火炎竜の住処②

「プレイヤーアビリティ:火炎武器製造」

「プレイヤーアビリティ:速攻武器製造」

「プレイヤーアビリティ:武器製造Lv5」


 この三つを上手く使いこなせば、何か出来るはず。


「今度はなに!?」

 火炎竜が自身の周りに溶岩をかき集め、溶岩が火炎竜を包み込んだ。

 火炎竜の背中から新たな羽根が生み出され、四つの羽根に変貌した。

 口からドロドロと溶岩を流し、竜は空へ飛び始めた。


「なにか来る……!」

 火炎竜は口を大きく開け、溶岩を物凄い速さでブレスのように吹き出した。

 近くにいたプレイヤーは溶岩にぶつかりほぼ全滅した。


 火炎竜の行動を伺っていたテイオウは火炎竜の背後へと回り、大剣を片手で二本持ちながら尻尾を切り裂いた。

 切り裂かれた尻尾がメリルの頭上へと落ちていった。

 尻尾が落下してきていることに気付いたメリルは、転びながらも慌てて横へ逃げた。


「死ぬかと思った」

 とはいえゲームであるから死ぬ事は無い。たとえHPが0になっとしても強制帰還されるだけである。

 そして目の前にあるのは切られた火炎竜の尻尾。

 この尻尾から素材を収集すれば、強力な武器を作ることが出来る……、かもしれない。


「火炎竜さんごめんなさい。大切な尻尾の素材をいただきます」

 金槌で火炎竜の尻尾を叩くと、沢山の素材が手に入った。


「メリー無事でしたか?」

「ユイさんこそ大丈夫ですか?」

「何とか生き耐えました。見事に剣はボロボロですが」

 剣の歯がガタガタに削り落ち、もはや剣ではないといっても過言ではない程ボロボロの状態の剣を持っていた。


「ユイさん、その剣を貸して貰えますか?」

 地面に叩き付けただけで折れそうなボロボロの剣を受け取った。

 そしてその上に火炎竜の尻尾素材を乗せ、金槌で思いっきり叩いた。

 すると赤色の勲章が現れ、炎が剣を包み込んだ。


『レア武器を取得しました』

 何故か作れてしまったレア武器『火炎竜剣ブレイムソード』。この剣はどんな触れた物体も燃やしてしまう力を秘めている。


「ユイさん! この剣を使って火炎竜を倒してください! 何かあったらまた言います!」

「分かりました。今までのストレスをここで発散してやる!」

「現世では忙しそうですね」


 火炎竜剣ブレイムソードを片手に持ったユイが飛び込んで行き、思いっきり剣を振った。

 しかし火炎竜の硬い鱗に阻まれてしまった。

 火炎竜は溶岩をユイに吹き出したが、全ての溶岩を剣が吸収した。


「初心者は引っ込んでろ!」

 テイオウに罵声を吐かれたとしても、ユイは一向に下がらなかった。

 こんな罵声、日々会社の上司のパワハラ発言でユイは慣れきっていた。


【バーニング・スラッシュ!】

 獄炎の刃が火炎竜の胴体に突き刺さった。しかし胴体は最も硬く、完全には突き通らなかった。

 火炎竜に致命的なダメージを与えることが出来たが、剣が抜けず慌てて引き抜きた時、何かに引っかかり剣先が折れてしまった。

 火炎竜剣ブレイムソードが折れ慌てているユイは、思わずメリルにチャットする。


 ユイ:メリー、剣が折れてしまいました

 メリル:その剣を私の方へ投げて貰えますか?

 ユイ:今投げます!


「よしっ」

 飛んできた剣を両手でキャッチし、すぐさま金槌で剣を叩きまくる。

 すると剣は新品のように元通りになった。


『プレイヤーアビリティ:武器修繕を取得しました』

(その場で少し壊れた武器、防具を直すことが出来る)


「ユイさん受け取って!」

 近くに行っていたため大声でユイに話し掛け、直した剣を投げる。

 それに気付いたユイは、驚いた表情で剣をキャッチした。


 メリルとユイ以外に残っているプレイヤーは五人、それも全員ランキング上位者である。

 ランキング上位者の戦いを見ていると慣れているようにも見える。


「しゃあ!!!!!!」

 火炎竜の尻尾を切り落とした男が叫んでいた。

 しかし叫び終わった瞬間……、火炎竜の翼が男を突き抜いた。

 

 この大型イベントには、特殊な要素が隠されていた。

 その一、このイベントに参加する者の中で、ランキングが10位以上いた場合火炎竜の翼が増える。

 その二、このイベントの火炎竜は、倒す時間がかかる程どんどん強化されていく。


 イベント開始から既に40分が経っていた。


「嘘でしょ……」

 切ったはずの尻尾と翼が生え変わり、火炎竜は完全に元の姿に戻った。

 更に火炎竜は地面を叩き割り、奥底へと潜っていった。

 そして物凄い地響きと共に、火炎竜は第三進化『黒炎竜』へ変貌し、地上へと戻っていった。


「ちょっと大型イベント過ぎません?」

「運営は頭でも打ったのでしょうか?」

「あれを倒せって無理があるんじゃ……?」


 すると横からテイオウが寄ってきた。


「これを貸してやる」

 テイオウは綺麗な氷剣アイスソードをメリルに貸した。何の真似か分からなかったが、とりあえず受け取った。


「ユイさん!この剣を使ってください!」


「綺麗な氷剣アイスソードですね。使わせていただきます!」

 ユイは火炎竜剣ブレイムソードから氷剣アイスソードに持ち替え、黒炎竜に向かって氷の剣を思いっきり突き刺した。

 黒炎竜は苦しそうに雄叫びを上げ、上空へと逃げ出した。


「ユイさん!一か八かやりたい事があります」

「詳しい話は要らないのでやり方を!」

「私が火炎竜剣を投げるので、その上にユイさんが乗って黒炎竜の頭上を刺すんです! 運が良ければそれで倒せるかと!」

「無理がありすぎますが、やるしかないですね」


 作戦を言葉にするのは簡単だ。しかしそれを実際に行動出来るかで勝敗は決まる。そして、メリルが提案したこの作戦もかなりの無茶ぶりである。


「行っけええええええええええええ!!!!!」

 メリルは残っている全部の力を使い、火炎竜剣を《ブレイムソード》ユイの方へとぶん投げた。

 綺麗に真っ直ぐ飛んで行き、ユイはタイミングよくジャンプし乗ることに成功した。


「食らいなさい!」

 氷の剣を両手で縦に持ち、そのまま黒炎竜の頭上に突き刺した。

 反撃をしようと黒炎竜は試みたが、メリルがぶん投げた火炎竜剣が黒炎竜の額に突き刺さっていた。


「これで終わりよ」

 頭上に刺さっている氷の剣を引き抜き、再び同じ場所を思いっきり突き刺した。

 黒炎竜はその場へと倒れ込み、消え去っていった。


『火炎竜の住処 CLEAR』

 目の前にクリア画面が出てきた。

 クリアしたことを確認しメリルは黒炎竜の死体の元へと向かった。


「これで……、どうだ?」

 金槌で黒炎竜の死体を叩くと、沢山の素材が手に入った。

 そしてレアアイテム『黒炎竜の瞳』も手に入れる事が出来た。


 初の大型イベントである火炎竜の住処は、まだLv1であった剣士ユイが倒したのであった。

 氷剣アイスソードが黒炎竜に効いていた理由は属性効果によるダメージの増加、とテイオウが教えてくれた。


「やったー!」

 黒炎竜を倒した事で17万ゴールドと26万の経験値を手に入れたユイは、一気にLv1からLv24へと上がった。


 広場へと戻り、かなり疲れたメリルはユイに落ちることを言いログアウトした。

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