episode 2[クジラ頭の共犯]
〝ギルド〟というのはこの電脳空間内での〝詰所〟のようなもので、プレイヤー達は個人や団体でギルドを作製し、そこを拠点に各ゲームフィールドやコロシアムにアクセスすることになっている。
私はドレス姿の女性と黒い包帯の男性にギルドへと連れて行かれた。
連れて行かれたと言っても、拘束されて運ばれるだとかそういう訳ではなく、単純に、つい先程までいた青い部屋をログアウトし、ポンッと彼らのギルドに帰還しただけだ。ログアウトのローディングが終わると、何もない青い部屋とは打って変わり、赤い屋根が映える、大きな西洋風の建物の前に立っていた。後ろを振り返ると、熱い日差しに照らされた小さなビーチがある。綺麗で清々しい場所だ。
確かギルドの建物や風景は有料だった筈だけれど、これだけ豪華なセットを揃えられるなんて、この人たちはもしかして相当なお金持ちなんだろうか。
彼らの後に続いて大きな建物の中に入ると、そこは外観とは大きく異なり、無骨なコンクリートがむき出しの研究室のようになっていた。階段や部屋は無く、建物まるまる一つの広さによくわからない機械や鉄製の机が、乱雑に設置されている。
その中に、一人、白衣を纏った誰かがいた。
「おかえり、あれ?その子は誰?」
そう言ってこちらを振り返る顔は深い藍色で、人間の形をしていない。体は人間、顔はにっこり笑ったクジラという、不思議なアバターだった。後頭部で寝癖のように小さな尾ひれが反り返っている。
「おいクジラ頭。あんたの設定したトラップに部外者が引っかかったぞ。どうすんだこれ」
「え、今このご時世にゲームしない子なんているの!?」
「いるからこうして引っかかっているだろ。で、どう処理する?口止めするにもあんたの許可がいる」
黒い包帯の男性が私を一瞥しながら物騒なことを言う。ドレス姿の女性は困った顔をしているだけで、私は逃げ出そうかと少し迷ったが、しかしクジラ頭がケラケラと笑ってとんでもないことを言い出した。
「せっかく来たんだから、僕らの仲間になればいいじゃない!」
「はぁ!?」
今の「はぁ!?」は私だ。びっくりしてつい口をついてしまった。ドレス姿の女性とクジラ頭は笑っているけれども、黒い包帯の男性はクジラ頭に怒鳴りつけた。
「ふざけんな!ジャッキーの件で学習してねえのかお前は!!」
私は怒鳴り声に萎縮してしまったが、クジラ頭は飄々としている。
「まあまあ、
ニーナと名乗ったクジラ頭は、私にそう言って相変わらずにっこりしている。表情は目つき以外変わらないので、少しだけ不気味だった。
「共犯って…。やっぱり貴方達は何か悪いことをしているんですか?」
嫌な予感はしていた。強制ログインといいこのギルドの設備といい、一般のプレイヤーとは思えない。過激プレイヤーという奴だろうか。〝クラクラ〟とか〝outlaw〟とかの手下じゃなければいいんだけれど。
しかし、ニーナさんの返答は、私のそんな粗末な想像を遥かに凌駕していた。
「そうだね、僕達は〝outlaw〟っていう、悪いことをしている集団だよ」
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