24話 「遺跡と英雄」 後編
「ハーネロン」とは、作中で度々登場してきたが、約八十年前に登場した「ハーネロ神国」が使役したバケモノの総称を差す名称だった。
その姿はこの世の物とは思えない造形をしており、人外の力を操るバケモノたちとして恐れられていた。
ハーネロ神国の戦闘員として、数十を超える固有種族が存在していて、国土を荒らし、人々を虐殺した脅威の存在だった。
破壊神を自ら名乗るほど、狂気に支配されていたハーネロは、このハーネロンを生みだし、破壊と混沌をグランティル地方に振り撒いたのだ。
ハーネロ神国の連中が、どこからやってきて、何故人類の敵として、暴虐を尽くしたのかは未だに判明していない。
だが、今この時代があるのがわかるように、ハーネロ神国は倒れ、彼らの使役していたハーネロンは、戦後大規模な掃討作戦により絶滅したのだ。
しかし、絶滅したハーネロンだが、掃討戦を逃げ切った個体も中にはおり、野良化していたりして、時折目撃情報が大体的に報道されて、世間を賑わすことがあった。
また、人の手ではどうすることができない生息地域、主に海洋ハーネロンに関してはほぼ根絶が不可能で、今でもその存在が脅威になっている。
オリヨルの怪獣と呼ばれるものが、その典型的な存在だったりする。
そして稀に今、ヘムロニグスたちの目の前にいるような、死に損ないのような存在もいるのだ。
この施設は、貴重な遺跡として遺跡保護団体クルツニーデに保護されていた。
サイギンを含むフォールの街々には、こいういった遺跡は数多くあり、主に観光地として開放されていたりする。
しかし、今ヘムロニグスたちがいる施設は、その重要性から厳重に封鎖されているのだ。
そしていまさらだが、このラロックという陽気な男は、クルツニーデという遺跡保護団体の、サイギン支部長という、かなり高位な人物だったのだ。
ヘムロニグスは、喜々として周囲の機械のような奇妙な箱を指差して、説明しているクルツニーデの幹部を冷たい視線で眺める。
「他にもいろいろ、壊れている箇所が多くてね~! もう、手の施しようがないのが現状ですよぉ! ハハッ! まったく! これでもかってぐらいに、破壊されてましてね~! よっぽど、この施設が怖かったんでしょうね! ハハッ!」
笑顔でいうラロックだが、どこか恨み節が混じってるようでもあった。
「それらの部分を、直せたりできないのですか?」
「ひょっとしたら、直せたりしたら、またこの施設が動きだして……」
従者ふたりが不安そうにラロックにいい、ジョージと名づけられているハーネロンを見上げる。
「ハハッ! そ~れができる人間は、もうひとりもいませんよぉ~! ハーネロ神国の崩壊と同時に、ハーネロ神国の技術者はすべて処断され、その技術も徹底的に破壊されましたからねぇ!」
そんなラロックの言葉を、無言でヘムロニグスは聞いている。
「なるほど、ちょっと安心しましたよ。ところで、他の連中は……?」
従者が、周りのハーネロンたちを眺める。
「彼らは、完全沈黙! わたしの家庭の、愚痴相手にもなってくれませんよ」
ラロックは残念そうにいう。
「でも、どの子も名前ありますよ! 向こうから、一匹ずつ紹介しましょうか?」
ラロックが、入口付近のもう動かないハーネロンを指差していう。
「あ、いや、いいです……」
「やっぱり? ハハハッ!」
芸人のようなリアクションを取り、また馬鹿笑いするラロック。
「でも、死んでいるという連中も、今にも動きだしそうな迫力ですね……」
壁の中に埋もれて、微動たりしないハーネロンを眺めながら、従者はヘムロニグスにいう。
「ちなみに~。本心を、いわせていただければ! その技術、可能であれば今また、蘇らせてもらいたいものですよ!」
ラロックの言葉に、刹那ヘムロニグスが彼の姿をにらみつける。
ラロックはジョージを見上げながらいったので、後ろ姿だけで発言した瞬間の彼の表情は見えない。
「怖いもの知らずで、クルツニーデらしい正直な意見だな。その発言は、貴君だけの本心か? それとも、やはりクルツニーデという、組織全体の総意なのか?」
ヘムロニグスの語気がやや強くなる。
「もちろん! わたし個人ですよ! ハハッ!!!」
ラロックはくるりと振り返り、いつもの笑顔になっていう。
その表情を、ヘムロニグスが胡散臭げに眺める。
「ジョージも、ずっとこのままではねぇ~。さすがに不憫ですよ~」
ラロックはジョージを再び見上げる。
「まさか、ハーネロンに情を抱くようになるとはな。こやつらが、かつて人を滅ぼさんと、破壊の限りを尽くした、忌まわしき歴史を、貴君も知らぬわけでもあるまい」
感情を感じさせずに、ヘムロニグスが淡々という。
「大老のお怒りはごもっともです、ですが……。ジョージや、他の連中とも長い付き合いですからねぇ」
ラロックが肩をすくめて、しょうがないだろ的なセリフをいう。
「貴君にとっては、保護対象以上の、存在になっているようだしな」
「ええ、親友ですからね、否定はしませんよ」
ヘムロニグスに、ラロックがサラリといってのける。
「彼らの恐ろしさを、実際に知っておられる大老でしたら、当然軽蔑されるでしょうが。我らクルツニーデにとっては、忌むべきハーネロ期の遺物も、失われし偉大な技術に、違いないのですよ。そして、中でもジョージはわたしにとって特別な存在。まあ、わたしのように、ここまで情が移っているのは、他にいませんよ。ついでに、安心して頂くためにいいますと」
そういった後、ジョージと呼んでいるハーネロンをラロックが見上げる。
「この、いかしたジョージですが。恐ろしい姿こそしていますが、警戒すべき上位ハーネロンではありませんよ。大量生産の汎用戦闘構成員。ただの使い捨てのコマ、程度の存在だったという話しです。ヘムロニグス大老でしたら、当然ご存知かと思われますが?」
ラロックの言葉に、ヘムロニグスが「……まあな」とつぶやく。
「大老、こいつは下級ハーネロンなのですか?」
「ああ、それほど恐るるべき存在ではない」
「な、なるほど……」
ヘムロニグスの言葉に、安心したようにするふたりの従者。
「またこうして、こやつらと向き合うことになるとはな……」
頑なに無表情を貫いていたヘムロニグスだったが、いろいろな感情を含んだセリフを弱々しくいう。
「感動の対面ですね!」
そんなラロックの煩わしい言葉を、ヘムロニグスは当然無視する。
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