第8話「橋渡し」

 〝ズドオォォン!ズドオォォン!!〟


 遥か遠くから銃声が響くたびに、私たちを囲っていた盗賊達は次々と倒れていった。

 「くっ、なんだというのだ…狩人か?」

 ジギルの猛攻を防ぎつつ盗賊の親玉、ガロンがこちらを睨みつける。ジギルは斬りつけられた傷を土の鱗で覆い、身体を庇いながら尻尾を叩きつけて攻撃していた。


 「ミーナ、ジギル!逃げるじゃで!」

 カラボはそう言って足元に白い玉を叩きつけた。〝ボフンッ〟と白い煙があたりを包み込む。

 「こっちじゃで!」

 前も見えない煙幕の中、私はカラボに手を引かれて走り出した。

 「でも待ってカラボ!ジギルは!?」

 「オイラなら大丈夫だぞ」

 「うわっ!?」

 すぐ後ろにジギルが追いついていた。まだ全身を鱗で包んだまま、四足で走っている。

 「ジギル!大丈夫!?盗賊達は!?」

 「大丈夫、追って来ねえみたいだ。アイツらもみんな怪我してたし、煙でみんな混乱してるんじゃねえかな。オイラは煙で目くらましされても、匂いで大体の場所はわかるけどな。それよりカラボ、助けてくれたの誰だ?」

 「ワシらストッパーのメンバーじゃで。ワシらはこの荒野地帯をいつも巡回しておるんじゃで、銃声なんぞ聞こえたら真っ先に駆けつけるようになっておる。ほれ、向こうの高台の上で手を振っておる、あいつじゃで」

 煙幕の煙も少しずつ晴れて、視界がハッキリする。見上げると少し先の高台で手を降る赤髪の女性がいた。


 「いやあ、助かったでアイリス。危機一髪じゃったで」

 高台まで走り続け、私達は赤髪の女性と合流した。厚めの皮で作られた外套を纏った背の高い女性は、アイリスと言う名前らしい。目つきの鋭い、意志の強そうな女性だった。

 アイリスは腰に下げていた荷物袋から包帯や薬を取り出し、ジギルの傷を手当してくれた。ジギルが「イテテ、イテぇって!」と訴える度に、彼女は「すぐ終わるからじっとしていろ」と、静かに嗜めていた。


 「礼には及ばないけれど、カラボさん、それよりこの子達は何?っていうか、魔物よね?この子」

 私達を助けてくれた女性、アイリスは私たちを訝しむような目で見つめる。

 「この子は人間のミーナ、こっちはリザードマンのジギルじゃで。昨日知り合ってな、ストッパーのギルドに一緒に来てもらおうと思っておった。アイリス、この子達がアドラステアの言う〝希望〟かもしれん」

 「〝希望〟って…、人間と魔物の橋渡しのこと?こんな子供達が?」

 「そうじゃ、何にも染まっておらんこの子達こそ、ワシら人間と魔物の橋渡しに成り得るんじゃとワシは思う」


 「…………」


 アイリスは暫く黙って、私達を見つめていたが、「そうかもな」と呟いて、静かに目を閉じた。


 「改めて自己紹介しよう、ミーナ、ジギル。私の名前はアイリス。カラボさんと同じ〝ストッパー〟の狩人だ。よろしくな」

 そう言ってアイリスは私達に手を差し出した。

 「よろしく、アイリス」

 「よろしく!」

 私達は順々に彼女と握手をした。

 「ふふふ…、本当だ。魔物と握手をするなんて、人生初めての経験だ」

 彼女はまた、静かに笑っていた。表情や挙動のひとつひとつが静かで、落ち着いた女性だった。

 「なあ、さっき言ってた〝橋渡し〟ってなんのことだ?それが〝希望〟のことか?」

 「ああ、まあ、そういうわけだが、それはギルドについてからにしよう。マスターが詳しく話してくれるだろう」

 「マスターって〝サテライト〟か!?」

 「ああ、そうだ。強い男だぞ」


 ジギルは目をキラキラさせて、「そっか、そんなに強ぇのか…!」と、アイリスを見つめていた。

 アイリスはそんなジギルを見て、フフフ…、と少し呆れたような表情で、また静かに笑った。

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