16話 「慈悲無き襲撃」 後編

残酷な描写があります。苦手な方は気を付けてください。


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 そこでまたアモスが、スパスの被弾した膝を抑えていた腕を撃つ

「ぎゃあああああああああっ!」

 スパスの悲鳴とともに、血があたり一面に吹い飛ぶ。

 アモスは返り血をガードするために、近くにあった布切れを、前掛けのようにしてかける。

「質問は受けつけてない、知らないなら黙ってろ、クソ野郎が」

「ううううう、た、助けてくれ……」

「いまさら命乞いは遅いだろ」

 アモスが無慈悲にスパスを蹴りつける。

 スパスが後ろにふっ飛んでうめく。

 そしてアモスはニコニコしながら、スパスが先ほど探しにきた絵葉書を見せつける。

 家族の写真が、スパスの目の前に突きつけられる。

「そ、それは家族の……」

 そういうや、スパスの肩口に銃弾が撃ち込まれる


「動くな、しゃべるな、質問するな。誰が勝手にしていいっていった? あんたはあたしの質問にだけ、答えてから死ねばいいんだよ」

 地面で血塗れになりながら、うめいているスパスがアモスに手を伸ばす。

「家族の写真だけは、せめてそれだけは一緒に」

 スパスが泣きながらアモスに懇願する。

 すがるスパスの手を、アモスが蹴り飛ばす。


「質問其のに~! といこうと思ったけどさ。あたしってば、だいたい理解しちゃった、あんたの企てが」

 アモスが銃とナイフを構え、うめくスパスをさらに蹴りつける。

「あんたが危険海域を突っ切る行路を、どうして選択した理由もね。このなんとかっていう危険物質を、オリヨルの怪獣に襲わせて、海の藻屑に変えることだったわけね。しかも、この船、船員、あたしたち、リアンくんたち全員を巻き込んでよぉ!」

 アモスは、ナイフをスパスの肩口に突き立てる。

 悲鳴を上げて、スパスがさらに悶絶する。


「このクソ野郎がぁっ! よくもそんな、極悪なことを考えやがったなぁ! 何人の人間が、死ぬと思っているんだよ!」

 アモスが今度は、銃をスパスの苦しむ足に残りの三発を全弾撃ち込む。

 弾倉が空になった銃を、アモスはそのまま地面に落とすように捨てる。

「で、自分はこのボートで脱出か! どこまでも卑怯な糞野郎が!」

 怒りの収まらないアモスが、更にスパスの身体を小突くように蹴りまくる。

「ハハハァ! 苦しんで苦しんで苦しみ抜け! クソ野郎がよぉ! ギャハハ!」

 返り血を浴びて、血塗れのアモスの凶相がさらに歪む。

 人間とは思えない凶行と、外道のような形相だった。


 血まみれでうめいているスパスを見下し、やはり血まみれのアモスが、今までの鬱憤を晴らしてニヤニヤしている。

「最高! この気分久しぶり。やっぱ人間は、嬲り殺しにするのが一番楽しいわね! おい、クソ野郎! まだ生きてるかぁ?」

 血まみれのスパスを何度も蹴りつけながら、アモスはうれしそうに質問する。

「殺してくれっていうまで、このショーは継続するぞぉ? あたし最高に、絶頂感味わってるからさぁ!」

 アモスが狂ったようにスパスを痛めつけていると、スパスが何かをうめいている。

「ううう、か、家族と一緒に。せめてみんなと一緒に……」

「家族、家族しつけぇなっ!」

 アモスが怒り狂い、スパスの顔面を蹴り飛ばす。

 後ろにまた吹っ飛んで、スパスは動かなくなる。


「おい、安心しろ! このクソ家族どもも、後々あの世に送ってやっからよ! だから安心して、おっ死んじまえよな」

 アハハと高笑いするアモスの声が、船倉に響き渡る。

 動かなくなったスパスだが、まだ微かに息があるようで、血まみれのままで息をしているようだった。

「おっと、そうだおまえ、せっかくクルツニーデだから、これも訊いとくか?」

 ここでアモスは、思いついたようにスパスに尋ねる。

「おい、ヘーザーってヤツ知ってないか? あとついでにジョジュアってオッサンもよ」

 アモスの問いに、スパスはもう応える生命力も残っていない。


「ヘーザーだよ! ヘーザー! 知らないのかよ!」

 答えないスパスに、またアモスの怒気が高まってくる。

 アモスは、自然と近くにあったオールを手にしていた。

 アモスはオールを振りかざし、もう一度聞いてみる。

 しかし、スパスはもう何も喋ることができなくなっていた。

「歳はいってるが、あれだけの美人だろ? 少しは組織で、噂になってないのかよ?」

 弱々しい呼吸音だけで、スパスは何も回答できない。

「あとジョジュアってオッサンも知らない? 変な髪型してる男だから知ってるんじゃない?」

 アモスが、ぐったりしているスパスの頭を小突く。

「ふ~ん、残念な反応だわ」

 アモスは興醒めしたように、オールを地面に捨てる。

「やっぱ感じ悪いヤツを、ブチのめすと気分爽快ねぇ! まだ生きてますか~? 死にましたか~? アハハハ!」

 もうスパスは、死んでいるのか生きているのかもわからない状態だった。


「じゃあ、これでラストにしてやるか。優しいあたしの、最後の慈悲よ」

 アモスはナイフを取り出すと、一閃する。

 首筋を斬られ、血が噴きだす。

 スパスの鮮血を少し歩いて、アモスは何事もないようにかわす。

「家族は安心しな、ご丁寧に住所まで書いてあるから尋ねていって、それから同じように皆殺しにしてやるよ。悪党の家族は、悪党と相場が決まってるからな。貴様の汚い金で、ブクブク太ったクソ豚どもだろ、同類だろうしな!」

 スパスは薄れていく意識の中で、アモスの血塗れの足元にある絵葉書の家族写真を最後に見ながら絶命した。


「ハハハ、楽しかったわぁ」

 アモスは悪びれた様子などまるでなく、血に濡れた絵葉書を拾い、私刑が行われたボートから降りる。

 血まみれのクルツニーデのSTAFFジャケットを脱ぐと、用意していたアーニーズ海運のジャケットに着替える。

 血まみれの服は、スパスの死体があるボートに投げ込む

 船尾付近まで歩くと、アモスは操縦盤を見つける。

 スパスが操作してたのと同じようにして開閉扉を開けると、再度海が露わになる。


 アモスは、スパスが脱出に使うはずだった、ボートの牽引タイヤの車留を蹴り飛ばす。

 スパスが全体重をかけて引っ張っていたボートなのに、アモスは片手で軽々とボートを引っ張る。

 そして、勢いがついたボートが、牽引タイヤごと海に放りだされる。

 その際、アモスはスパスの血塗れの死体が玩具のように、ボートの上でクネクネしていたのを見てニヤニヤする。

「さて、じゃあどうしたものかしらねぇ。まず全員に、悪党スパスの陰謀の説明ね。それから、このグノーゼルっていう廃棄物を、すぐに捨てないとね」

 アモスは、もう一度船尾の操縦盤を操作して、再び開閉扉を閉める。


「もし、これがオリヨルの怪獣の餌だとしたら、いつヤツが食いついてきても、おかしくないのよね? 急がないと、手遅れになるわ……」

 アモスが駆けだし、積み荷の側に来た時に、なにやらうめき声のようなものがかすかに聞こえる。

「ん? 何この声は?」

 うめき声は、積み荷の中から聞こえているのだ。

 そのうめき声が共鳴し合い、どんどん大きくなっていく。

 船倉に響くうめき声を聞き、アモスはヤバい感じがしてきた。

 急いで階段を駆け上がると、スパスの部屋を抜けて廊下を走る。


「リアンくん! ヨーベル! アートン! バーク! どこにいる!」

 仲間の名前を叫んでから、アモスは思いだす。

「そうかっ! ズネミンの船室ね!」


 すると、ドーンという轟音がする


 いきなりの轟音と、一瞬で襲ってきた高波に、船が大きくぐらつく。

 かろうじてアモスは転倒を免れ、窓から外の海を見て驚愕する。

 はるか遠方に、巨大な黒い島のような物体が海中から現れているのが見えたのだ。

「う、嘘でしょ……。まさかオリヨルの怪獣?」

 アモスが絶句すると同時に、また高波が襲ってきて船が揺れまくる。


 百メートルは有にありそうなその巨体には、黒い濡れ髪のようなものがまとわりつき、血のような血管が、赤く全身をまだら模様に覆っていた。

 オリヨルの怪獣は、波飛沫を上げて、どんどんズネミン号に近づいてくる。

 そのたびに、ズネミン号の船体が大きく揺らぐ。

 船内からは、悲鳴に似た声があちこちから聞こえてくる。

 やがて、オリヨルの怪獣は巨大すぎる真っ黒な塊となって、波を立たせながら一直線にズネミン号に近接する。

 ヤツの狙いが食うことなのか、その巨体で体当たりをすることなのかは、まだわからない。

 しかし、このまま向かってくれば、どうあってもズネミン号などひとたまりもないだろう。

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