4話 「リアンの流刑理由」 後編
「いったい、その式典で何があったんだろうな? この街では、エンドールのことなんて調べようがないしなぁ……」
アートンもこの案件を、興味深く考察したいが情報がなさすぎるのだ。
変に憶測を交えた自説を披露したら、バークのように自爆しかねない。
「事故……。いや、事件なのかな?」
リアンが思いだそうとするが、当日の映像が上手く繋がらない。
その日の出来事が断片的に現れるが、それがどういう関連性を持っているのか、整理がつかないのだ。
「で、何故か留置所に送られて。そのままジャルダンに、直行っていうのよね?」
アモスの言葉に、リアンは力なくうなずく。
「滅茶苦茶な話しだな? 何がどうなったら、そうなるんだろうな? 何かヤバいモノでも、見られたと思われたのか?」
アートンがリアンに尋ねる。
「う~ん……」
腕を組みながら首を上半身ごと傾け、リアンは熟考する。
その瞬間、リアンはハッとする!
あの日、出会ったある人物。
怪しげな仮面を被っていた人物を見た記憶が、黒い靄の中から急に思い浮かんできた。
そうだ、あの人は、間違いなく。
リアンの中に、ある重要な記憶が蘇ろうとしたら……。
「よくわからないことを、考えたって仕方がないのですよ~」
そこにヨーベルが、両手にカラフルなパフェを持って帰ってきた。
「リアンくんは、お家に帰りたいみたいだし。帰れるように、みんなで協力すればいいと思いますよ~。エンドールに帰りさえすれば、見えなかったモノも見えてくると思います」
それっぽいことをいうヨーベルが、椅子の前にやってくる。
パフェをテーブルに置くと同時に、バークがヨーベルのために椅子を引く。
「なんだか、みなさんにはお世話かけます……。ハッキリしないことばかりで、本当にすみません」
ヨーベルが席に着くと、リアンは改めてバークたちに謝る。
「まあ、なるようにしかならないわよね、こんな状況じゃ。情報が少な過ぎる状態で、考えたってどうしようもないわ」
アモスが不安そうにしているリアンを見ながらいうと、視線をパフェに向ける。
「しっかしそれ、あのメニューのより、ずいぶんデカいわね」
パフェを受け取ったアモスが、予想外の大きなパフェに眉をしかめる。
「サービスしてくれましたよ~」
そういってヨーベルは、カウンターのマスターに手を振る。
ヨーベルにそれを返すマスターは、満面の笑みだった。
「とにかく、ヨーベルのいう通りよ! 別に今は、難しく考える必要なんてないでしょ。リアンくんが帰りたいっていってるんだし、無事に帰してあげればいいのよ。なんで送られたとかは、旅してるうちに判明するかもしれないでしょ。真相がヤバそうなら、下手に探り入れるのも、かえって危険でしょ。違わない?」
眉間に皺をよせながらアモスは、バークに尋ねる。
考え込むバークと、不安そうに眺めるリアン。
「頭使うなら、確証も持てない陰謀論披露するより先に、リアンくんを帰してやることに集中しな! リアンくんをこのまま放置して、持論の証明に力入れたいっていうのなら、あたしがリアンくん連れ帰るだけだし」
アモスが挑発的にバークにそういうと、山盛りになった生クリームに、まずはスプーンをぶっ刺す。
「放置とか、いまさらそんなこと、するわけないだろ」
バークが心外だといわんばかりにいい、リアンを安心させるように視線を送る。
「じゃあ、考えるまでもなく決まりじゃない。今後の予定ってのもさ! リアンくんが、ジャルダンに流された理由を解明しつつ、彼を故郷の村まで送り届けてあげればいいのよ! あ、故郷も追っ手がかかってるかもしれないのよね。確かあたしの故郷の、レーベの村が一応の目的地だっけか」
スプーンに盛った生クリームを口に運びながら、アモスはつづける。
「あんたらは道中、しっかりリアンくんと、そっちのお花畑ちゃんを保護してあげりゃいいのよ。情報が出そろってきたら、好きに推理考察合戦でもしたらいいでしょ。時間なら、山ほどあるんだしよ」
一口パフェを食べて、アモスはゲンナリとした表情になる。
「うわっ、思ったより甘ったるいわね、ヨーベル太るわよ……。あんたかなり、気にしてたんじゃないの?」
パフェの想像以上の甘さに、アモスはスプーンをパフェに戻すと、隣のアートンにそれを渡す。
不思議そうな顔をするアートンだが、「食え!」という意図を、彼女の一瞥から察する。
「ん~……、でも誘惑には勝てないのです!」
一方ヨーベルは甘いモノが好物なようで、すでに大盛りパフェの半分を、平らげようとしていた。
「でさっ! これもハッキリさせておくべき、事柄だと思うんだけどさ! ヨーベル! あんた、これからどうすんのよ? あんた腐っても、オールズの神官なんでしょ? 教会に戻る気とかないわけ? アートンのこと心配してたけど、あんたも本来なら戻るべき場所がある身でしょ」
アモスにいわれ、ヨーベルの食べる動きが止まる。
しばらく考えこみ、リアンと視線を合わせる。
ヨーベルに見つめられ、リアンは困ったような顔になる。
再びアモスに向き直るヨーベル。
「できれば、わたしもご一緒したいですね~」
どこか引きつったような、媚びた笑顔でヨーベルはそう答えた。
「ヨーベルは、教会に帰る気はないのかい? あんなことがあったんだし、ジャルダン刑務所での教会勤務から、別の教会に移してもらうとか、できないのかい? そうすれば、ヨーベルだけでも安全に、帰ることができると思うが?」
アートンの問いに、ヨーベルは考え込む。
「その……、すごく申し訳ない気持ちなんですけど……。オールズさまよりも、みなさんとご一緒にいたほうが、楽しいかなって……」
モジモジといいにくそうに、ヨーベルは本音を語る。
「とんだダメ神官ね! あんたってヤツは! でもその正直なところ、ますます気に入ったわ!」
アモスが快哉を叫ぶように、ヨーベルにいう。
「っていうことだから! 男どもは、しっかりリアンくんとこのバカ神官を、エンドールまで送り届けてあげなさい! これが、このお話しの目的よっ! いいわねっ!」
アモスが、バークとアートンを交互に見ながらそう力強く宣言する。
「じゃあ、おまえもついてくるのか?」
アートンが、思わず本音混じりの迷惑そうな感じでいう。
「じゃあ、ってなんだ? てめぇ、当たり前だろ? 何いってんだ? 殺すぞ?」
刹那、アモスがまたアートンの胸倉をつかむ。
アモスの迫力に圧され、アートンは失言を後悔すると同時に視線を逸らす。
「アモスちゃんも、怖いけど女の子ですよ~。守ってあげてくださいね~」
殺伐とした空気の中、ヨーベルがニコニコと笑顔でいう。
「アモスに関しては、どう考えても大丈夫だと思うんだけどな」
バークは、そんな素直な感想をセリフにする。
「ふっ! まあね!」
アモスはバークの言葉にニヤリと笑うと、再びアートンにすごむ。
「いざとなったら……。また助けてやんよ……。助けてやんからよ……」
アモスはアートンの耳元で、ニヤニヤしながら不敵にささやく。
アートンはアモスの恫喝のような圧力を努めて無視し、無言でパフェの残飯処理に取りかかる。
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