を、じっくり見つめる。

「この材木を、切り出す方法、とかいってたわね。確かに、デカいけどさ……」

 アモスは言葉を止め、座っていた材木の上から飛び降りる。

 材木は、綺麗に積み上げられている。

 五段もの高さに、積み上げられている材木は、直径が1メートルはあるような大木ばかりだ。

 そんな大木を切るだけでなく、ここまで搬送してくるのにも一苦労だろう。

 しかも、村にはいたるところに、同じような材木置場が多数あるのだ。

 明らかに、切りだしている量が異常ともいえた。

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