第6話「魔道具〝アクエリアス〟」
「はぁ…、はぁ…、はぁ…」
「ミーナ、大丈夫か?すまん、大分遠回りをしているから疲れたろう。もう少しの辛抱じゃで」
「うん、まだ大丈夫。頑張れるよ」
早朝に洞穴を出てからかれこれ8時間、私達は歩きっぱなしだった。申し訳程度に整備された道を歩けば、カラボのギルドに昼頃には到着するらしいのだが、私達はその道を大きく逸れて遠回りをしている。歩き慣れていない私は勿論だが、カラボやジギルにも少しの疲労の色が見て取れた。
「くそ、あいつら…。やっぱりオイラが全員やっつけてやろうか…」
「ダメじゃで、早まっちゃいけん。あいつら陣営を組んどる。そんな生半可な人数ではなさそうじゃで」
出発して2時間程経過したくらいからだろうか、私達は何者かに後を付けられていた。ジギルが「錆の匂いがする」と言ったので、カラボが周りを見回して見ると、背後の茂みから数人、こちらをじっと見つめているのが見えた。それからずっと尾行を撒くために何度も道を迂回し、複雑な地形を進んできたのだが、相手はこの辺りの地形に慣れているのか、歩けど歩けど背後を一定の距離を保ちながら追ってきている。時折、小石や木の枝をこちらに投げつけては様子を伺っているらしく、何度もジギルがギロリと後ろを振り返っては、カラボに「ダメじゃで、相手にしちゃいかん!」と、強く制止されていた。
「あいつら、この辺りを縄張りにしちょる盗賊団じゃで…恐らく数十人でワシらを狙っちょる。ギルドの近くまで来ればあいつらも諦める筈じゃが…どうしたもんか」
「ねえ、カラボ。ギルドまではあとどれくらい?」
「大分迂回したから、そうじゃで…。このまま真っ直ぐ進んでも30分はかかるじゃろう…っと、危ない。また小石が飛んできおった」
カラボは遠くから大きな放物線を描いて飛んできた小石をサッと避けた。こんなことがもう6時間くらい続いている。
「おい、カラボ、まずい。前からも錆の匂いがする。オイラ達囲まれてるぞ」
「なんじゃと、向こうが先に痺れを切らしおったか」
「どうすんだ!やるのか!」
「いや、この人数差はまずい、こっちじゃで!」
私達は真横の道を進もうとしたが、正面から小石が真っ直ぐに飛んできて、歩みを牽制された。
そして間もなく右側から、今度はまた大きく放物線を描いて小石が投げられてきた。私はサッと身を引いてかわそうとする。しかしその小石は何やら黒く光っていて、シュウゥゥ…と、不思議な音を立てていた。
……違う!爆弾だ!!
「ミーナ!危ねえ!!」
放物線を描いて投げ込まれた爆弾を、ジギルは大きな尻尾で振り払った。〝バァンッ!!〟という強烈な破裂音と共に、爆発の衝撃が私たちを襲う。
「いってぇ…。ミーナ、カラボ。大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫」
「すまんジギル、怪我はないか?」
「ああ、オイラの鱗はこんなもんヘッチャラだ。大したことねえ」
「大したことないとは随分な物言いだな、魔物の分際で…」
爆弾が投げ込まれた方向から、大きなサーベルを背負った髪の長い男が、茂みを押しのけて現れた。
それを合図にしたかのように、私たちの前後左右から、顔に布を巻いた男達がゾロゾロと姿を表す。ジギルやカラボが言っていたとおり、20人ほどに囲まれていたようだ。
「親玉の登場のようじゃな…おめえさん、何者じゃで」
「俺の名前はガロン。この辺りで狩りをする盗賊団のリーダーだ。運が悪かったなお前ら。同情するよ」
「てめぇ…!オイラがやっつけてやるぞ」
「吠えてろ、中級程度のリザードマン風情が。地属性の鱗は高く売れる。いい獲物が迷い込んでくれて嬉しいよ…。やれ!お前たち!!」
盗賊団の親玉、ガロンがそう叫ぶと、周りにいた男たちが一斉に襲いかかってきた。
「ミーナ!伏せてろ!!ワシらで何とかする!!」
カラボはそう言って、ライフルをズドオォン!ズドオォン!!と打ち放った。弾丸は襲い来る男たちの足元に着弾し、彼らを牽制している。
一方ジギルは、全身をギラギラと光る鱗に包んで、男たちに突進していった。彼らのサーベルはジギルの鱗に傷一つ付けることもできず、男たちは成す術なく薙ぎ倒されていた。
それを見ていたガロンは「ふうん…。やはりただのサーベルではダメか。それならば…」と、ニヤリと醜悪な笑みを浮かべながら、自らの背に背負ったサーベルに手をかけて、ジギルに走り迫った。
〝ガギギギッ!!〟
「グアアアアアアアア!!」
ガロンの抜いたサーベルは青い光を放ち、ジギルの胴体を袈裟懸けに切りつけた。ただのサーベルならびくともしなかったジギルの鱗が引き裂かれ、切り口から真っ赤な血が噴き出した。
「ジギル!!」
「ハッハッハッハッハ!!馬鹿なリザードマンめ!!こいつはただのサーベルじゃない。南の国の行商人から奪った水属性の魔道具さ!!名を〝アクエリアス〟!!その威力、身を持って知るがいい…!!ハッハッハッハッハッハ!!」
ジギルは膝から崩れ落ち、その場に倒れ込んだ。
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