第6話「情報屋リリー」

 小さな紳士は私の手を引きながら、街の大通りを横切って3番街の方へと進んでいった。大通りのアイスクリーム屋の前を通る際、彼が歩くスピードを少し緩めたので、私は3段アイスの法外な値段に少しハラハラしつつも、大人の嗜みとして子供の期待に応える覚悟を決めたが、どうやらアイスクリーム屋の角を曲がるつもりだったらしく、アイスクリームの誘惑には目もくれずに街中を進んでいった。

 大通りを抜けて3番街に入ると、彼は我に続かんと言わんばかりに歩くスピードを速め、やがて一軒の住宅へと辿り着いた。

 「ちょっとまってて、リリーねえちゃんよんでくるから!」

 小さな紳士はそう言って、青い屋根の住宅へ駆け寄り、インターフォンを鳴らした。すると5秒ほどで応答があったのか、彼は2、3言何かを伝えて、私の元へ戻ってきた。


 「リリーねえちゃん、いまでてくるって」

 「ねえ坊や、〝リリーねえちゃん〟は、どんな〝じょうほうや〟なんだい?」

 「え?ねえちゃんはねぇ、まちのことなんでもしってるんだよ」

 「そうか。それは、街で起こる事件や不思議な出来事についても、詳しいのかな?」

 「うん、なんでもしってるんだよ」

 「そうか…。ちなみに、歳は幾つなんだい?」

 「うん、としもしってるんだよ」

 「…………」

 私は、何と言えばこの小さな紳士に質問の意図を理解してもらえるか思案していると、程無くして住宅のドアが開き、眼深に帽子を被った少女が登場した。


 「やあやあ、貴方が噂の名探偵ですね?待っていましたよ!」


 少女はずんずんと私の元に詰め寄ると、下から覗き込むように私の顔を見つめてそういった。少女は15歳くらいだろうか。無垢な顔をしながらも尊大な態度で私に挨拶を求めている。

 「グレゴリー・カーターです」

 情報の脳内処理が追い付かず、私はとりあえず無難な挨拶を口に出していた。


 この子は何者なのだろうか…というか、なんなんだろうか。

 とりあえず、こんな少女が、今回の事案に関する情報を持っているとは思えない。いい大人が小さな紳士に案内をさせ、しかも少女を家から呼び出してしまった事は申し訳ないが、ここで彼女のごっこ遊びに付き合うよりは、御駄賃にアイス代くらい渡して調査に戻る方が実に有意義だ。


 「す、すまないね、急に押しかけてしまって。でも私はすぐ帰るから…」


 「うんうん、アメリカ生まれのグレゴリー・カーターさん。警察官の採用試験は残念でしたねぇ。お父さんの腰の調子も最近よくないみたいで。ああそうだ、今はマックスさんの所有物件を借りているそうですけど、あそこの住み心地はいかがですか?」

 「なっっ、ゲホッ!ゴホッ!!」

 私は言いかけた言葉を、上手く呑み込めず、盛大に咽た。


 この子は、なぜ、そんなことを知っている!?


 「改めましてグレッグさん、私は〝情報屋〟のリリー・パストン。グラハム夫人の家に関する有益情報、欲しいん、で・す・よ・ね?」


 少女は、まるで私の全てを見透かしているような物言いで、口元をニヤリと歪めて、そう言った。

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