31話 「稼ぎ頭」

 ファニール亭の、リアンたちが泊まっている部屋。

 窓の外はすっかり陽が落ちて、夜になっていた。

 街灯と川向かいの建物の明かりが灯る。

 夜空には、昼ごろから広がりだした雲のせいで、星の姿は見えない。


 部屋のテーブルに、いきなり大金がドサリと置かれた。

 それを見て唖然とした瞬間、お金を出してきたリアンを、バークとアートンが驚いて眺める。

 お金を渡したものの、どう説明すべきか迷っている感じのリアンが、モジモジとしてる。

「ど、どこからこんな大金を?」

 バークは、テーブルの上に置かれたお金を手に取って勘定してみる。ゆうに五十万フォールゴルドは超えている。

 アートンは、いいにくそうにしているリアンの言葉を待つ。

 ちょうど、アートン自身が紛失したのと同じぐらいの金額だったので、下手に突っ込むのが躊躇われたのだ。

「そ、そのですね……。アモスが、実は持っていたんですって……」

 そういったものの、自分でも納得できるような説明じゃないことを、理解しているようなリアン。

 アートンとバークの視線に、リアンの目が普通に泳いでしまう。


「あの女が?」

 バークとアートンが、顔を見合わせる。

 ふたりは明らかに怪しんでいる。

 リアンはその様子を見て、どうしたらいいのかを考えている。

「でも安心して下さい、アートンさんがなくしたお金ってわけじゃないです。いくらアモスでも、仲間のお金を盗むとかしないですから」

 リアンがそういうが、バークが不安そうに眉をしかめる。

「アートンのじゃないとなると、余計に不安なんだよなぁ……。どこから入手してきた金なのか、出処が気になるじゃないか。アモスはその件、どういっていたかな……」

 しどろもどろなリアンの様子を見て、バークはまるで彼を追求しているような気になってきた。

 リアンにこれ以上訊くのは酷な感じがして、口を開こうとしたアートンをバークが制止する。

「アモスから直接訊こうか。あいつのことだから、マトモに答えてくれる、とも思わないが……」

 バークが頭をかきながらそういい、アートンが「そうだな」とつぶやく。

 バークが改めて、お金を勘定してみる。


「ちょっとぉ! ヨーベル、どこっ!」

 すると、アモスの大声が聞こえてくる。

「一緒にお風呂入る、っていってたのにぃ!」

 下着姿で、首からタオルを巻いたアモスが、堂々と現れる。

 その姿を見て、慌てて視線を逸らす三人の男性陣。

「あっ! あんたらっ!」

 まったく恥ずかしがることなく、男たちの前にアモスは堂々と出てくる。

 むしろ男性陣が、目のやり場に困り狼狽する。


「その金、ありがたく使いなさいよっ! 特にアートン! 次なくしたりしたら、マジ殺すからね!」

 アートンの真横に立ち、アモスが脅すようにいう。

 アートンは、アモスを見ないようにして、黙っていることにした。

 バークがお金のことを追求してくれるかと思ったが、当のバークも視線を逸らしてお金をテーブルに戻す。

「で、ヨーベルはどこ行ったのっ!」

 男性陣に対して羞恥心などないような感じで、アモスは部屋をキョロキョロ見回す。

 そして視線を合わせずに、いっさい金の出処を訊いてこないアートンとバークの様子を見て、アモスはニヤリと笑う。

「さっき、フロントに行ったよ」

 やはりアモスをチラリとも見ずに、リアンはアモスにそう教える。

「なんか、訊きたいことがあるんだって……」

「フロントですって? 何訊こうってのよ、気になるわねぇ」

 アモスが怪訝な顔をしたのは、帰ってきた時にフロントにいたのが、宿の主人バッツだったのを思いだしたからだ。


「その格好で、部屋から出ないでくれよ……」

 バークがアモスのくれた大金を、今日もらった給料袋の中に詰め込もうとしながらいう。

「ああっ? もっと、他にいうべきセリフが、あるんじゃないのか?」

 大金について突っ込んで訊いてこないことを、嘲笑うようにアモスがいう。

 別に追求を避けるために下着姿で出たわけでないのだが、ここまでヘタレな反応をしてくると、アモスも笑いしか起きない。

 バークにすごんだアモスだが、アモスの視線を無視して彼はせっせとお金を封筒に入れている。

「金まで都合してくれる、こんなイイ女が一緒なのよ。あんたらって、ほんと果報者ね! こんな楽しい旅、生まれてはじめてだろ? 違うか?」

 勝ち誇ったような感じで、下着姿のアモスがそういってくる。

「行くなら、さっさと行ってくれよ……」

 金をなんとか給料袋に入れ終えたバークだが、結局、金の出処を訊きだすことはできなかった。

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