第4話「プラネタル」
今すぐにでも出発しようという勢いで立ち上がったカラボを、私達は「今日はもう疲れたから休みたい」と制止した。
「おお、そうかそうか。じゃあ今日はもう休むじゃで」
カラボはそう言って、またドカッと腰を下ろし、側に置いてある大きなリュックをゴソゴソとあさった。
「あったあった。ミーナ、この毛布を使ってええぞ。なに、ワシがいつも野営で使ってるのはこっちのタオルケットだけじゃで、汚くないぞ。下に敷くだけで大分寝心地は良いはずじゃで」
私はお礼を言ってカラボから小さな毛布を受け取った。少し煤けていたけれど、肌触りのいい毛布だった。私は言われたとおりその毛布を岩肌に敷いて、横になった。
「ジギル。毛布は一枚しかないんじゃが…」
「いや、いい。オイラはいつも岩肌で寝てる」
「そうか、じゃあこのタオルケットは、ワシが遠慮なく使わせてもらうぞ。…ああ、そうじゃでおめえら、寝ながらでいいが」
カラボは思い出したようにまたリュックをあさり、今度は中から青色のガラスで出来たドーム状のカバーのような物を、大切そうに取り出した。所々に小さな穴が空いた、少しガタガタしたそのガラスのカバーを、彼は正面でゆらゆらと小さく揺れる炎に被せた。
「いいもんを見せてやろう。とっておきじゃで」
彼は少し微笑みながら、私たちにそう言った。
「わぁ…」
「すげぇ…綺麗だなこれ」
洞窟の壁一面が青色に変わり、炎の揺らめきに合わせて気まぐれに色を変えていた。所々に空いた小さな穴から漏れる明かりは、まるで夜空の星のように、壁に儚い煌きを描いている。
「いい夢が見れると思わんか。これはな、ただのガラス細工じゃないんじゃで。ほれ、よく見てみろ。星の色が金や紫に変わるじゃろ?」
「本当だ。ねえ、これってどういうこと?」
「このガラス細工は〝プラネタル〟と言ってな。光の魔法がかけられておる。魔道具っちゅうやつじゃな。この世に魔法の使える人間は多くないが、大半は魔道士として戦いや研究をする。稀に魔法使いでありながら職人や料理人、芸術家になるもんがいるが、ワシはそいつらの作ったものが好きでな。ちなみにさっきのサンドイッチのレシピを教えてくれた料理人も、魔法使いなんじゃで。そしてこのプラネタルは、魔法使いだったワシの息子が作った最高傑作なんじゃで」
カラボは自慢げに私達に説明してくれた。
「それでさっきの話なんじゃが、明日の朝、ここを出てワシのギルドに来てくれんか。急いじゃおらんが、できれば夜になる前にギルドに着きたい。みんなも心配するでな。どうじゃ?」
「うん、別にいいんだけど…でも、どうして急に?」
「そうだ、オイラもどうしてか気になるぞ」
「いや、なんというかじゃな。おめえらはもしかしたら、ワシらの〝希望〟かもしれんと、そう思ってな。とにかく、ギルドマスターに会ってくれんか」
「希望って?」
「ギルドマスター?誰だそれ」
私とジギルの問いに、彼は笑って答えた。
「はっはっは。ギルドマスターっちゅうのは、ワシらのボスみたいなもんじゃ。強い男じゃで。希望っちゅうのは、なんというか…。まあ、とにかく明日来てくれればわかる。なに、悪いようにはせん。きっとみんな歓迎してくれるじゃろうて」
「そっか…それなら、まあ…いいかな」
私は少し眠たくなってきたので、それ以上の問答はやめることにした。ジギルも大きな欠伸をしている。
「二人とも、今日はもう寝るのがええで。ゆっくり休め。この明かりもじき消える。明日のことはまた明日、じゃで」
「うん…そうする…」
「ミーナ、寝るのか?じゃあオイラも寝るぞ」
「うん、ジギル、カラボ。おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
「ああ、おやすみ、じゃで」
二人とも心なしか、なんだか温かい声をしていた。
私は夜空の星に包まれながら瞼を閉じた。
覚えていないけれど、その夜は少しだけ、いい夢を見れたような気がした。
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