第8号線「ルートを変更しますか?」
ウサギ耳のロボット、ララのいた喫茶店を後にした数日後。
〝ガタン!ガタッガタン!!ガタン!ガタンガタガタガタンッ!!〟
ボロボロのアスファルトを車で辿る旅を続けて、思い返せばもう3年が経とうとしている。
「どこを通ってもクソみてぇな道だな…」
人類が約100年前に地上での生活を放棄して、空中に生活領域を移してからというもの、地上は自然の波に飲まれ、人類が築き上げた建造物や設備なんかは、眠るように崩れていった。
「この辺りはビルに大きな樹木が絡みついているせいで、地盤が建物に引っ張られているみたいですから尚更ですね。樹木のせいで大分薄暗いですから、走行には注意してください。…っていうかあの、だから私いつもエアランナー買いましょうって言ってますよね?ショウさんはなぜwalkerなんてやってるんですか。もうこの質問は85回目ですけれども、あなたの目的地はどこですか?」
そしていつからか、地上に取り残された低所得者やはぐれ物たちは“walker”と呼ばれて疎まれるようになり、地上には無法地帯が広がっていた。
反対に、空中に住む人間たちは、“
「無いよ、目的地はない」
俺は、右耳に装着したイヤフォンから聞き飽きた問いかけをしてくるルリハに、そう答えた。
1月程前まではずっと一人で旅を続けていたのだけれども、なんというか気まぐれで、自律型ナビゲートAI『ルリハ』のライセンスを裏のルートから購入した。
しかしこいつはとにかく口煩くお喋りで、安直に購入した事を少し後悔している。
「またそれですか、もう!その返答は67回目です、ちなみに残りの18回は…っ!ショウさん、気をつけてください。この先にwalkerがいます。集団です」
「何?」
ルリハはAI独自のネットワークなのか何かしらの便利機能なのか知らないが、遥か遠くの情報を正確にキャッチする事ができる。確かに耳を澄ますと、遠くで微かにエンジン音が聞こえた。集団のwalkerなんて、まず無法者の集まりでしかないだろう。面倒事は避けて通るに越したことはない。
「ショウさん!こちらに向かって来ます!ルートを変更しますか!?」
「なんだ、追い剥ぎか?向こうの時速は?」
ルリハは俺以外のwalkerに遭遇するのは初めてなので、少し焦っている様子だが、俺は一人で旅をしている間に何度もwalkerに追いかけられた経験がある。奴らは厄介だが諦めも早い。今のマシーンなら、難なく撒けるだろう。
しかし。
「これは…、子供です!大人に追いかけられています!」
「…なんだと?」
子供が一人で地上に居るなんてことは通常なら有り得ない。下手すれば命に関わる。
「どうしますか?ルートを変更しますか?」
「…少し様子を見に行こうか」
俺は、エンジン音の響く方向へ車を走らせた。
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