91話 「目で追えぬ死闘」 後編

 小屋の中から、のそりとロバのセザンが顔を出す。

 そこには、大女がアモスをつまみ上げているのが見える。

 ブルルと一声いななくセザン。

 アモスは時折小屋に遊びにくることがあり、構ってくれる人間のひとりとして、セザンは彼女をきちんと認識していたのだ。

 そんなセザンが、ゆっくりとアモスの方向に歩きだす。


 ルミアートは、ポッカリと空いた茂みの穴から見える、海に漂うニカ研の船に注目する。

「あの船には、あなたのお仲間が他にもいるのかしら? ああ、今は無理に答えなくていいわ。全部まとめて……、楽しいこと、いっぱいしながらお話ししましょう?」

 そういって、アモスのつかんだ脚をねっとりと眺めながら、フフフと笑うルミアート。

「ほんと、今回の寄り道はいい収穫だったわ! あなたには、お礼をいいますわ」

 ルミアートが、固まっているバックマーたちにいう。


 アモスとルミアートとの戦いは、ほぼ一瞬で決着がついたのだが、常人にはとてもじゃないが、目で追えるような代物ではなかったのだ。

 ただ、気がついたらルミアートがそのパワーで、小柄な女性を圧倒していたのだ。

「ル、ルミアートさま、どうかその女性にもご慈悲を」

 バックマーが、今にも殺してしまいそうな勢いのルミアートにいう。

「何? この女のこと知ってるの?」

「いえ、そういうわけでは……」と、バックマーが弱々しく答える。

「じゃあ、黙っててくださる? わたし、博愛主義の人間って一番嫌いなの!」

 バックマーを一喝すると、ルミアートはアモスをポトリと地面に落とす。


 すると……。


「ヨーベル! ヨーベルを離せ!」

 突然、リアンがガバリと起き上がる。

 さっきまで意識がなく、死にかけていたリアンが、元気になって周りをキョロキョロ見回す。

 アモスとルミアートの死闘に注目してて、リアンのことをすっかり忘れていたヨーベルが驚く。

「ヨーベル! 今助けるよ!」

 リアンが立ち上がって、また叫ぶ。

 さっきまでの怪我が、完治しているリアン。

「あれ? へ?」

 リアンは周りを見渡す。

 周囲には、リアンの知ってる人もいれば、知らない人もいる。

 みんなが自分に注目してるのを感じると、リアンは急に照れ臭くなって萎縮しだす。

 そんなリアンに、ヨーベルが抱きつく。

「良かったっ! リアンくん無事だったのね!」


「ホホホ、向こうはハッピーエンドみたいね。バックマーもいることだし……。あんたも限界まで、可愛がってあげてもいいかもね? もう一回バックマーのアレ、じっくり観察させてもらいたいからね!」

 ルミアートは邪悪な笑みを浮かべて、地面に突っ伏してるアモスを見下す。

 一方、アモスは動けない振りをして、視界には銃を捉えていた。

 銃の手前には、ツグングが腰に装備していたハンマーが転がっている。

「そういえば、あんたナルンを、どうこうしたとかいってたっけ? その力使って、今まで好き勝手やってきた手合でしょ? さっきまでの態度で、なんとなくわかりますわ。ウフフ、やっぱりお仕置きは、絶対に必要みたいね。ホホホ! 楽しみだわ」

 ルミアートが、倒れてるアモスの、かなり上質なボディラインを眺めてニヤリとする。


「えっ? えっ? 何? あの大きい人。女の人なの?」

 失礼な言葉にイラッとしたが、リアンの容姿を見てルミアートはすぐ許した。

「ああああ……、す、すみません」

 ニヤリとしているルミアートに、慌ててリアンはペコリと謝る。

 そして、地面に倒れてるアモスの姿を見て、さらに驚く。

「あの女の人は!」

 ここで、リアンはすぐにアモスを思いだす。

 以前、食堂で会った女性だった。


 そんな中、小屋から目覚めたばかりのロバのセザンが、ゆっくりとルミアートに近づいてきていた。

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