4話 「リアンの流刑理由」 前編

 アモスが、ニカ研だったらしいあの大女のことを考えていると、ヨーベルが申し訳なさそうに声を上げる。

「あの……。お話し、全然変わってすみませんけど~」

 むしろ話題を変えたかったバークが、ヨーベルの言葉に食いつく。

「ん? どうしたんだい?」

 ヨーベルはメニューから、ひとつのパフェのイラストを指差していってきた。

「これ……、注文してみてもいいでしょうか? とってもカラフル、ちょっと食べてみたいです……」

 ヨーベルはモジモジとしながら、どこかはにかむような口調でいってくる。

 甘え方がやけに手慣れた印象だが、バークは快諾する。


「わあ、ありがとうございます~」

 ヨーベルが、うれしそうに声を上げる。

「何よ、ヨーベルだけがこのパーティーの姫じゃないのよ! あたしを差し置いて、いい度胸じゃないっ!」

 すると、すかさずアモスまで追従してくる。

「お好きにどうぞ、女王さま」

 こうしてヨーベルとアモスが、店内の奥にあるカウンターテーブルに注文に出掛ける。

 おかげで、なんだかテーブルが一気に静かになった。


 アモスとヨーベルが、カウンターでメニューを指差しながら直接注文をしている。

 ヨーベルが可愛娘ぶって注文すると、マスターがデレデレしてるようだ。

 大声を出すヤバそうな客の集団だったが、アモスとヨーベルは確実に男の視線を集める容姿をしている。

 ふたりが実際に声をかけてくるだけで、第一印象最悪だったのも、一瞬で引っくり返るのだろう。

 そんな注文をしている、ふたりの女性陣の後ろ姿を眺めながら、アートンがバークにこっそりいう。

「なぁ、バーク……。金、いきなり使い過ぎじゃないか? いくらズネミンから餞別金をもらったとはいえ、このペースじゃマズくないか?」

 不安そうにアートンが、バークの金の使い方に不安を漏らす。

「あれぐらいなら、無駄遣いにならないよ。……口うるさい、女王様も消えてくれたし」

 バークがため息をつきつつ、ひと安心したようにいう。

 口うるさい女だが、意外と指摘は的確で今後何かと頼りになることがあればいいなと、バークは僅かな期待をしていた。


「あの~……」

 ここでリアンがゆっくりと手を上げて、相変わらず遠慮気味に話しかけてくる。

「さっきのお話しに、関係することなんですけど……。ほら、僕って……。結局どうして、あの島に連れてこられたのかが、わからないままですよね?」

「そういえば、その一件がまだ全然解決してないんだよな……。取っかかりさえも、つかめていないんだっけか……」

 アートンが、リアンを心配そうに見つめる。

 アートンにとってもリアンの安否は心配事で、無事に故郷に届けてやりたいという思いとともに、その謎の解明もしてやりたいと思っていたのだ。


「例のパーティーで何か事件があって、誤解と偶然が重なっての結果だとしても。今の不確定要素の多い状態で、エンドールに帰ったとしたら……。僕としては、またどういった扱いを受けるか、不安もあって……。旅の間になんとか、対策を考えるとしても、どこから手をつければいいか。それに、サイギンからエンドールに帰るまでも、道中大変そうだし、おふたりの負担も大きくないですか?」

 リアンが、アートンとバークのこれからの気苦労を察して、心配そうにそうつぶやく。

「その件なら問題ないよ」

「ああ、同じくだ」

 バークとアートンが、リアンに力強くいう。


「サイギンからエンドールに向かうのは、予想外の展開だったが、絶対無事に帰してあげるよ。エンドールに着きさえすれば、オールズ教会の俺の組織が、なんとか力添えをしてくれることになっていたからね。ただ、残念なことに、当の計画を準備してくれた、エニルとヘストンが亡くなったからな……。具体的にどういう段取りで、ふたりが行動を起こそうとしてくれたのか、今となってはわからないんだよな」

 バークが、悲しそうにそういう。

「でも、エニルの属していた組織は把握しているよ。そこに接触してみようと思っているよ」

 バークは、リアンを安心させるようにいう。

「あんたのいう後ろ盾は、いまいち信用ならないけど……。でも、一番守ってあげないといけないのは、この可愛いリアンくんに間違いないわね」

 アモスが先にカウンターから帰ってきて、リアンの頭をポンとたたく。


「だったら、もう少し慎重にならないとな」

 アートンが腕を組んで、空気も読まずにドヤ顔でそんなことをいう。

 案の定、すかさずアモスはアートンの胸倉をつかんで怒鳴る。

「だから、てめえのは慎重じゃなくて、不審なのよ! いい加減わかれよ! この低能っ!」

 アモスの怒号がまた店内に響き渡る。

 静まり返る店内。

 また店内の全員がアモスに注目している。


「アモス、落ちつけって……。アートンも話しが進まなくなるから、いちいち蒸し返すなって」

 バークにいわれ、しゅんとするアートン。

「とにかくよっ!」

 アートンの胸倉を離し、アモスはドンと椅子に腰掛ける。

「リアンくんの件で、もう一回おさらいしておきたいんだけどさ。どうも話しを聞く限りじゃ、エンドール政府の連中なんでしょ? 君をジャルダンに流したのって?」

 リアンは腕を組んで、必死に当時のことを思いだそうとする。

 未だにあの当時の記憶が、混乱していて有耶無耶のリアン。

「う~ん……。そうですね……。ある人からパーティーに招待されたってことは、お話ししましたっけ?」

 自分の中で整理をつけながら、リアンは慎重に話す。


「そこで何か、騒動があったんだよな? で、その騒動が何だかがわからないと……」

「確か、バーク軍師さまはぁ。王政復古を狙うトリオ公爵が云々の、テロ疑惑を主張されたのでしたっけぇ?」

 アモスがバークに、厭味ったらしくニヤニヤしながらいう。

 言葉に詰まるバークが、バツが悪そうに頭をかく。

「リアンぐらいの少年を、いきなり留置所に送るって、よっぽどのことだよな。仮面舞踏会的な趣向ってのは聞いたけど、結局、どういったパーティーなのかわかっていないんだっけ?」

 アートンが確認するように聞いてくる。

「ええ……、相当規模の大きいものだったんですけどね」

 リアンはハッキリ断言できないことを、申し訳なさそうにいう。


「なんで、パーティーの内容訊かなかったの?」

 アモスが疑問を口にする。

「僕を招待してくれた人が、楽しみにしててって。しつこく訊いたら悪いかと思って……」

 リアンが当時、招待してくれた人のことを思い返しながらいう。

「その秘密ってのが、よくわからないな。サプライズ的な要素でも考えていたのか?」

 バークが可能性の高い予想をいう。

「う~ん……。“ あの人 ”のことだから、それもありえるかもです。うん、その可能性は一番高いかなぁ……、って僕も思っています」

 リアンもバークと同じ考えを持っていて、彼の予想を肯定する。


「前、ヨーベルがいってたけど……。そいつにイジメられてたとか、嫌がらせされたとかはないの?」

 アモスの目つきが、急に鋭くなる。

「いえいえ、それはないです、本当に……」

 慌ててリアンは手と首を振って、アモスの疑問を否定する。

 そういったあと、リアンはアモスの言葉を不思議がる。


(ヨーベルがいってたことなんて、なんで知ってるんだろう?)


 リアンはアモスがどうして知ってるのか、疑問に思っているとバークが口を開く。

「なるほどね……。その時の状況を、知る手段があればいいんだがなぁ……」

 しかしフォール王国の人が、エンドール国内の事情を知っているとは考えられない。

 何か情報が報道されていればいいのだが、とバークは考え込む。

「そしたら、急にそこの警備担当みたいなヤツに、連行されたんだよね?」

 アートンがリアンに訊いてくる。


 リアンは目を閉じて、パーティー当日のことを思いだす。

 あまりにも突然な出来事だったので、リアンにはまだ整理がつかないのだ。

 しかも、どうも記憶があやふやなのだ。

 思いだそうとすると、頭の中に黒い靄がかかるのだ。

 まるで何か、別の力が働いてるかのようで……。

 しかし、自分を連行したその男の奇妙な姿だけは、やけに印象に残っていた。

 白髪白髭の怪しすぎる大男だったのだ。

 白いスーツを着用し、でっぷりと肥えたその姿は異様で、忘れようがない外見だったのだ。

 警備員と思ったのは、警備用の制服をベースにした、白いスーツを着用していたからだ。

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