41話 「廃墟のマリーン」 後編
「あれ? ヨーベルさんどうしたの?」
綺麗な浜辺を、じっと目を凝らして見ているローフェ神官に、リアンが尋ねる。
「う~ん……。アレはなんでしょう?」
ローフェ神官が浜辺を指差して訊く。
リアンとキャラヘンが、ローフェ神官が指差す方向を見る。
向こうの砂浜を、バイクが疾走しているのが見えた。
「あれ? あの人……」
リアンが、バイクに乗っている人に気づく。
「ああ、メビー副所長だね……」
キャラヘンが、たちまち不愉快な顔になる。
「あれは、ノーヘルです~。良くないことです~」
ローフェ神官にも見える距離まで、砂浜のメビーが近くにやってくる。
浜辺の端までバイクで到達すると、すぐにUターンしてまた元の方向にメビーは爆走する。
こちらには、まったく気づいていないようだった。
バイクの轟音はリアンたちの耳から、また遠く離れていく。
「彼は、いつものことだよ」
苦々しげにキャラヘンがいい、タバコを取りだそうとするが、またその手を引っ込める。
「危ないですね~。コケたらグチャグチャで、お掃除大変ですよ~」
ローフェ神官が変なことをいうと、ガタガタガタという不快な音が聞こえてくる。
どうやら、メビーが砂浜から建設中の木製テラスに、バイクで侵入したようだった。
本来なら、バイクで走っていい場所ではないはずだ。
「くそ、あの男……。施設放置してるからって、好き放題走り回ってるんだよな……」
姿は見えないが港の敷地内を、縦横無尽に走っているであろうメビーのバイクに、キャラヘンは憮然とする。
バイクのエンジン音と、テラスをバイクで荒らしまわる騒音が、静かな港に響き渡る。
(なんだ、あの人もけっこう好き勝手やってたのか……)
リアンの中には、メビーは厳格な看守というイメージしかなかった。
実はこういう場所で羽目を外していたんだという、意外な真実を知ったのだ。
「バイクは、彼の唯一の趣味みたいでね」
苦虫を噛み潰すかのようなキャラヘン。
「彼が車嫌いって点も、なかなかウマが合わない理由なのかもね」
そういうとキャラヘンは苦笑いをする。
「ああっ! そうだっ!」
突然リアンが思いだす。
キャラヘンが、驚いたような顔でリアンを見る。
「ここからは……、見えないのかな?」
リアンが、何かを探すような感じで周囲を見回す。
「どうしたんだい?」
キャラヘンが不思議そうに、リアンに尋ねる。
「ほら、向こうに赤い建物、なかったですか? 教会の岬から見えて、実はすごく気になっていたんですよ。今まで存在を忘れてたんですが」
リアンが、以前岬の女神像の上から見えた謎の「赤い倉庫」のことをいう。
「あああ~っ! わたしも気になります~、あれって何ですか~? ここに来た時から、あんまり教えてもらえなくて~」
ヨーベルも同様に食いついてくる。
「あ……、あれかぁ。あれはねぇ……。まあ、ちょっとした物置みたいなものかな?」
キャラヘンは、露骨に歯切れが悪くなる。
「何が置いてあるんですか~?」
たちまちローフェ神官が、また興味津々モードに突入する。
まるで恋人のような感じで、キャラヘンの腕に抱きつき、ローフェ神官は駄々をこねる。
キャラヘンの顔がデレまくり、かなり困っている。
見てはいけないような感じがして、リアンは思わずふたりから目を逸らしてしまう。
その時、リアンの目についた粗末な建物から、バイクのエンジン音が聞こえる。
建物は通路をふさぐように建てられており、なんだか場違いな感じがする。
倉庫のようなその建物は、元は工事用の資材置き場だったようで、建物の外には建設資材が乱雑に放置されている。
おそらく工事が終われば撤去される予定だったんだろうが、今では完全に放置されて別の用途で使われているようだった。
そこから聞こえるバイクのエンジン音が、徐々に静かになる。
きっとメビー副所長が、バイクの倉庫にでも使ってるんだろうなと、リアンは思った。
「う~ん、あの倉庫にあるのは、ちょっとお見せするわけには、いかないものなんだ」
一方、ローフェ神官の色仕掛けのような質問にも、誘惑に負けずにキャラヘンは回答を避けていた。
「僕も、あそこには侵入できないぐらいでね」
キャラヘンは本気で困っている感じだ。
「そんな、ケチケチしないでください~」
リアンが視線を戻すと、ローフェ神官がまだ粘っていた。
傍から見れば、完全にカップルのようなふたりの姿。
目のやり場に困りつつも、リアンはキャラヘンから答えを訊きだして欲しいなと、少し期待してしまう。
「もっともっと、上の位の人でないとね……」
「でも~、そんな人、この島にいないですよ~? 気になります~」
しかし、ローフェ神官のボディタッチでも、キャラヘンの口は固かった。
ここまで固辞するということは、よっぽどの秘密があるのだろう。
さすがにこれ以上はキャラヘンにも悪いと思って、リアンはローフェ神官を静止しようとする。
「ローフェ神官、キャラヘン副所長も立場上話せないことも多いんだと思うよ。あまり困らせないほうが……」
本気で困っているようなキャラヘンに、リアンが助け舟を出す。
「ハハハ……。ほんと、すみませんね……。うちの会社はご存知の通り、いろいろ秘密にしないといけないことが多くてね……」
キャラヘンが、申し訳なさそうにいう。
ローフェ神官は、ちょっと拗ねたように頬をふくらませている。
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