金銀スライム狩り
学校から配られた課題を早く終わらせた甲斐もあり、何とか約束時間の午後七時に間に合わせることができた。
よし、ワルオンにログイン。
『今日のお知らせだよ♪』
ワルオンのサーバーに入る前に、現在開催中のイベント等を教えてくれるのがお知らせである。
しかし、たまに隠しイベントなどを告知せずにここのお知らせに出すこともあるらしい。
ちなみに今日のイベントは夜に一つだけ。
『初心者応援イベント:見つけろ金色のスライム』
午後10時からある一定の場所に金色のスライムが湧く。
金色のスライムは出現する確率がかなり低いらしいが、倒すと超大量の30万ゴールドが手に入る。
簡単に30万ゴールドがどれだけ凄いのか説明すると、レベル1の初心者が金のスライムを倒したとする。そして30万ゴールドを手に入れると、一瞬でちょっとしたお金持ちになれるというわけだ。
ちなみに、元々ゴールドを沢山持っている人が倒したら30万から10万くらいに下がるらしい。
運営がこのイベントを開催した理由が、脱初心者をして欲しいからだという。
しかし、初心者応援イベントだからといって舐めてはいけない。
まず、そもそも金のスライムが見つからない。そしてそう簡単に倒せるとも思えない。
初心者応援イベントのはずが少し矛盾している。
『金色のスライムイベントは、午後10時から11時までの一時間限定イベントです。ぜひともお楽しみください』
* * *
「お待たせしましたー!」
元気な声を発しながら軽装備のメリルは走っていた。
メリルが向かっている場所は、三時間程前に知り合った同じ初心者。
「ワルオンの夜の風景も素敵ですね」
「こんな綺麗な夜空が見れるのも……、システムのおかげなんだもんね」
「そういえば自己紹介をするのを忘れていました。では私から、ユイ。覚えやすいでしょ?」
「メリルです。実は生まれて初めてゲームをやるのでゲームの基礎すら分かりません」
(最初の広場にいると、ずっとここにいる人をよく見かける。このゲームを本気で遊んでいる人も多々居そう)
「メリーでもいい?」
こっちの方が言いやすいと共感した。
私も最初はメリーという名前にしようとしたが、ヒツジがプレイしているみたいで止めた。
「全然メリーで大丈夫です」
「メリーも金のスライムイベントをやる?」
「もちろん、やりますよ!」
このゲームをもっともっと楽しむには、まずは自分のレベルを上げなければいけない。
「メリーは武器を持ってないのですか?」
モンスターを狩るには武器が必要。
しかし鍛冶師は素材を集めて武器を作る職業だけであり、初期装備であるナイフすら持っていない。
「鍛冶師の初期装備は何も無くて……」
鍛冶師はハズレだったのかもしれない、としみじみと思った。
ちゃんとしていれば、と心の中で思い少しため息をつく。
「なら、イベントが始まる前に一本ナイフを買いましょ!」
ユイはどこの店に行くとかの迷いはなくメリルの腕を掴み、全ての職業の武器、防具が揃っている店へと走って向かった。
ほんの少し走ると、あっという間に着いた。
「いらっしゃい。何が必要だ?」
店の中に入り、目の前にあったナイフを指差す。
「初期ナイフを一つ。いくらですか?」
「600Gだ。初心者の初期ゴールドでも買えるだろ?」
初期ゴールドの1000Gを使い、残り400Gだけ残ったが、これでイベントの準備は出来た。
『緊急お知らせだよ♪』
届いたお知らせ内容を確認すると、今日開催されるイベントが増えることであった。
金色のスライムイベントと別に、銀色のスライムイベントの両方がスタートするらしい。
そしてもう一つ、イベントの開始時間が30分短くなり、午後9時30分からの開始になった。
「ユイ! もう9時28分!」
「もうすぐ始まりますね!」
「ですね!」
「カチ……カチ……カチ……」
時計台の針が小刻みに動き出し、針が9時30分になった瞬間に鐘が鳴り始めた。他のプレイヤーも一斉に動き始め、ワルオンの初イベントがスタートした。
無論手当り次第探す方法では、金のスライムと銀スライムなんて見つかるわけが無い。
「メリーあれって……、」
イベント開始から約八分後、何かに気づいたユイは奥の方を指していた。
そこに現れたのは一匹の金スライムと銀スライム。
そして、ユイのあまりの運の良さに疑うメリルがいた。
「凄い、凄い、凄い――!」
メリルはその場で飛び跳ねながら嬉しさを表す。
金のスライムだけかと思ったが、二人の前に現れたのは金銀両方のスライム。
イベント中にこんな珍しい事は滅多に起きない。言ってしまえば、宝くじの一等に当たるほどの確率である。
「ナイフ当たるかな……?」
「銀色スライムは経験値十万もらえるんです!」
金スライムはゴールドが30万手に入るが、銀スライムの場合は経験値を十万手にすることが出来る。
その為銀スライムの方が出現確率はかなり低い。
「私は正面から行くのでメリーは、後ろに回って倒してください!」
「分かりました!やってみます!」
メリルは草の中へと隠れ、ゆっくりと歩き出し背後に回った。そして片手に買ったばかりのナイフを手にし……、
「今です!」
「当たってお願い!」
ナイフを適当に振り回してみるが、もちろん当たるはずがない。
普通のスライムなら誰でも当てることができるが、金銀スライムはそう簡単に上手くいかない。
「今度こそ――!」
再びナイフを振り下ろしてみるが、簡単に金銀スライムはぽよよんと上へと逃げた。
「避けた!?」
ビックリしている間の隙を狙って、二匹の金銀スライムは逃げ出した。メリル達は逃げ出した金銀スライムを必死に追い掛けるが、全く追いつけそうになかった。
「こうなったら……、ユイ! ナイフ貸して!」
ユイから受け取ったナイフをもう片方の手で持った。そしてナイフを金銀スライムの方へ思いっきり投げる。
メリルの投げた二つのナイフが、綺麗に金銀両方のスライムに刺さったと思ったが、見事なことに金銀スライムは弾力性でナイフを弾き飛ばした。
「そんなことある!?」
「流石……、弾力性に優れているスライムですね」
「スライムは褒めなくてから――!」
「とにかく追いかけましょう!」
(金銀スライムを追い掛けたいけど、このままじゃ絶対に逃げられてしまう! どうすれば金銀スライムを仕留めることができるんだー!)
「メリー! いい方法思いついた!」
何かしらの方法を思いついたユイは、そのままメリルを抱え持ち始めた。
「ユイ!? 私をどうするつもりですか!?」
「私がメリーをぶん投げるので、このツルハシを使って金銀スライムを倒してください!」
「分かりました……!?」
「メリー! ぶん投げますよ! 後はよろしくお願いします!」
ユイは中腰になり、抱えていたメリーを思いっきり金銀スライムの方へとぶん投げた。
(ツルハシ使ったことないんですけど、えっ、これってどうやって使うんですか!? もー分からない! とりあえず適当に振ってれば当たるよね!?)
物凄いスピードでメリルは宙を舞い……、
「とりゃあ―――!」
宙を飛んでいるメリルは、ユイから受け取ったツルハシを適当に振り回した。
そして振り回したツルハシが奇跡的に金銀スライムに当たった。
「ユイ! やりました!」
「流石メリー! 頼れる人ですわ」
「ユイだって、あんな馬鹿力凄いですよ!」
『レベルアップ Lv1→Lv24』
銀スライムを倒したことにより、一気にレベルが上がった。
「イベントクリアー!やったぁー!!!!」
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