9話 「村の決意」 前編

 とある屋敷に、村の代表者たちが難しい顔をして集まっていた。

 リビングの中心にいる村長のリューケンが、杖を突いて黙って時計を眺める。

 時計の針は正午を回っていた。

 そこに昨夜、リューケンを背負っていた、ヤナンという雑用係が入ってくる。

「村長、もう時間です……。車は、直りそうもなさそうでした。これは、もうダメかもしれませんね」

 ヤナンにそういわれても、リューケンは目をつむって考え込んでいる。

 集まった村人たちがリューケンに注目する。

「村長、本気なのですか……。あの一団、どうも怪しいのが三人います。あの三人だけは、やはり信用がなりません」

 村人が、口々にそういってくる。

 三人とは、当然ゲンブ、ケリー、エンブルのことだった。


 彼らは、どうもバークたち一団とは、無関係なような気がしていた村人たち。

 村を嗅ぎ回り、素行もいい印象を与えない三人組。

 あの三人が劇団員だというのは、絶対嘘だろうと考えていた村人たち。

「それについては、わたしもわかっていますよ。だが、いまさらどうこうできる、というわけでもありますまい……」

 そうつぶやくと、リューケンは細い目を少し見開く。

「これも……、運命というもの、かもしれんわな」

 そういうと、リューケンが口を大きく開けて、カラカラと笑うのだった。

 それを、唖然とした表情で眺める村人たち。

 彼らの顔も、それぞれの表情があった。

 落胆するもの、苦々しい顔をするもの、そして、ほっと安堵の表情をするもの……。


 アートンが油に塗れて、必死に車を修理していた。

 そこへ、バークとゲンプがやってくる。

「どうだ、直りそうか?」

 バークがアートンに昼食を持ってくる。

「ありがとよ」と、アートンが礼をいう。

「原因は、ある部品が走行中に外れたようだ。ニカイドシステムは、壊れていなかったようだよ」

 その言葉に、バークがほっと一安心した表情になる。

 アートンがポケットから、何かのネジのようなのを、取りだして見せてくる。

「こいつが外れたのが、原因のようだよ。底のほうの部品だったから、探しだすのに時間がかかっちまった」


「ほお、さすがだな」と、感心したようにゲンブがいう。

「じゃあ、それを取りつけたら、修理完了か?」

 バークが訊くが、アートンは首を振る。

「このネジで、取りつけてた部品ってのが、まだ見つからないんだよ。だから、もう一段回バラして、もっと底を漁らないとなぁ」

 アートンが、エンジンルームを指差していう。

「その部品が壊れてたり、見つからなかった場合は……、悪い、俺の手に負えない。部品をニカ研から取り寄せなきゃ、直すのは不可能だよ」

 アートンの言葉を聞き、バークが彼の肩をたたく。

「そんときゃ、そん時だよ。しかし、おまえが頼りになって助かるよ。完了すること、願ってるぜ」


 バークの言葉に、「ああ、任せておけ」とアートンが腕まくりする。

「あんたも、それで文句ないよな? キタカイ行きは遅れることになるが、三日後に村人にトラックを借りられるんだから」

 バークが、隣のゲンブに話しをつける。

「まぁ、そうなった場合は、仕方ないな。俺としても、まあ、それほど楽しい任務、ってわけでもないしなぁ」

 ゲンブが億劫そうな感じでつぶやく。

「あんた一応、警察関係者なんだろ? そんな怠慢で、大丈夫なのかよ」

 バークがゲンブに、呆れたように尋ねてみる。

「俺のやりたい仕事じゃないからな、そういうもんだろ。俺はぶっちゃけ、フリーランスが一番性にあってるからな。いちおう誘ってくれた組織が、やれというから、嫌々ながらやってるんだよ。サイギンでの捜査を思いだすと、キタカイでの任務も億劫でな。どうせ今回調査するのも、しょうもない反エンドール団体ばっかりだろうしな」

 ゲンブの言葉を聞き、ここでバークが思い切って切りだしてみる。


「そういや、あんたらヒロトっていう、同じ宿に泊まっていたところの女の子、捜査してたんだよな。俺としては、多少接点持った関係で、彼女のその後が不安なんだけど……。彼女、本当に大丈夫なんだよな?」

 しつこいと思いつつ、バークがヒロトのことを質問してみる。

「あんたらやけに、そのヒロトってお嬢ちゃんに拘ってるなぁ……。どれだけ引っ張るんだよ」

 ゲンブが苦笑いをしていう。

「エンブルの野郎が、その件、やけに気にしてたが、理由はなんだ?」

「いや、今いった通りだよ……。多少接点ができて、彼女の身の上話しに関わった関係上、厄介事が降りかからないか、気にするのは普通じゃないか」

 どこか訝しむゲンブの言葉に、バークがその理由をもっともらしく説明する。

「彼女には、新しい人生を歩む、いいきっかけができたんだよ。で、そのきっかけが、あんたらのいう捜査結果ってので潰されたとしたら、気分も悪いじゃないか」

 アートンがエンジンルームから、部品を取りだしながらゲンブにいう。


「ふ~ん、赤の他人に義理堅いこったな。まあ、その件については来る時に、話した通りだよ。あのお嬢ちゃんの、所属してた団体のひとりが、バカを起こしたのは事実だ。が、その後その団体の連中が全員出頭してきて、そのヒロトってのは無関係だと、説明していたらしいからな。警察もエンドール側も、特にことを大きくするようでもないらしいしな」

 ゲンブは、ライ・ローが話した内容を思いだして、アートンとバークにいう。

 その言葉を聞いて、心から安堵するふたり。


「よぅっ! せいが出るわね!」

 そこへいきなり、アモスがやってくる。

 振り向いて、彼女を見るアートンたち。

 しかし次の瞬間、アートンたちがぼうっとする。

 しばらく立ち尽くすアートンたちと、アモス。

「なぁ、せっかく来たんだし、ちょっと手伝ってくれないか? 部品をバラしたの、地面に置きたいんだ、シートでも敷いてくれるとありがたい」

 何事もなかったようにアートンにそういわれ、ゲンブとバークはふたりしてシートを広げて地面に敷く。

 アートンが、慎重に部品をそのシートの上に置く。

 そんな三人の様子を、アモスは怪しい目つきで眺めていた。

 無言のままアモスは振り返り、来た道を戻る。

 途中に、村の中年女性と出会うが、アモスに気づきもしないで素通りしていく。

 タバコを取りだしたアモスが、一本くわえると一箱が空になる。

 アモスは空箱を潰して、路肩に放り投げる。

「さて、仕掛けるのは、いつぐらいかしらね……」

 そんなことを、冷たくつぶやくアモス。

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