火炎竜の住処①
今日もワルオンログイン。
『今日のお知らせ♪』
・大型イベント『火炎竜の住処』
・防御力バグについてのお詫び
・新システム『チーム』の開発
「むぎゅ……、ジュジュジュ……」
メリルはいつのもカフェ、そして一番奥の端っこの特等席でアイスコーヒーを無言で飲んでいた。
しかし、メリルは何故か不機嫌そうであった。
「あれからユイさんログインしてないなぁ……」
メリルは、一番最初に仲良くなったプレイヤーであるユイの事を気にしていた。
ワルオンをプレイする人は、メリルのような学生のみでは無い。
もしユイが社会人であったら、仕事の疲れでゲームなんかやれる気力が無いかもしれない。
実際に、ワルオンのサービス開始日と次の日は「ワルオンをやりたいので休みます」というふざけているが、魔法の言葉が通じていた。
しかし、魔法の言葉を使ったとしても、会社は二日、三日は待ってはくれない。
「せっかくの大型イベント……、ユイさんと一緒に参加したかったな」
メリルは飲み終わったアイスコーヒーをテーブルに置き、そのままふと目を閉じた。
「だーれだ?」
突然何者かに目元を隠され、目の前が真っ暗になった。
しかしその人の手を嗅ぐといい匂いがした。メリルは匂いで誰かすぐ判明することが出来た。
――この匂いはユイさん!?
「私の手を嗅ぐのやめてよ……、恥ずかしいじゃん」
メリルの目の前にいたのはユイでは無く、また別の人かと思ったが匂いと声でユイと判明した。
「ユイさん……!」
ユイとの久しぶりの出会いに、眼から涙がポロポロと流れていた。
メリルは必死に涙を拭き始めた。
「いい子いい子。私の手ってそんないい匂い?」
「甘くていい匂いです。ユイさん採掘師辞めたのですか?」
「今日の朝にやろうとしたけど、水飲もうとしたらワルオンの機械にぶっかけちゃって」
「壊れてなかったんですか!?」
ゲームをやった事がないメリルでも、機械が水に弱いことくらいは知っていた。
そのため驚きの顔が隠せていなかった。
「ドライヤーで乾かしたら直ったけど、データが全部消えちゃって」
「でもなんで私の居場所が分かったのですか?」
「たまたまカフェを通り掛かる時に、メリーらしき人物を見つけて窓から直視してたの。そしてメリーと確信して店の中に入ってきた」
「す、すごい」
ユイは採掘師から剣士に切り替わっていた。
しかし、このサーバーで剣士になることは無理であるはず。
「サーバーデータ共有システムのおかげで、人が少ないサーバーで剣士になって、こっちのサーバーに来たの。成功してよかった」
「私より詳しいですね!」
「そろそろ10時ですね。大型イベント頑張りましょ」
店を後にし広場に戻ると、たくさんのプレイヤーが10時になるのを待ち望んでいた。
「あと五分ですね」
「メリルさんは何の武器で戦うのですか?」
「自分で作った剣です!」
「それで戦え……、ます?」
「分かりません。行ってみてからのお楽しみです」
* * *
時刻は午後10時になり、時計塔にあるイベント開始の合図であるベルが鳴り響いた。
『大型イベントに参加される方は、こちらからイベント場所にお移りください。HPが0になった場合、この場所へ強制送還され再度挑むことは出来ませんのでご了承ください』
『それではプレイヤーの皆様、行ってらっしゃい』
イベントに参加するプレイヤー達は、イベント場所へとテレポートした。
今回の大型イベントの場所は火山地帯。
火山地帯はかなり温度が高く、重装備をしているプレイヤーにとってはかなり動きにくい場所である。
そしてこの火山地帯の危険なギミックは、度々に溶岩が飛んでくるところだ。
「ヴォォォォ―――」
火炎竜が雄叫びを上げ、同時に物凄い轟音が辺りを包み込んだ。
余りの轟音にメリルは咄嗟に両耳を手で押さえたが、鼓膜が破れるか破れないかギリギリのところまで達していた。
「ユイさん気を付けてください!」
「本当にリアルな竜ですね」
「火炎竜ラヴァっていうらしい!」
「リアル過ぎて怖いくらいです」
「皆さん頑張っていますね」
火炎竜の攻撃を避けながら他のプレイヤー達は必死に戦っていた。
火炎竜を倒した際に手に入る経験値とゴールドは倒した本人にしか入らない。
そのため、火炎竜が弱ったところを狙うプレイヤーも多くはない。
それもちゃんとした作戦の一つである。
「私達も戦いましょう!」
メリルが火炎竜の元へと駆けていった。
それに続いてユイも付いて行った。
そしてこの大型イベントには、あのテイオウも参加していた。
強いと評判のテイオウも火炎竜の討伐になかなか手こずっていた。
参加プレイヤーは50人以上だったが、未だに誰一人として火炎竜の胴体を切れていなかった。
「とりゃあ――!」
メリルが作りたての剣を振ったが綺麗に弾かれてしまった。
剣を当てればダメージが入るかと思ったら、ゼロダメージ。
そして逆方向から尻尾に剣を取られてしまい、メリルは戦う武器を失い丸裸にされてしまった。
「ユイさん!武器取られちゃった!」
「今そっちに……、きゃっ!」
ユイは尻尾攻撃に耐えきれず、剣で攻撃を耐えながらもどこかへと飛んでいった。
「あ……、これ」
メリルはもう一つ武器になるか分からないがある物を持っていた。
それは武器を作るために使う金槌。
もう火炎竜なんてどうでもいいや。と思ってしまったメリルは、無我夢中で火炎竜を叩きまくった。
『プレイヤーアビリティ:火炎武器製造Lv1を取得しました』
その時、誰かが使っていた剣がたまたまメリルの方へ飛んできた。
「誰!? こんな時に剣なんか飛ばしてきやがって……」
剣を飛ばしてきたことに苛立ち、思わずその剣を金槌で叩きまくった。
しかし、火炎竜を倒しに来ていることを忘れていた。
『プレイヤーアビリティ:速攻武器製造を取得しました』
『プレイヤーアビリティ:武器安定がLv3にレベルアップしました』
『プレイヤーアビリティ:武器製造がLv5にレベルアップしました。その場でどんな武器でも作れるようになりました』
(なんか、凄いスキルを手に入れた気がするんだけど!?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます