20話 「航海の真相」 前編

 アモスから聞かされた衝撃の話しに、ズネミン一同が絶句する。

 この船は、最初からオリヨルの怪獣に沈められることを想定して、運行していたという事実を知り、唖然とする一同。

 しかも、サイギンに着いたとしても、約束の金が払われるかどうかも不明だった。

 アモスはスパスを尋問して、これらの内容を訊きだしたという。

 しかも、積み荷は危険物質で、クルツニーデにとってあまり公表されたくない代物だという。

 廃棄して、存在自体をなかったことにするのが、航海の目的だったわけだ。


「そ、その危険物質ってのは?」

 バークがアモスに尋ねる。

「グノーゼルだとかいってたわ。知ってる人間いる?」

 アモスが全員に訊いてみるが、誰も聞いたこともないワードだった。

「確か、集積作業はクルツニーデが、全部やったんだって?」

 アモスがズネミンに訊く。

 ズネミンが悔しそうにうなずく。

「俺があの時、しっかり積み荷を確認しておけばよかったのか……。何から何まで、俺の怠慢と判断ミスだ、ほんとみんなすまねぇ……」

 拳を握りしめ、歯ぎしりをしながら己の怠惰をズネミンは猛省している。

 それをスイトが慰めている。


「はいはい、は~い!」

 ここでヨーベルが、両手を挙げてアモスに質問してくる。

「そのグノーゼルとやらは、どんなものなのでしょうか!」

 興奮気味に食いついてくるヨーベルを見て、リアンはやっぱりなと思う。

 見るとヨーベルの目は、キラキラ期待に満ちている。

「アモスちゃんは、その危険な積み荷を見たわけですね! わたしも、是非とも見てみたいです! 船倉にあるのですよね!」

 興奮しているヨーベルをリアンがなだめる。

「質問は受けつけないっていたでしょ、それに、それもすぐに見せてあげるわよ。それまで楽しみにしときな!」

 アモスはヨーベルの質問を一蹴する。


 リアンはスパスのことを一番訊きたかったのだが、アモスはなかなか答えない。

 リアンがヨーベルを落ち着かせながら、不安そうにスパスの安否を考える。

「そ、そうだ、そのスパスの姿が、あの一件以来見えない。彼、だ、大丈夫なんだろうな?」

 アモスの凶悪さを知っている、アートンが不安気に尋ねる。

「質問は受けつけないっていってるでしょ、馬鹿かおまえは。それも、これから判明するわよ、それまで待ってな! たぶん船倉にいるはずよ、たぶんね」

 そうアモスがいい、ニヤリと笑う。

 当然嘘だが、ズネミンたちの前で正直に答える訳もなかったし、アモスは嘘をつくことになんの抵抗もない。


「尋問した時に、船倉に縛りつけてきたのよ」

 アモスが嘘をいい、クスクス笑う。

「でも、あの騒動がすぐ起きたでしょ? 船倉がどうなってるのか、わかんないでしょ? あいつ大丈夫かしらね~?」

 アモスが妙に、艶っぽいトーンでいってくる。

「彼の安否は、確かに不安ですね。何度か彼の部屋に人をやったのですが、返事もなかったのは、船倉にいたからなのですね。カギさえあれば、入れたのですが……」

 スイトが先の騒動で紛失したのか、なくなっていた船倉に向かう鍵束のことを悔やむ。

「アモスさんのいう通り、この航海、クルツニーデがあらかじめ仕組んでいた、罠のようなものだとしたら。スパス氏の存在は我々にとって、大きな交渉材料になります。その安否が、とても気になりますね」

 スイトがそういい、ズネミンもうなずく。


「クルツニーデ相手に訴訟を起こすとなれば……。スパスの証言ももちろんだが、アモスねえちゃんのいっている、グノーなんとかも有力な物証だ。金がもらえないってのなら、徹底的にこの一件で騒ぎ立てて、騒動をデカくしてやるまでだ!」

 ズネミンが決意を込めてそう発言する。

「じゃあ、こんな話し聞いた後じゃ、遠慮は無用ですね」

 幹部のひとりが工具を取りだす。

「スパス氏に遠慮してたんですが、ドアを破壊して一気に船倉まで行きましょう」

 その言葉にズネミンもうなずく。


 その様子を見て、アモスはワクワクしてくる。

 ここでカギは見つけたと、自分が盗んでいた鍵束を出す予定でいたのだ。

 だが、こういうイレギュラーなイベントも面白いと思い、鍵束はそのままポーチにしまい込んで出さなかった。

「ドアをぶち破るのですね! カチコミですね!」

 ヨーベルも興奮しているし、アモスもズネミンたちに解錠を任せるのを期待しているように眺めていた。


「ちょっと待ってくれ、危険物質っていうが、例の騒動で船倉全体が汚染されてるとか、ヤバいことになってなくないか?」

 ここでバークが、いたって普通に慎重論を口にする。

 楽しみに水を差すようなバークの発言だったが、いわれてみればそうだったとアモスも思い直す。

 グノーゼルとかいうのが、何なのか、まったく見ていないのだ。

 積み荷の山に入っているのだろうが、中身までは確認できていなかったのだ。

 もし、廃ニカイドと同じように、近付いただけでヤバい代物だった場合、自分たちの身が危ないのだ。

 アモスは、積み荷の正体や形状が不明であることを正直に告げ、慎重に侵入することをズネミンたちに提案する。


 そして、スパスの部屋のドアが破られる。

 夕食の誘いを断って、ズネミンや幹部たちはまず、この一件をきっちり確認しておきたかった。

 スパスの部屋は、例の騒動の際に荒れに荒らされグチャグチャになっていた。

「この部屋の物は、裁判に有利になる物証が出るかも知れないから、あとで徹底的に調査するぞ。ヤツの持ち物すべて証拠品として、保管しておくようにするからな!」

 ズネミンが、足の踏み場も無いぐらい散乱した部屋を、慎重に進みながらそう仲間たちにいう。

 スパスの部屋から、船倉へとつづくドアにはカギがかかっておらず、すぐに開けることができた。

 慎重にドアを開け、まず空気汚染がないかを確認する。

 少しでもヤバい臭いを感知したら、船倉チェックは中断する予定だった。


 危険物質が無色透明で無臭の物質だったら、どうするつもりかしら? という、疑問があったアモスだが、あえて口にしなかった。

 アモスにとっては、興味は船倉のグノーゼルというものに完全に移っていた。

 ここで船員がひとり倒れたら、それならそれで探索の諦めもつくといった程度の考えだったのだ。

 冷徹な彼女らしい思考回路だった。


 空気は異常ないようだった。

 次にズネミンは、スパスの名前を呼ぶように部下に命令する。

 スパスを呼ぶ声が、船倉にしばらくこだまする。

 それでも無反応だった。

 どうすべきかを、先頭を行く船員がズネミンの指示を待つ。

 ここでズネミンが前に出てくる。

「みんな、せめてここでの探索は俺の主導でやらせてくれ。船長としてじゃない、ひとりの男としてのケジメをつけたいんだ。俺が入ったら、すぐにドアを閉めろ!」

 ズネミンの言葉に、船員たちが驚く。

「せ、船長、いまさら何いってるんですか……」

「頼む、ここは俺のワガママを聞いてくれ!」

 ズネミンが先頭に立ち、全員の顔を見渡すようにいう。

 その顔には硬い決意が込められ、絶対に意思を曲げない強さが現れていた。


「了解しました……」

 そんなズネミンの思いを汲んで、スイトがうなずく。

「ありがとよ、感謝するぜ。なぁに、確認をパパッと済ませるだけさ。そんな悲壮感、止めてくれよ。俺も、この後のクルツニーデとのケンカが今から楽しみなんだ。絶対に落とし前つけさせるってな!」

 拳で手の平を一発殴ると、ズネミンがガンと頭をドアにたたきつける。

「よしっ! 行ってくる!」

 そう宣言すると、ズネミンは素早くドアを開けて向こう側に滑りこむ。

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