episode1[囚われの女騎士]

 嫌になる。


 どこに行ってもゲーム、ゲーム、ゲーム。

 誰といてもゲームゲームゲーム。


 本当に嫌になる。


 街の至るところに設置されたゲートは電脳空間への入口で、システムはよくわからないけれど、あそこを通るとゲームの中に入ることができる。


 ゲームの空間はズルい。

 勉強も練習もなく、簡単にいろんな事が出来てしまう。


 私、あずま 葉月はづきはゲームが嫌いだ。


 友達付きあい程度にしかプレイしたことがない。

 私の周りは、というか今この世界中が、みんなゲームばかりしている。

 ゲーム基本法に違反して捕まったクラスメイトもいる。

 怪しい集団に入っているらしい人もいる。

 そんな浅はかさが、私は嫌いだった。


 だから今こうして電脳空間に強制的にログインさせられてしまったのは本当に頭にくるし、私は帰って明日の小テストの予習をしなければならない。帰ったところでもしかしたら気が向かなくてやらないかもしれないけれど、それでも家に帰ることは大前提だ。だと言うのにこれは一体どういうことだ。別にゲートをくぐったわけでもないのに、何故私は急にこんな、一面真っ青な部屋にいるのか。

 

 他プレイヤーを電脳空間に強制ログインさせることはゲーム基本法違反だ。これは本当に危ない。なにかの作業中に人間が電脳空間へログインしてしまえば、その人間の消えた現実世界では何が起きるか。

 運転中なら車が手放しになるし、調理中なら料理が丸焦げだ。

 なので強制ログインには複雑なガードプログラムが施され、法律上も結構な刑罰がある筈だ。そんな危なっかしい強制ログインに、あろう事か私が巻き込まれてしまった。


 現実世界で私は急に姿を消したことになるだろう。それはそれでゲーム基本法違反だ。ゲート以外からの電脳空間への出入りは禁止されている。というか一般人にそんな意味のわからないプログラムで構築された芸当は、まずできないけれど。


 周りを見渡す。一面青。何もない。窓も、ドアも、椅子も、ベッドもない。拘束されていないだけまだいいが、だんだん私自身もブルーな気持ちになってくる。これはリアルじゃない。電脳空間での思考だ。その区別はつく。なぜなら私の右手には、大きなサーベルが握られているからだ。

 私のアバターの装備だ。刀身にバラの彫刻が入ったおしゃれなサーベル。なかなかのレア物らしいけれども、価値自体はよくわかっていない。なんか、たまたま手に入った。私のアバターは女騎士の姿をしており、ビジュアル的に似合うから、好んで装備している。なかなか攻撃力も高いようだし、バトルOKの電脳空間なのであれば、まあ、なんとか抵抗はできるだろう。


 しばらくそうして周囲を眺めていると、私から見て正面の壁が左右にスっと開き、そこからドレスを来た金髪の女性が現れた。


 「ほらやっぱり、ただの一般人じゃない。シークレットIDがジャッキーちゃんじゃないわ。ごめんねー、可愛いお嬢ちゃん。怖かった?」


 金髪の女性はニコニコとしながら私に歩み寄ってくる。私は少し身構えたが、彼女はお構いなしに私の頬をそっと撫でた。

 「あ、怖かったって聞きながらこんなことされたら余計怖いわよね、ごめんごめん」

 そう言って遠慮がちに後ずさっていく金髪の女性。害意はないらしい。

 そんな彼女の後ろから声がした。

 「急に強制ログインさせてしまってすまなかった。〝20日以上電脳空間にログインしていない、16歳以上20歳以下の女性プレイヤー〟っていう条件指定での強制ログイントラップだったんだけれども、まさか今の時代にそんな子が他にいようとは思ってなくて。」

 そう言って私の前に現れたのは、全身に真っ黒の包帯を巻いた人間だった。地肌は一切見えない。しかしその口調や声の質から、男性であることだけはわかった。


 「今すぐ返してあげたいところだけれども、こっちの都合でね。そういうわけにもいかない。ちょっと俺たちのギルドに来てもらうよ」

 「えっちょっと、返してくれないの?」

 「返さない。うん、事の次第によっちゃ、ずっと返さない。だからいい?言うことをきくんだ」

 「………」


 私が言葉を失っていると、その横で「もう、乱暴なんだから」と、金髪の女性がため息をついた。

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